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親友

 頭をハンマーで殴られたような衝撃だった。言葉を放ったオニ監督の権藤も、冷静さを装ってはいるが、悲しみと驚きを隠しきれない様子だった。


「ということだから、新人戦は新たなメンバーでチームを作ることにする。葬儀は明後日の午後一時からだ。制服をきちんと着用して、教室に集合するように」


 信じられなかった。だって、昨日の帰り道、あいつは確かにいた。そして、ふざけながらも、新人戦の作戦を練ったのに。どうして……。


 しめやかに葬儀は行われた。クラスメイトの女子は啜り泣き、誰もが若すぎる死を悼んだ。

 しかし、そこにあいつの姿がないことに、少しホッとした。

 遺影の鈴ちゃんは少し幼くて、何だか現実味がなく、おばさんはとても幸せそうで、またいつものように声をかけてくれるんじゃないかという気がした。

 おじさんが一人きり、寂しそうに、しかし毅然として喪主をつとめている姿は辛すぎて、何も出来ない自分に腹が立った。


 帰り際、一人一人に挨拶するおじさんに呼び止められ立ち止まると、涙が堰を切った様に溢れてきた。


「洋平君、(けい)をよろしく頼むよ」


 肩に置かれた手は、震えていた。


 顔がパンパンに腫れ、内蔵もかなり傷付いていて、生き残ったのが奇跡だと言われた。兎に角、意識が戻るのを願いましょう、と医者が言い、みんな、毎日祈った。

 洋平が呼び掛けて、学年の皆で千羽鶴を折った。おじさんはとても喜んでくれた。

 新人戦は惨敗で、やっぱり慧がいないと話しにならなかった。

冬が来ると、顔や体の腫れは引き、元の慧に戻った。でも、いつまでたっても目を醒まさなかった。

 春が来て、夏前の県大会は予選落ちに終わり、何かに急き立てられるように受験シーズンに差し掛かった。難しいと言われたバスケの名門校を目指し、スポーツ推薦で漏れたので、一般入試に向け死に物狂いで勉強した。慧ならどちらにしろ、余裕で通るだろうと思った。今、あいつのために出来ることは、とにかく一生懸命生きることだと、今まで生半可だった生き方を変えたかった。

 やがて努力の末、憧れの高校生になった。バスケに思い切り打ち込む毎日。いつもどこかで慧の顔が浮かぶ。中途半端なことをしていたら、叱られそうだから、何事も全力投球で挑む。



 変わらない慧の寝顔を、洋平はぼんやりと見詰めた。


「こいつ、めちゃくちゃ努力してたんだな」


 それに対して穂花は、


「そんなことにも気付かなかったの?」


 と、少し怒った。

 え? と、洋平が慌てる。


「私ね、知ってたんだ。部活のない日に、宮本くんが自主練してること」


 穂花は、愛しそうに慧の髪に手をやった。


「いつも人の見てない所で頑張ってるんだよ。そういう人なんだよ。今だって――」


 洋平は何だか悔しくて、恥ずかしくて、慧から目を逸らす。


「私、まだ返事貰ってないんだよね」


「何の?」


 と、洋平が訊くと、穂花は「何が?」と言ってはぐらかした。


「ねぇ、お腹すかない? 帰りにマック行こうよ」


「お、おぅ」


「宮本くんも、行こうね。歩けるようになったらさ、行こう」


 二人は、慧の脚を摩りながら、いつか本当にそんな日が来ることを心から願った。

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