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ここで生きていく

 長老は花子から瞳を受け取ると、フウ、と息を吹き掛ける。すると手のひらからじんわりと白い光が溢れ始めた。光は徐々に大きくなり、花子を包んでいく。

 その場にいた人々は、不思議な光景に目を凝らした。

 全身を光に包まれた花子は、少しずつ姿を変えていく。ゆっくりと、それでいてきめ細かく肢体が蠢いている。

 やがて長老が強く息を吸い込むと、瞳は灰になり、ハラハラと崩れ落ちた。それと同時に光も薄れていき、中から人の形をした女が姿を現した。

 首から下の浮腫は消え、滑らかで美しい肌をしている。ケイは目のやり場に困って、下を向いた。


「お嬢さん、あなたは沢山の苦労を魂に刻み込み、更に人間の尊厳を奪われ、蛇となった。しかしここに光の祝福を受け、人に戻った。あなたの瞳と引き換えに、脚を手に入れ、更にもう片方の瞳を他人の幸福の為に犠牲にしたことにより、浮腫は消えた。今日から我々の友として迎え入れよう」




 その夜、ケイと花子は、ベッドを隣にした。

 様々なことが意識を巡り、なかなか寝付くことが出来ない。

 ケイは、どうしても聞きたかったことを聞いてみた。


「どうやって、あの河を渡ったの?」


 花子も目が冴えているようで、体は横たえたままだが、ハッキリした声で答える。


「トンネルを通ってきたの」


 トンネル?そんなものが存在するなら、なぜ二年も囚われ、羽を手に入れなければならなかったのかと疑問が生まれた。

 首を傾げるケイに、花子が言った。


「先生が掘っていたのを、知っていたから」


 なるほど。そういえば、あのモグラはどうしているのだろうか。花子が逃げてきたということは、彼に何かあったのか。


「ケイも、辛いことが沢山あったのね。ここで再会出来るなんて、夢にも思わなかった。もう、リーズンに会って、この世界にはいないかと思っていたわ」


 少し嬉しそうに頬を染める。ケイは「僕も嬉しかった」と言った。そして、改めてお礼の言葉を伝えた。


「あのペンダント、君の目だったんだね。僕のために、本当にありがとう。それから、ごめんなさい」


 花子は微笑んで、首を左右にゆっくりと振り、


「あの時あなたがヤモリから庇ってくれて、本当に嬉しかったの」


 と、言った。


「盲目になってしまったけれど、人間の姿に戻れて幸せよ。やはり白い小人には、不思議な力があるのね」


 そう呟くと、寝返りを打った。


「ケイ、ここは、美しい?」


 そう言われ、今まで地下で暮らしていて、あのどんよりした森しか知らない花子に、この村の美しさを、どうしても見せてやりたくなった。


「美しいよ、とても」


 そうだ。

 僕が目になろう。

 彼女の目になり、代わりに世界を見て、それを伝えてあげよう。

 自分のために盲目になってしまった花子に対する、一つの責任のが、ケイの心を支配した。夜の闇に、一筋の光が決意のように射し込んだような気分だった。


「早く、リーズンに会えるといいわね」


 花子はそう呟くと、眠りに就いた。

 その可憐な横顔を見詰めながら、ケイはここに留まり続けることを決意した。

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