小人の歌
美しい自然や人々の優しさに触れ、ケイは生き生きとしていた。
ケイの役割は、木を斬り倒して薪を作ることと、農作業の手伝いと、もし病人が出た場合、医者の助手をすることだった。体が 大きく目立つから、狩りには行かなくていいことになっている。
力仕事には馴れていなかったのであまり役に立たなかったが、背が高いから皆に頼られた。
「ずっといてくれたらいいのに」
と、中年の女に言われ、戸惑った。何故リーズンに会わなくてはならないのか、分からなくなりかけている。ここにいたいという気持ちは次第に強くなり、小人に感謝され、その笑顔を見ることがとても嬉しかった。
ケイはある一定の年齢以上の女達の唇の形がおかしいことに気が付き、グイデに何故なのか訊ねた。
するとグイデは悲しい歴史を語った。
「昔、女は奴隷として連れ去られたのさ。だから少しでも醜い姿に見せるため、下唇に孔を開け、木で出来た丸い板を嵌め、歪めることにした。その名残が、あのおばあさん達の姿なんだよ。他にも色々ある。鼻に孔を開けて栓を嵌め込んだりもする。美しい人ほど、大きな栓を嵌めるのさ」
ケイによく語りかける中年の女も、下唇に穴が開いている。そんな歴史があったのかと、自分の浅はかさに嫌気が差した。彼女達を幸せにしてあげられるなら、自らの為にリーズンを探すよりも、全てを捨てて留まりたい。
少年の心は、大きく育とうとしていた。
どこからともなく、楽しそうなリズムと神秘的な音楽が聞こえてきた。
小人達は歌が大好きで、竹で出来た楽器を叩きながら、不思議なメロディーを歌う。一人が始めると、また一人、また一人と加わり、ハーモニーが派生していく。
ケイはこの音楽が気に入っていた。自分は上手く出来ないが、聞いているだけで浄化されていくのが分かった。
子供達が腰に葉を巻き付け、リズムに合わせて踊り出す。とても可愛らしく、微笑ましい。
やがて村人は一体となり、音楽は不思議と空間を一つにした。
「ああ、色素が欲しいな」
ケイの隣で少女が言った。
「本当は、私、真っ黒いかみなのよ」
自らの髪を手ぐしで解いて見せる。
ケイは頷く。
「金色の君もキレイだよ」
少女は満足そうに微笑み、「ありがと」と言うと、指を咥えてケイの瞳を覗き込んだ。
「ケイは黒いのね。そして肌は黄色いから、食べられなくても済むから、羨ましいな」
何と返していいか分からず、口許が歪む。それを察して近くにいた若者が、
「木の実を採りに行こう」
と、少女を連れ出した。
その時、村の入り口付近が騒々しくなり、皆は歌を止め、そちらへ移動し始めた。ケイも一緒になって歩き出す。
「こりゃたまげた。蛇だ」
老人が顎が外れそうなほど大きな口を開けて驚いている。
ケイは思わず背伸びをしたけれど、騒動の正体が見えない。人波を掻き分けて進んでみる。
門番が槍で制止しているのが漸((ようや)く見え、もう一度背伸びをしてみた。
(――――!)
ケイの胸が大きく震えた。まさか、ここで会えるなんて!
ドキドキする鼓動を押さえながら、小人を薙ぎ倒す勢いで、視線の先に見えるときめきに突き進んだ。




