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慈愛に満ちた村

 グイデに連れられ、集落を歩いて回った。出会う人々はやはり皆白く、小さい。しかし、誰一人として眉間に皺を寄せる者はいない。穏やかで優しく、慈愛に満ちていた。


「我々は、いつも命を狙われているのさ」


 グイデは池の畔のベンチに腰を下ろしながら言った。


「何故です? こんなにみんな美しいのに」


 ありがとう、と、グイデは笑い、少し影のある表情になる。


「我々は、白すぎる。元々は、白や、黒、黄色に別れて生活していたが、そのうち噂が立った。『白すぎる者の肉は、難病を治療する』というものだ」


「肉が?そんな馬鹿な」


 ケイは驚き、胃から酸っぱいものが込み上げてくるのを感じた。


「そう。私も真実ではないと思う。 しかし、人間は弱い。窮地に立てば、藁にでもすがりたくなる生き物だ。だから我々は、いつも命を狙われているのさ」


 穏やかな分恐ろしくて、ガタガタと体が震えた。

 グイデは続ける。


「ケイが池に飛び込んでくる少し前に、黒の襲撃があった。三人が拐われてしまった……。我々も外壁を厚くしたり、村を移動したりと、様々な手段を使ってはいるが、彼等はそれでも追い掛けて来て、仲間を殺してしまう」


 グイデの背中に、幾人もの魂が悲しみに包まれたまま苦しんでいる姿が映った。ケイはあまりの惨さに目を覆う。


「私は元々白だったから知っている。黒の裏にいるのは白だ。憎みたくても憎めない。そういう者が集まっているから、ここは差別などなく、みんな生きていけるのさ」


 なるほど、と、ケイは頷いた。

 確かに人間は、過ちを繰り返す生き物だと思った。そして、その果てに、学び、得るものがあるのかもしれない。


「ケイは、これからどうするんだい?」


 グイデは訊いた。

 ケイは少し迷った。

 リーズンに会うため、橋を目指していた。しかし、辿り着けなくて、大きく路線がずれてしまった。それと同時に、気力を失ってしまったような気がする。

 俯いて考え込んでいると、グイデは、


「まあ、ゆっくり考えるといい」


 と微笑んだ。

 ――ゆっくり。ゆっくりでいいのか――。

 ケイは、初めて感じる穏やかな心情に、このまま浸ってしまいたいと思った。ここなら暮らしていけそうだ。もう何もかも取っ払って、ただ、この人達を助けるため、ここで過ごしていたい。慈愛に満ちたこの村の一員になってしまえば、どれだけ幸福だろう。


「夕食の支度をしようか。さあ、ケイ、手伝っておくれ」


 ケイは立ち上がり、グイデの斜め後ろを歩き出した。

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