白すぎる集落
寝心地の良いベッドの上で、ケイは目覚めた。
もう少し寝ていたい欲求が支配して、なかなか体を起こせない。
ぼんやりと天井を見渡す。所々染みが着いている、木造の建物のようだ。嫌に自分と距離が近い。立ち上がったら、頭をぶつけるのではないだろうかと心配になる。
次に、背中を意識してみる。ふかふかの羽毛布団が敷かれていて、柔らかく肌触りがいい。
森に急降下して、落ちた場所は、小さな集落のど真ん中にある池だった。全身びしょ濡れになり、意識が遠退くなか、複数の村人に運ばれたことまでは覚えているが、どうやってここに寝かされたのか、記憶にない。
(ブーツはどこだ)
ケイは我に帰り、飛び起きた。足許は裸足のまま。身辺を探すが、ブーツは見当たらない。
頭を低い天井にぶつけるのは怖いので、ゆっくりと体を起こし、普通に立てることを確認してから小屋の外に出た。
緑が溢れた、美しい景色が広がっている。突き抜けた空は相変わらず紫色だったが、気持ちの良い明るさをしていた。
深呼吸してみる。爽やかな空気が肺を満たしていく。
その様子を見ていた村人が、ケイに話し掛けた。
「具合はどうだい?」
その姿を見て、驚いた。
恐らく年齢は、四十代ぐらい。しかし、ケイの胸辺りまでしか身長がない。おまけに色素がなく、肌も、髪も、透き通るように白い。
「元気そうだね。何か食べるかい?」
小人は優しく問い掛けた。
ケイは警戒するのをやめ、素直に頷いた。とてつもなく腹が減っていることを思い出したのだ。
小人の後を付いて行くと、先ほどのと隣の小屋に入っていった。台所の小さなテーブルの、飯事((ままごと)の様な椅子に案内され腰掛ける。小人は器に温かいスープを注ぎ、ケイに差し出し、
「ゆっくり食べればいいよ」
と言った。
一口、スプーンで掬うと、金色のそれは旨そうな香りを放つ。存分に嗅ぎ、口に運ぶ。
「コンソメスープみたいだ」
ケイが言うと、
「かつて白い人達に教わったのさ。旨いだろう」
と、穏やかに語った。
「あなたは、白い人ではないのですか?」
ケイが訊ねると、小人は首を横に振った。そして、
「両親は白かったが、私は白すぎたので、ここで暮らしている」
と、酷く悲しそうな目をした。
いけないことを訊いてしまったのかと、ケイの気持ちは沈んだ。
「私の名は、グイデ。導く者、という意味がある。君は何と呼べば?」
「ケイです。ミスター・ケイです」
そう答えると、満足そうに小人は頷いた。
そうだ、と思いだし、ケイは訊ねる。
「僕のブーツを知りませんか?」
するとグイデは立ち上がり、一旦奥の部屋へ立ち去ると、空色のブーツを持って来た。
「グシャグシャになっていたから、暖炉で乾かしたんだ。これは素晴らしい職人の手によって作られた靴だね。素晴らしい」
そう言って、ケイの足許へ丁寧に運んだ。
ホッとして、ありがとうございます、とグイデに言うと、嬉しそうに笑った。
「スープを飲んだら、みんなに君の無事を報告しに行こう。心配していたからね」
はい、と返事をして、残りのスープを飲み干した。




