蛙男
「なぜいけないんですか」
ケイが聞き返すと、駅員は失笑した。
「上を見なさい」
ゲートには、何か目印の様な物が着いているが、意味がよく分からない。
「いいかい、ここは白のゲートだ。あっちは黒、そっちが黄色。君は黄色のゲートしか通ってはいけない」
指差された方を見ると、確かに黄色いエンブレムの様な目印が着いていた。
「なぜ僕が黄色だと分かるんです」
問い掛けると駅員は少し怒った様な顔をして、ケイを諭す。
「君は私を担いでいるのかい。当たり前じゃないか。誰が見たって君は黄色だろ」
辺りを見渡してみる。どうやらゲートは、肌の色で分けられているようだ。ケイは更に訊ねた。
「じゃあ、あの人たちは何色なんですか」
収容所行きの列車に乗り込む人々を指差して訊ねると、駅員は罰が悪そうにして、チッ、と舌打ちする。
「奴等は色分けすらされないのだよ」
そう答えると、ケイを黄色のゲートへと押しやった。
人波がわっと押し寄せ、ゲートに飲み込まれる。そのまま流され、身動きが取れないままに煉瓦のトンネルを抜けると、近代的な都市が広がっていた。天まで届きそうに背が高いビルや、ビュンビュン走る自動車。人々は忙しく街を行き交っている。
(軍隊の駅じゃないじゃないか)
男達の大半は背広を来ていて、ケイは自分の服装を恥ずかしく思った。
しかし、ボヤッとしている暇はない。急いで何か乗り物を探さなくてはと、その場を後にした。
なかなか話を聞いてくれる人が見付からず、空腹に堪えかねてアーケードの途中に腰を下ろす。賑やかに店が営まれ、喧騒が支配している。
ケイは孤独だった。誰も、自分を知らない。話し掛けることすらされない。何故ここに自身が存在しているのか、いや、存在すらしているのか分かりかねた。
斜め向かいから下手くそなギターを掻き鳴らす音が聞こえ、我に帰る。目を凝らすと、サングラスを掛けている、蛙によく似た男が一人でいた。彼は何やら歌を歌い、誰からも相手にされていないにも関わらず、必死に思いを叫んでいる。その姿がとても滑稽で、ケイは力を振り絞って立ち上がると、重い脚を引き摺りながら蛙男の前に移動した。
「あなたはぁ~愛を~しんじぃますかぁ~」
「この世にぃ~真の正義などぉ~そんざいするのだろうーかぁ」
それほど音痴でもなく、メロディーは素直で美しい。ケイは目を閉じ、体を音楽に乗せた。
「ミサイルが~雨のよぅに~ふぅり注いで~
人々が~虫けらの~よおに死んでくぅ~
それぞれに~信じてる~正義を謳いぃ~
愛するもーの 守るためぇ 誰かを殺す~」
蛙男は歌い終えると、神妙にお辞儀をした。
「世界中のファンのみんな、聞いてくれてどうもありがとう。世の中はちっとも良くならないけど、俺、いつか歌で世界を変えてやるぜ!」
妙に格好を付けるので、ケイは、ふふ、と力なく笑いを溢した。蛙男はよれよれのティーシャツの皺を手のひらで伸ばしながら、ヒュウ、と口笛を鳴らす。ケイには目もくれない。そしてまた何事も無かったように、ギターを掻き鳴らし始めた。




