駅
一気に視界が開けた。
明るく、モダンな駅構内が姿を現す。
人々の視線は、ケイに集中した。口々に何かを囁き合っている。
「こんなところで何をしているんだ!」
駅員が慌てた様子でケイに近付き、一メートルほど上から手を差し出した。
ケイはそれに掴まると、ぐいと体を引き上げられ、コンクリートの上に倒れ込んだ。
「全く、近頃の子供はとんでもない遊びをするなぁ」
人の良さそうな駅員が、眉をハの時にしているのが何だか申し訳なくて、会釈をしておいた。
「本当なら保護者を呼ばなければならないが、今はちょっと忙しいんでね。ちゃんと家に帰るんだよ」
そう言い残し、慌ただしそうにホームを去って行く姿を、ズボンに着いた砂利を払いのけながら見送る。
立ち上がると、脚がパンパンに腫れていることに気が付いた。何日も歩き続けたのだから、そんなものか、と大して気にしない。それよりも、腹が減っていた。どこかに売店はないかと、駅構内をうろうろしてみる。煉瓦造りで、西洋を思わせる建物は、美しい半面、どこか気味の悪さを併せ持っている。
ケイは、ベンチに腰を下ろし、ぼんやりと辺りを見渡した。すると二つ向こうのホームに、長蛇の列が出来ていることに気が付いた。何人もの警察官のような人が立ち並び、監視している。行列の中の人々は皆、顔色が悪く、これから地獄へでも行くのかというような顔付きだ。
「彼らはどうなるんですか」
近くにいた鍔の広い帽子を被った女に訊ねる。
女は、突然声を掛けられたことに驚き、ケイに侮蔑的な目を向けた。
「収容所に送られるのよ。そんなことも知らないの」
そう言って高い鼻を更にツンと上げる。
ケイは驚いて訊き返す。
「ここも戦争をしているんですか」
女は更に馬鹿にした様な口調で、
「そんな野蛮なことを私達がするわけないじゃないの。彼らは自分達が前にしていたから、今度は反対に迫害されているだけよ。野蛮な人間達なの。私達とは違う」
と言うと怒って向こうへ行ってしまった。
収容所というのは、どこにあるのだろう。もしかして、地下に通じているのでは……。
ケイは頭をブルブルと振った。考えないようにしよう。あんな場所、思い出したくもない。
立ち上がり、出口を探すことにした。
鷹久は、何でもいいから脚を探せと言っていた。車か、馬か。
切符売り場の様な窓口が並んでいるのを見付け、その付近にいくつか出入口があった。小走りに近付き、外に出ようとすると、突然さっきとは別の駅員に止められた。
「おい、坊や。そこを通ってはいけないよ」




