子供じゃない
「あれ? 染谷じゃね?」
驚いた穂花の目が、大きく見開かれた。
「国定くん?」
卒業以来顔を合わせていなかった国定洋平に突然声を掛けられ、思わず大きな声が出てしまった。
「バイト?」
「うん、今帰り。国定くんは? 部活?」
穂花が訊ねると、洋平は少し擦れた笑顔で頷いた。
二人は駅から暫く並んで歩いた。小さな商店街を抜けて信号を渡るまで、返る方向は同じだ。
街はクリスマス一色で、どの店もささやかながら飾り付けが為され、シーズンに乗っかって売り上げを伸ばそうとの努力が垣間見える。
「背、伸びたね」
穂花が染々(しみじみ)と言った。
「あぁ、高校入っていきなり。まさかこんなにデカくなるとは思ってもなかったよ」
洋平がおどけた顔をし、穂花があはは、と笑う。
「染谷は、キレイになったな」
やめてよ、と照れ隠しに膨れた彼女は、本当にキレイだと洋平は思った。
「彼氏でもできた?」
まさか、と穂花は鼻で笑う。
「国定くんこそ、バスケ男子はモテるでしょ」
「モテてモテて困ってんだよな」
肩掛けのバッグの紐を掛け直しながら、明らかに中学生の頃とは違う声がふざける。
変わらないのに、変わっていく。
二人は何となく寂しさを感じた。
「染谷、ケータイ教えてよ」
洋平がポケットからスマートフォンを引っ張り出し、ロックを外しながら言うと、穂花も鞄から自分のを取り出した。
「番号言うよ」
間違えないよう、登録する。
そめたに、ほのか。
「ありがとう。近いうち、連絡すっから」
歩くたび、シャカシャカとジャージが鳴り、いかにも部活帰りの洋平が、穂花は羨ましく思えた。
「打ち込めるって、いいよね」
少し申し訳なさそうな彼を、真っ直ぐな目で見詰める。
一歩一歩、私達は大人に近付いているのだと、昔とは違う距離感に息を飲む。
やがて、別れ道の交差点に辿り着いた。
じゃあね、と手を振りかけると、洋平が呼び止めた。
「染谷!」
ん?
穂花が振り向く。
「俺、レギュラー取ったんだ! 必ず、全国大会行くって約束したから!」
思わず、おめでとう! と、叫んだ。
それぞれに、歩き出している。私も進まなくては。
手を振って去っていく洋平の背中を眺めると、夕陽が降り注ぎ、キラキラと光っていた。




