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切符

 ケイは、とりあえず頷いた。

 三人は顔を会わせ、目で語り合っている。

 暫くして、鷹久が口を開いた。


「あいつと、どこで出くわしたんだ?」


 犂月の優しい顔を思い出す。もしかして、この人達に会いたかったのではないかと、三人の切なげな顔を見渡す。

 ケイは唾をのみ、宮殿での出来事を語ろうとしたが、もしこの人達が彼の大切な者であったら、あの暮らしをどう思うか想像し、止めることにした。


「元気でやっているから、心配しないように伝えてくれと言っていました」


 小夏は涙を溜めている。


「河向こうで、一緒に働いていたんです。二年ほど。彼は僕の兄貴分で、優しくて、よく面倒を見て貰いました」


 そう、そう、と、小刻みに頷く小夏の手を取り、鷹久も涙を必死に堪えている。時雄がその隣で、良かったねぇ、と、母の背にしがみついた。


「潮は、小夏の弟なんだ。兵隊に徴られて戦地に行ったまま、ずうっと行方が分からなかった。お前の来ているシャツなんかは、あいつのもんだ。きっと喜んでるぞ」


 犂月兄の……。

 ケイは優しい兄者の温もりを感じた。


「父さん、母さん、僕達このままここで暮らそう。いつか潮おじさんが会いに来るかもしれない。白い光にならなくてもいいよ。ずっとこのまま、待っていようよ」


 そうね、と小夏は時雄の頭を撫でてやる。

(白い光になる?)

 ケイは、時折紫色の空の上を流れて消えていく、白い光の筋を思い出した。

――この世界は、何だかおかしい。

 徐々に違和感を感じ始めていた。だからといって為す術はない。今まで流される様にして、いつの間にかここへやって来たが、心の奥底で頭をもたげ始めている何かが、警鐘を鳴らしている。

"リーズンに会うのです"

 頻りに猫は言っていた。

 そろそろ、自分の足で前に進まなくてはならないのかもしれない。


「明日朝一番の列車に乗ります。鷹久さん、小夏さん、本当にありがとうございました」


 突然様子が変わったケイに、三人は微妙に狼狽えたが、鷹久はまるで息子にそうするように、ケイの頭を撫でた。


「行ってこい。後悔だけはすんじゃねぇぞ」


はい、と返事をし、しっかりと頷く。


「兄ちゃん、切符だよ」


 時雄がどこから持ってきたのか、列車の切符を出してきて、手渡した。


"行き先 岬大橋"


「ありがとう」


 どこへ行き着くのかは分からない。しかしケイは、この一枚の切符に未来を託してみようと思い、その仄かな灯りを握り締めた。

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