女王蜂の末路
森林地帯を過ぎ、虹色の河を越えると、街並みが広がっていた。
ケイは頭の奥の方に、鈍い痛みを感じたが、気にせず景色を眺めていた。
「女王蜂はどうなったんだろう」
ケイが訊くと、猫はフン、と鼻を鳴らした。
「彼女もまた、可哀想な生き物です。自らの憎しみを、三角形の頂点に立つことで弱き者を支配し、生きとし生けるもの尊厳を取り込み、夢を叶えようとしたのですが、そんなものでは魂は変われません。愚かです。何度でも同じことを繰り返すのですよ、魂は」
意味が分かるようで分からず、首を捻った。
「つまり、彼女は男を支配し、辱しめを受けさせたかったのでしょう。自分の受けた屈辱を味わわせようとしたのです。今頃は腑抜けになっているか、また新たな闇を造り出しているか、光に負けて消滅してしまったかのどれかです。あの宮殿での遊びごとは、これからも続いて行くはずですよ。世界からなくなりはしない、闇です」
筆下ろしの夜を思い出すと、ゾッとする。女王蜂もまた、何かに囚われていたのかと思うと、少し可哀想な気がした。
「何だか嫌な臭いがしてきましたね……」
猫は顔をしかめる。
「いいですか、ミスター・ケイ」
ケイは意識を集中させた。
今度は何が起きるのだ。
「私はこのまま、あなたを橋まで連れていきたいのです。しかし、何やら怪しい空気です。もしも私に万が一の事が起きても、私のことは放っておいて、橋を目指しなさい」
橋?そんなことを言われても、そんなものどこにあるのか検討も付かない。
「リーズンの気配を追えば大丈夫です。必ず辿り着けます。しかしね、なにせ時間がない。一年以内に、かならず」
突如、ガクリと猫の力が抜けたかと思うと、体勢は崩れ斜めになったまま急降下し始めた。
羽に揺さぶられ、体がぐいんぐいんと揺れる。視界に、次々とミサイルのような物が飛び込んでは消える。
(撃たれたのか! )
花弁のように、猫の血が舞い始めた。
両脇を掴んだ腕からは次第に力が抜け、ケイは真っ逆さまに落ちていく。猫はまるで、風に飛ばされた玩具の凧のように、遠く離れていく。伸ばした手が虚しく、ケイの体は地上に吸い込まれていった。




