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 美しい桜が、今年も咲き乱れている。もうこれで九度目の春になる。故郷の春はまだ寒かろなと、北国の景色を脳裏に描いてみた。

 一緒に売られて、別の郭にいた妹が、三日前に死んだ。起きてこないのを不審に思った禿が部屋を除くと、布団も畳も襖も血みどろになり、倒れていたようだ。小刀で首根っこを掻き切ったらしい。

 大店の跡継ぎとの恋に破れ、悲観したのだと言う。良くない噂は耳にちらっと入りはしていたが……。


『姉上 後生でありんす』


 ただ一言の筆を残して、何の相談もなく逝ってしまった。


「あちきも連れて行っておくれよ」


 頬を涙が伝い、桜が滲んで見える。

 さぞや男というものを恨んでいることだろう。

神様仏様、どうか妹を成仏させてやって下さいませ。約束したんでございます。いつか年季が明けたら、故郷へ共に帰ろうと。どうかどうか、恨みつらみの糸でがんじがらめに囚われて苦しむことなどないように。出来るなら、今度は、裕福な家の娘に産まれて来ますように。まんまの代わりに、売られてしまうことなどない、おっとうやおっかあと笑って暮らせる、あったかい家の。

 突き抜けるように青い空から、ハラリと桜の花弁が舞い落ちた。


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