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猫と羽

 かなり上空を飛んでいるのに、全く風はない。

 暫く二人は無言で飛行を続けた。空は相変わらず紫色をしているけれど、ケイは何だか懐かしくて、少しだけ温かい気持ちになっている。

 色々な事を思い出していた。遊男として暮らした日々。兄者達は、これからどうなるのだろう。毎朝の飯の味。馴染みの女の肌の温度。ヤモリや、花子の事。

 背中の猫の羽は、まるで飛行機の翼のようで、体は軌道に乗っている。


「何故僕を助けたの」


 ケイは少し不貞腐れた様に訊いた。

 猫は少し悩んで、


「あなたをリーズンに会わせることが、私の役割だからです」


と答えた。

 ケイはフン、と鼻を鳴らした。


 足下に、淡い虹色の河が姿を現した。あまりの美しさに、溜め息が漏れる。猫がその様子を見てフフと笑った。


「あれは、全部金平糖です」


 金平糖?と聞き返すと、猫はこっくり頷いた。


「向こう岸に渡り損なった者達が、河の中で金平糖になってしまうのです。遠くから観れば美しいですがね。ああなったらお仕舞いです。あのまま河から動けず、永遠にじっとしているか、誰かに喰われるしかないのですから」


 永遠に動けないことを想像すると、鳥肌が立った。


「河を渡るには羽がどうしても必要で、羽を手に入れるには、女王蜂に取り入るしか方法がないのですよ。ですから、手荒な真似をしました。ミスター・ケイ、あなたはよく耐えましたね。お陰で河を渡れます」


 猫は早口で淡々と喋った。ケイは曖昧に頷き、その為に払った代償に想いを馳せる。そこまでして会わなければならないリーズンとは、いったい何なのか。そもそも、この猫も、そして自分も、何者なのだろう。どこから来て、どこへ行くのだろう。


「裏切ったんじゃなかったんだね」


 猫は目を真ん丸にして驚き、快活に声を立てて笑った。


「言ったでしょう。私はいつだってあなたの味方だと」


 そして少し照れ臭そうにした。


「さぁ、先を急ぎますよ。残された期限はあと一年。早くリーズンに会わなくては」


 猫は背中を丸めると、ビュン、とそれを伸ばし、スピードを付けた。


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