リーズン Ⅲ
「ご飯だってー」
鈴が呼びに来る。
ノートを畳み、シャープペンシルをペンケースに仕舞った。
階段を降りるとカレーの匂いがした。
「遅いよ」
さっきの事を引きずっているのか、少し怒り気味だ。めんどくさいなと思いながら席について、テーブルの麦茶を注いで飲むと、心なしかすっきりした。
「どう?新人戦は。今年のメンバーはいけそうなの?」
母さんがお玉でカレーをつぎながら訊ねた。
「うん、まあまあかな。フォワードがちょっと弱いけど、調整すればいいとこまでいくんじゃないかな。地区大会は余裕だと思う」
鈴が配膳を手伝いながらブツブツ文句を言ってくる。どうしてこんなに気が短いんだろうと不思議に思う。
「今度洋平くんうちに呼びなよ。試合前に何か美味しいもん作ってあげるから」
そうだね、と返事をしながら、カレーを頬張ると、いつもより辛いことに気が付いた。
「母さん、ちょっと今日の辛くない?」
「お、さすが。鈴は全然分かんなかったのに」
更に不貞腐れて、もうお茶ついであげないから、と言われた。
「そうだ、今日はお父さん駅まで迎えに行かなきゃなんないから夜中いないよ、私」
そういえば、今日は父さんが出張から帰って来る日だということを思い出す。
「えー、私も連れて行ってよ。自転車の鍵、何とかしてくれるって言ったじゃん」
あ、そうだったわね、と母さんが言う。
「じゃあ俺も。靴紐見たいんだよね」
「自分で行きなさいよ、あんたは自転車壊れてないんだから」
またしても突っ掛かってくる鈴を宥めながら、母さんは頷いた。
「じゃあ八時には出ようか。それまでに宿題済ませなさいよ」
うん、と返事をして、残りのカレーにスプーンを運んだ。




