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彼の苦しみ

 まただ。

 夜中。静まった僕の寝室に、母さんがやって来た。僕は身を固くして、寝たふりを続けている。

 ゆっくりと布団の中へと潜り込んで来た。そして、彼女が僕のズボンをずらし始めると、嫌悪感が全身を包んだ。


 この儀式は、僕が中学に入った頃から始まった。

 母さんが布団に潜り込み、僕の男性の部分を求めてくるようになった。

 理由はよく分からないけれど、毎晩決まって夜中に僕は犯されるようになった。

 ただ、射精してしまうことが死ぬほど嫌だった。


 ある夜。父がそれに気が付いた。


 怒り狂った父は母に暴力を振るった。何発も殴り、蹴り上げて、髪を引っ張って床を引き摺った。

 僕は恐ろしくて家を飛び出した。


 真夜中の街は静かで、まるで別世界に迷い込んでしまったようだ。

 僕は全力疾走する。

 ハァハァと息が上がってくる。

 これで、あの儀式から解放されるかもしれない。

 やっと。

 やっと、自分らしさを取り戻すことが出来る。




 父親と話し合い、家を出ることにした。これからは一人暮らしをする。もう二度と母が夜中にやって来なくて済むように、暫くは居場所も教えないし、鍵も渡さない。


 玄関で靴を履く。

 キャーリーケースに荷物を詰め、部屋を綺麗さっぱり片付けた。

 母さんは泣いて追いすがった。


「ハルくん、いっちゃうの?」


 寂しげに何度も呟いている。

 僕はそれを振り払い、自由な世界に解き放たれた。




『ニュースをお伝えします。昨日未明、市内の木造アパートの二階で、母親、寺尾美子てらおよしこさん四十五歳と、息子、寺尾春斗てらおはるとさん十七歳の遺体が発見されました。二人とも首を締められた跡が残っており、何者かによって殺害された可能性が高いということです。容疑者は息子の父親で会社員の寺尾修吾(てらおしゅうご)四十八歳、取り調べに対して黙秘が続いているとのことです。事件は謎に包まれていますが今後進展があり次第、報道をして行きたいと思います。続きまして……』



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