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止まった時間

 宮本祐治は、ぼんやりと窓の外を眺めていた。病室は三階にあり、眼下には街並みが広がっている。高速道路、住宅地、公園。犬の散歩をする婦人、ランニングする中年の夫婦、学生達。バス停から乗ったり降りたりしていく人波。二十四時間、景色は何かしら動いているが、宮本にとってはまるでテレビの中の別世界を覗いているように写っている。

 喪失感がどうやっても拭えない。何十年か経てば、少しは傷が癒えるだろうか。誰か、どうにか救って欲しい。

 足掻いても仕方がない。今は穏やかに淡々と過ごすだけだ。毎日ここへ来て、全てを傍観する。それしか、ない。


 そういえば、今日はあの看護師を見ないなと、宮本は思う。いつも親身になってくれて、ありがたい。看護師が皆あのような人間なら、日本の医療は大きく変わるだろう。

 花瓶のコスモスを、彼女は褒めていた。秋の桜とは、よく言ったものだ。今では黄やオレンジの物もよく見掛けるがピンクや白が、やっぱりいい。家内もそう言っていた。

 胸が掻きむしられるように痛んだ。思い出すと、やはり辛い。もう、コスモス畑を共に観に行くことも出来ないのだ。

 宮本は目を潤ませた。


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