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写真の少女

 気が付くと全身はびっしょりと汗に濡れ、やはり悪夢の途中に目が覚めたのだと気が付く。

 事故から、約一年が経った。

 土木作業の肉体労働者として雇ってくれる会社があり、何とか働きながら、遺族に毎月送金している。いつになったら全額支払えるかは分からないけれど、今はただひたすら働き続けることでいくらか気持ちが救われている。

 ただ、どうしても面会に行けない。会って、謝罪したい思いはある。手紙は何度も書いている。ただ、勇気が出ない。怖がっているのだ。高村は、自分でそれを分かっている。子供だと思う。しかし、現実を認め、受け入れることは恐ろしい。


「おい、兄ちゃん、一杯付き合うか」


 髭面の親父が声をかけてくる。高村は、軽く微笑んで会釈をした。するとその隣にいたタオルを頭に巻いた男が、あいつは飲まねぇよ、と言った。

 元々、嫌いだった訳ではない。付き合いで飲むことはよくあったし、疲れた時の一杯がたまらなく旨いと思うこともあった。でもあの事故以来、全く飲む気がしない。


 部屋へ戻り、簡易ベッドに寝転がる。天井には染みがいくつか出来ている。

 ここの社宅に越してきて、約半年。必要最低限の生活用品を残し、家財道具は売り払った。仕事もだいぶ覚えられたと思う。周りは割と親切な人ばかりで、少々癖はあるが、よく世話を焼いてくれる。


 高村は、机の引き出しを開いた。そこから一枚の写真を取り出すと、ぼんやりと眺めてみる。中学三年生の修学旅行の集合写真だ。これだけは、ずっと捨てずに持っている。思い出にすがっても何もいいことはないのだけれど、この頃が自分人生において、一番幸せな時間だったかもしれない。もう二度と戻れないけれど。


――元気にしているだろうか。


 高村の胸に、一人の少女が浮かんでいる。彼女は前から二列目の、右側の端に写っている。色白で、髪は左右二つに結ばれていて、楽しそうに微笑んでいる。その対角線上に、はにかんだ笑顔をした幼い自分がいた。

 こっそり手を繋いだ日。産まれて初めてキスをした日。夕暮れの帰り道。全て懐かしい。

 もう二度と会うこともないだろう。今どこで何をしているかなんて、知りようもない。ただ――。

 彼女なら、今の自分を見たらなんと言うだろうか。こんなみすぼらしい男でも、あの日々のように優しい目で見詰めてくれるだろうか。


 高村は、再びベッドに寝転がった。儚い思い出は、天井の染みと重なりながら、意識の奥に落ちていった。


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