リーズン Ⅱ
A組の染矢穂花が告白してきたのは、放課後。夕陽が射し込み、体育館が影を落としていた。顔が真っ赤で、とても可愛かった。前からいいなと思っていて、正直嬉しかったのだ。
返事は保留にした、と洋平に告げると、肩にパンチが飛んできた。
「馬鹿か? お前は。直ぐにでもオッケーしろよ!」
「そう言われても……」
来月には新人戦があるし、今はバスケに集中したい。それに、付き合うっていっても、具体的にどうすればいいか分からないし。
「可愛いと思うんだろ?」
頷いてみる。
「気になるんだろ?」
「まぁ……」
「だったら!」
勢いよく迫る洋平を軽く交わしながら、机の中の教科書を鞄に仕舞っていく。
「早く行かないと、部活。遅れるぞ」
洋平は頭をかきむしりながら怒っている。
「っあー、いいよな、余裕のある奴は」
余裕なんてものはない。だからこうやって悩んでるんじゃないか。
「早く返事してやりなさいよ」
鈴にも全く同じように、肩にパンチをくらわされる。
「そんなの、生殺しじゃない。好きなら好き、嫌いなら嫌い、ハッキリしなさいよ」
嫌いじゃないんだけど……。
女子の情報網は半端ない。どうして違うクラスで違う部活なのに、知ってるんだろう。溜め息を吐くと、二度目のパンチが飛んでくる。思わず手で拳を受け止めると、反対の手で殴ってきた。
「なによ、このバスケ馬鹿!」
「いってぇな」
「どれだけ勇気を出したと思ってんのよ! 大変なことなんだからね! あの子、一年生の初めから、ずっとあんたのこと好きだったんだからね」
「え」
「早く返事しなさいよ」
バタン、とドアが勢いよく閉まる。
――そんなに長い間、思っててくれたのか。
意外だった。
染矢といえば入学当初から可愛いと評判で、誰がアタックしても粉々に砕けていて有名だった。
ソファーに深くもたれ掛かる。染矢の顔を思い浮かべてみると、胸が高鳴った。新人戦が終わったら考えてみてもいいかもしれない。それまで待ってくれるだろうか。逆に断られるかもしれないけど。とにかく明日、そう返事をしよう。