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書けない遺書

 玄関のドアノブにフェイスタオルを括り付けた。ほどけないよう強く引っ張って確認する。ゆっくりと立ち上がると高村は部屋の中をぐるりと見渡した。もう、思い残すことは何もない。死んで楽になろう。そう思った。

 ドロリとした脂汗が背中を伝っていく。高村は正座し、両手を合わせた。早死にした両親の顔が浮かんでくる。親戚の援助で中学をなんとか卒業してからは、社会に出て一生懸命働いた。お陰で立場を与えられ、会社の為にと必死にやって来た。思えば、両親との死別以降約二十年、誰かに本当の意味で心を開いたことなどなかったかもしれない。こんな時、誰かにすがることが出来たら、運命は少し違うのだろうかと高村は思う。でももう仕方がない。時は戻らないのだから。

 (遺書を書いてなかったな……)

 ふと気が付き、玄関からリビングへ移動する。机の上のメモを一枚剥がし、床に転がっていたボールペンを手に取った。手が小刻みに震えている。――誰に、何を書けばいいと言うのだ。身寄りもない。俺なんかが死んで、誰が悲しんでくれるんだ。誰もいない。誰も。だったら、遺書など何の意味があるのだ。こんなもの。

 高村は、メモ帳をビリッと破いてゴミ箱に捨てた。いつしか、頬には涙が伝っている。嗚咽を堪えきれなくて、がむしゃらに胸を掻きむしった。


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