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MATTO-A5 ~リトア編~  作者: 咲之美影
初恋は甘く切なく罪の味がする
14/25

★NO.sette――何度でも結び直す フィロー ロッソ

 

 フェスティーノ祭から一週間、つまり大神から『アッディーオ』と告げられて早七日経った。


 (……大神)


 彼女は自分が初めて愛した女だ、初めて共にありたいと願った女だ。一方的な別れに優しく頷ける程、俺は聞き分けの良い大人ではない。


 (ごめんね、大神……。きっと理由を知っても俺は……、キミを諦めきれないよ)


 往生際が悪いのはわかっている。一人の女に縋りつく行為は男として格好が悪い、その光景は無様で滑稽だ。


 けれど俺は、誰に嘲笑され貶されても構わない。孤独の果てで見つけた彼女を手放さずに済むのなら、傍にいられるのなら、プライドだって何だって捨てられる。


 だからもう一度、変わらぬ想いを彼女に伝えたい。もし彼女の気持ちが自分になくても、振り向かせる自信は――愛を取り戻す自信は――ないはずがない。


 しかし俺はこの一週間、見事に空回っていた。秘密の場所で大神を待つものの、肝心の本人が当然と言うべきか現れないのだ。


 ――貴方と会う気は今後、一切ないわ。


 「……ハア」


 大神が去る直前に残した言葉を思い出し嘆息する。本当に二度と会わないつもりなのだろう、ただ時間が過ぎるだけの現状に焦った。


 そして悩んだ結果、いまに至る。


 「――リトアよ、聴いておるのか」


 「ええ、しっかりと」


 俺は香ばしい匂いを漂わす紅茶を啜り、眼前で異彩放つジョバンニ・カインに微笑んだ。実は状況を打破する良い案が浮かばず、手っ取り早い手段でジョバンニの屋敷へ出向いていた。現在、事前の連絡無しに訪ねた非礼な行動で怒られている最中だ。


 「貴殿は自身の立場を軽視する癖があるのう」


 「ハハッ、私は逸れ狼ですよ?」


 「彼奴の血を流す以上、『掟』は重視せよ。両協会が定めた規定、我に破らせた罪は重いぞ」


 ジョバンニは血族の宝血、俺は狼族の王血、確かに両者は戦場外及び特例外で接触は許されない。


 「突然の訪問に関しては謝罪致します、誠に申しわけありません。ですが貴方も私も口は堅い、口煩い協会にわざわざ『告白』はしないでしょう?」


 俺は首を横に傾け、微笑する。つまるところ、回りくどく隠蔽を唆した。


 「…………」


 冗談のようで本気の口調に案の定、ジョバンニの目尻が吊り上がる。


 (……うん、貴方らしい反応だね)


 血族は意志強固で志が高い。秩序や規律に忠実だ。それ故、柔軟性に欠ける部分がある。恐らく彼は首肯しない。


 (やっぱり隠せば済む、は短絡的考えに受け取られたかな。別の手段で丸め込むか……)


 と思った矢先、ジョバンニが相槌を打った。


 「仕方あるまい」


 「――――」


 あっさり賛同を得られ、思わず瞠目する。


 (規定に倣わない宝血……、意外だな)


 だが自分の予想は良い形で裏切られた。余計な追及はせず素直に喜んでおこう。


 「痛み入ります。血族を統べる宝血、ジョバンニ・カイン」


 「若輩者がくだらん世辞はよせ――で、我を訪ねてきた用件は何だ?」


 「お礼を言っているのに酷いですね」


 「リトア、用件は何だ」


 再度、鋭い眼差しで催促された。尖る銀色の瞳孔はかなり冷たい。


 一滴の沈黙が跳ねた。俺は窓の外に目を移し、足を組み直しつつ答える。


 「滞在期間を一年、延長したくお願いに」


 「事由は何だ」


 即座に先を促され、角が立たない言葉を選んだ。


 「パレルモが気に入ったんです」


 「ほう?」


 「役目も終えましたし暫く、こちらで保養させて頂けませんか? もちろん、出された条件は謹んで呑みます」


 そう言って、俺は視線を正面に戻した。滞在期間を延ばす申し出は自分の記憶が正しい限り異例だ、厄介な要望を吹っかけている自覚はある。それでも一日、一週間、一カ月、半年、一年、大神がいる『ここ』に留まりたい。


 「お願いします、ジョバンニ」


 「うむ……」


 指先で顎を擦るジョバンニは渋い表情だ。だけど一拍後、ふっと鼻で笑い了承の返事をくれた。


 「よかろう、貴殿に恩を売るのもまた一興だ」


 「ありがとうございます。必ず貸しは返します」


 何とか大神と首の皮一枚で繋がる。運命の輪が千切れずに済んだ。


 「良かった……」


 赤い糸は切れていない。ジョバンニの返答に安堵の胸を撫で下ろした直後、危機迫る勢いで扉が開いた。二人の男がどっと部屋へなだれ込んでくる。


 「ボスッ! 大変です!」


 突如、悲愴な声が響き渡った。顔面蒼白で慌てふためく二人はジョバンニに駆け寄り、荒い息遣いのまま耳打ちし始める。只ならぬ様子だ。


 (バレアリ通り……廃屋、雑種、混戦……、火事、非難……死者、人数……、ユウマ、ニジ、ツクヨ……)


 俺は二人の口の動きを盗み見、発話の内容を読み取った。次々に挙がる名前に胸騒ぎがする、バクバク脈打つ心臓の鼓動で頭が痛い。


 (大丈夫、彼女は……)


 拳を握り淡く信じた瞬間、二人が零す単語に世界が崩壊する。一瞬のしじま、気がつけば俺は屋敷を飛び出していた。


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