探偵ビームズは決めるトコ決めたい
たまには書きたいシリアスな長編・・・
今回もギャグです!!オール!!
「以上のトリック、そして十分過ぎる動機から、犯人はあなたです!! 小笠原さん!!」
「うおぉぉぉ……許してくれ!! こうするしかなかったんだぁ!!」
「いやあ、今日も見事な推理でしたねビームズさん」
パンパン……。乾いた音を鳴らしながら歩み寄ってきたのはすっかり顔馴染みの鬼山刑事である。
「鬼山刑事……いいえ。今回は本当に運が良かっただけだわ」
「またまたご謙遜を……そうだ、ビームズさん。事件解決を祝して、このあとお食事でもどうですか? たまにはパーッと……」
「鬼山刑事……何を勘違いしているのかしら? まだ事件は終わってはいないのよ?」
「な、なんですって……?」
そう言って、華麗に髪をかき上げた探偵ビームズ。困惑する鬼山刑事の脇を通り抜け、迷う事無く出口へと向かっていく。
「ちょ、ちょっと!! どこへ行くんですか、ビームズさん!」
「決まってるでしょう?」
ビームズは背を向けたまま、ピッと指を頭上に指し出す。
「これから家で夫と対決なのよ。密室のスペシャリスト……夜の名探偵とね……? アディオス!!」
「……ぇ………」
そう言い残して、彼女は颯爽と豪邸を後にしたのだった……。事件さえ解決すれば、二の句を告げず早々に立ち去ってしまう。その優麗な後姿こそ彼女がそよかぜ探偵と呼ばれる由縁である―――――。
「…………」
「ていうか絶句かよっ!!!」
「ええええぇぇっ!!」
玄関の陰に隠れていたのか、ビームズはひょっこりと顔を出して怒鳴った。
「なにやってんの鬼山さん!! 私うまい事言ったんだからちゃんとツッコんでよ!!」
「ええ……言いましたっけ……?」
「言ったよ!!」
「え、じゃあ『独身だろ!!』とか、『まだ十代でしょ!?』とか言えば……」
「ちっが~~うっ!!! そこは『ウワァ~オゥ~!』ってツッコむとこでしょ! 独身で悪かったわね!!」
「何故そんなアメリカンな必要が!?」
「クールな探偵に憧れているそうですよ」
爽やかな声に二人は振り向く。悠々と広間を闊歩しているのは、白いハンカチに手を包み込んだ青年だった。
「むっつりとしてるだけでなく、ああコイツギャグセンスもあるんだな、と味わい深いものをも聴衆に与える、そんな探偵に、だそうです」
「ワトスン!! 余計なこと言うなっ!!」
「ワトスンさん!! 今までどこへ!?」
「トイレですが」
「トイレって!! アンタ私が犯人暴いてるとこからずっといなかったでしょ!? アンタ助手でしょ!? 何しに来たの!?」
「いや、だって解決パートって暇じゃないですか。大体、得意げに犯人追い詰めてる探偵のドヤ顔が腹立つし……」
「名探偵の醍醐味とも言えるシーンですけど!? 今まで何のために私と駆け回ってたの!?」
上司相手を前にしてこの口の利き方。探偵ビームズの右腕、ワトスンである。彼は持ち前の観察力と神をも恐れぬ毒舌で、いつだってビームズの盲点を突いてきた。
「盲点だったよ!! 探偵がムカつくだなんて本当に盲点だったよ!!」
「ところでワトスンさん、今の発言は一体どういう……」
「そのまんまですよ。ほら、海外のアクション映画とかって、シメのセリフで主人公が『一番怖いのは戦争じゃねえ。ワイフとの夫婦喧嘩さ』とか言ったりするでしょ? アレですよ」
「ええぇー。あの酷い下ネタが……?」
「あなたが乙女心という物を分かっていない証拠ですよ」
「お、乙女心失踪事件……ッ!!」
「あ、今のちょっとうまかったですよ鬼山刑事」
ワトスンがパチンと指を鳴らしてみせる。
「うまくありませんよ!?」
「お、鬼山さん……この私を差し置いてうまい事言ったりして……酷い……!」
みるみる瞳を潤ませるビームズ。このメンタリティーの七変化ぶりこそ、彼女が七不思議探偵と呼ばれる由縁である。
「そうか……ポジションね……? 私のポジション狙ってんのね!? このしたたか者!!」
「なんなんですかアナタ達は……」
「うううぅっ……! くっそお~~!! 次は覚えてなさい!! 鬼山刑事!!」
「す……捨て台詞だと……」
がしがしと助手の足を蹴りながら立ち去る探偵の姿を、刑事は虚しく見送るのだった。
◆
「……みたいなニュアンスとそこはかとない理由で、あなたが犯人です!! 勝田さん!!」
「うおおおぉぉぉ……大体そんな感じなんだぁぁぁぁ!!」
「いやあ、まさかまた事件が起きるとは……」
パンパン……。乾いた音を鳴らしながら歩み寄ってきたのはどこか呆れ顔の鬼山刑事である。
「鬼山刑事……事件は新たな事件を招き、探偵は導かれるものよ……」
「必然……ですか」
「そう……。罪には裁きが。悪には正義が。そして穴には棒が刺さるのと同じようにね……」
「うっわ……」
殺戮の劇場と化した静かなる庭園に、穏やかな風が吹きそよぐ……。吹き抜ける風に流れるような長髪をなびかせ、空舞う木の葉、舞い落ちる花弁にその身を―――――
「絶句の方がマシよぅッ!!!」
「ええー」
「『ウワァ~オゥ~!』って言いなさいよッ!! 何ドン引きしてんのよ!! アメリカンジョークが分からないっていうの!?」
「そのセリフ、アメリカ人の前で言ったら殺されると思いますよ……?」
「ビームズさんはアメリカンジョーク=下ネタという愚かしい認識を改めるべきです」
嫌味がかった美声に二人は振り向く。悠々と庭園を闊歩するのは、タオルを引っさげた青年だった。
「しかもそのジョークは下ネタとしても最っ低のレベルです。そもそも全然うまくないし」
「アメリカンジョークと言ったら下ネタだって教えてくれたのはワトスンでしょ!?」
ビームズの右腕、ワトスン。彼は登場早々から、喚く主の唾を雨のように受け止めている。
「ワトスンさん!! 今までどこへ!?」
「銭湯ですが」
「銭湯って!!! 大分くつろぎモード入ってんじゃねえか!! アンタ私が血みどろの修羅道歩んでる最中に、浮世の垢を洗い流してるって一体どういう性根してんの!?」
「いや……暇ですし?」
「あくまでそれか!! ちょっとは言い訳してみなさいよ!! 私終いにゃ自信失っちゃうわよ!?」
彼女のネガティブ思考は折り紙つきなのだ。ちょっと気に入らないことがあるとすぐに一人で塞ぎ込んでしまうこの面倒くさい性質こそ、彼女が孤高の探偵と呼ばれる由縁である。
「まあ、僕の事はいいじゃないですか。それよりビームズさんの酷い下ネタについて……」
「酷い言うなっ!!」
「ワトスンさん。さすがにあの酷い下ネタじゃ、まともなリアクションなんて取れませんよ……」
「アンタも乗っかるの!? アンタの物腰の低さはフェイク!?」
「そもそもワトスンさんが吹き込んだんでしょう? それであの出来はちょっと……」
「あ~~っ!! アンタらなにぃ~~!? もしかしてアレ下ネタだと思ってんのぉ~!?」
「僕がよく指導しておきます。軽い下ネタだったら、後からチクチク罵ってやって調子こいた顔を羞恥の顔に歪ませる事も適うと踏んでいたのですが……。あそこまで酷いと下ネタに失礼というかなんというか……」
「うっわ恥ずかしっ!! 穴と棒って……ププッ! ゴルフのホールの話ですけどぉ~? えっ!? ウソ何想像してんの!? うっわキモっ!!」
「アンタは腐れ外道か!!」
「無視すんなぁぁぁぁーーーー!!! 無抵抗の私をこれ以上辱めるなぁぁぁーーーーー!!! わああああぁぁぁぁぁん!!! 覚えてろ鬼山ぁぁーーーー!!」
「もう品性の欠片もないなあ……」
瞳に涙を浮かべながら助手の背を押す探偵を、今日も刑事はやるせない気持ちで見送ったのだった。
◆
「貴方が犯人なんでしょもう!! 横山さん!!」
「うおおおぉぉ……なんかそんな気がしてきたぁぁぁ!!」
「もう大分やっつけですね」
パンパン……乾いた音を鳴らしながら歩み寄ってきたのは最早完璧に無表情の鬼山刑事である。
「んじゃ、早速今回の分お願いします。もうさっさと帰りたいんで……」
「…………」
「…………」
対極の位置にあるように見つめあい立ち尽くす二人をまるで―――――
「ワトスンッ!!!」
「はい?」
「うわあああああああぁぁぁぁん!!! ワトスンーーーーーーー!!! 来て!! 早く来てぇぇっ!!! 鬼山がああああぁぁ!! 鬼山のヤツが完璧に私を見下してるよぉぉぉぉ!!!!」
「えええええぇぇぇぇぇ」
本日のボロが出る早さはなかなかにスピーディだった。
「騒々しいですね。なんなんですか」
気だるそうな声に二人は振り向く。気だるそうに旅館の廊下を闊歩するのは、見た感じやはり気だるそうなワトスンだった。
「鬼山を見て!! 鬼山を!! この表情とかありえなくない!? 無表情とか!! 敬意の欠片もないよ!? しかもさっさと帰りたいとかほざいてるよ!? 数日やそこらでこんなに人のキャラって変わるもんなの!?」
「それは恐らくビームズさんのキャラが変わり過ぎてしまったことに大きな原因があると思いますが」
ワトスンは主の目潰しをひょいひょい避けながら冷静に答える。
「というかビームズさん、今回はいいんですか? 下ネタは」
「私の目指す所は下ネタじゃないよ!? アメリカンジョークだって言ってんでしょ!? 何を当たり前の如く!?」
「いやいや、どっちにしろ今日はまだ言ってないでしょ?」
「あー……あのですね、鬼山刑事」
ワトスンが申し訳なさそうな表情を浮かべながら、そっと鬼山刑事の肩を引き寄せる。
「多分彼女、今回ネタ考えてませんね。ホラ、この前の一件で下ネタがダメなんだと知った途端、急に塞ぎ込んでしまって……」
「あー、それで私の態度が悪いだなんだ言って話題のすり替えを……」
そこまで言って、刺さるような視線にぎくりと気づく。鬼山刑事が感じた気配は鋭い眼光を放つ探偵ビームズのそれであった。
「…………そうよ……。悪い? なにか問題あるの……?」
「はい?」
その瞬間だった。突如響く轟音。二人は咄嗟にビームズを見つめる。彼女の震える拳は壁に叩きつけられていた……。
怒りっぽく、なにかと周囲に当り散らす。そのはた迷惑さこそ、彼女が鉄拳探偵と呼ばれる由縁である。
「どうせ私は下ネタしか思いつかないのよっ!!! 下ネタならもう5個くらい思いついてたけど、また下ネタで突き通したらアンタ達からどんな侮辱をされるかと思うとビクビクして言えたもんじゃなかったから話題をすり替えたのよぅっ!! 何か文句あんのっ!? あんまウダウダ言ってると財閥の力行使してやるわよっ!?」
なんだかんだ色々言っておいて、困ったら最後は財閥の力に頼ろうとする。彼女が七光り探偵と呼ばれる由縁である。
涙をぼろぼろ流しながら喚き散らすビームズに閉口気味な鬼山刑事は、彼女を尻目に尋ねた。
「あー……そ、それで? 今回はワトスンさんは一体どこに?」
「いや、トイレですけど?」
「またトイレかいっ!!! なんで原点回帰してんのよ!! 次はどこ行ってたんだろってちょっと期待しちゃってた自分が恥ずかしいわっ!!」
「いいから涙拭いて下さいビームズさん」
びーびーうるさい探偵少女の顔に白いハンカチが押し当てられる。
「うううううぅぅぅぅぅぅ……ぐすん、ワトスンは許す……」
「上司の扱い方がお上手ですねワトスンさん……」
涙やその他諸々の液体でハンカチを汚しまくっているビームズから距離を置いたところで、ワトスンはそっと鬼山刑事を手招いた。
「なんでしょう? ワトスンさん」
「鬼山刑事……ヤバくないですか?」
「何がですか? いや、色々ヤバイですけど……」
「いや、そういうことじゃなくてですね。ホラ、考えてみてくださいよ。彼女、クールな探偵目指してるのに、下ネタばっか思いついてんですよ? しかも5個とか。『アメリカンジョーク=下ネタ』っていう私のアドバイスに縛られまくってんですよ……?」
「ええ、まあ……」
「しかも私達に貶されると思って、折角思いついた下ネタもいえないでビクビクして……でも同時に、いざという時は下ネタばかり思いついてしまうのだという自分のポテンシャルに気づき、自己嫌悪も感じていたことでしょう……」
「……あの、ワトスンさん?」
ワトスンは……息を荒げているのだろうか。その異様な様子に鬼山刑事は危険な雰囲気を感じ取っていた。
「そのうえ、私の一存で泣かせたり泣き止ませたりは思いのまま……。しかもこんなのが、私の上司なんですよ?」
「……あの」
「ねえ鬼山刑事……」
ワトスンがずいっと寄せた顔には、喜悦の表情が嫌らしく浮かび上がる。
「ゾックゾクしませんか……これって恋なんでしょうかね……? ふふ」
違います。断じて違います……それは恋とは最も程遠い、危ない感情です……。
鬼山刑事ははっきりとそう思っていたが、口に出して言ってしまう事にすら恐怖を感じていた。それ以上に、鬼山刑事の中の野生的な何かが『こいつらにはもう関わらない方がいい』と、はっきり語っていたのだ。
「ワトスン!! 帰るよっ!!」
言葉に詰まっていた鬼山刑事には色々と都合のいい一声が響く。
「次の事件では見てなさい!! 鬼山刑事!! 次こそアナタにクール&ユーモアな探偵ビームズの姿を見せてやるんだからっ!!」
そう怒鳴りつけて、ビームズはずびしっと指を突きつけた。その両目を真っ赤に染めて。
「ていうか、ビームズさん?」
「なによ! 鬼デカ!!」
ああ、次もこの不毛なくだりやるのか……。そう思うと、自然と鬼山刑事の口から言葉が転がり落ちていた。
「いや、なんというか……なんでそんなキャラにする必要があるんですか?」
「何を今更っ!? 前も言ったでしょ!? 私はねえっ……」
「いやいや、そうじゃなくて……。だってビームズさん、今まで十分クールだったじゃないですか」
そう言うとビームズは最初、ぽかーんと鬼山刑事を見つめていたが、不意に何かに気づいたようにみるみる顔を紅潮させていった。
「ばっ……!! な、何言ってんのアンタ!? ま、まさか口説いてんのっ!?」
「いや、全然」
「全然か!! あー清々しい!! ていうか、クールだけじゃダメだって言ってんでしょ!? ギャグセンスがなくちゃダメだから私はこうやって毎回毎回……」
「いや、だって今十分面白いことしてるじゃないですか」
「……あ?」
床をげしげし踏みしだいていたその足の動きがぴたりと止まる。
「『クールにスパッと事件を解決。なおかつユーモアも忘れない、むっつりしてるだけじゃない馴染みやすいイカした探偵』。そういう物を目指してるんでしょう? ビームズさんは」
「ま、まあ……」
「んじゃ、わざわざ決め台詞とかやんなくてもいいじゃないですか。今のままのビームズさんが、とてもクール&ユーモアだと思いますよ?」
「…………」
不意打ちともいえる鬼山刑事の意外な発言に、混乱したような表情でワトスンを見つめるビームズ。ちょっと話が複雑になるだけですぐに目を白黒させるこの姿こそ、彼女がリバーシ探偵と呼ばれる由縁である。
「ワトスンッ!!」
とうとう助手へと助けを求める。ワトスンは鬼山刑事をちらりと一瞥すると、納得した様子で短く答えた。
「んー。いいんじゃないですか?」
グッ!!
鬼山刑事は即座にグーサインを示した。さすがに探偵有ってその助手有り。上司の扱い方は本当に手馴れているようだ。
「じゃ、じゃあ……これからも私……こんな感じでいい?」
「いいですとも」
鬼山刑事は手を広げてみせた。
「無理して決め台詞……言わなくていい?」
「私はどうせその時はトイレなので、どうぞ」
ワトスンは腕を組みながら興味無さげに答えた。
「じゃあ……私は今まで通り…………クールビューティーな名探偵ビームズでいいのねっ!!! あーーーっはっはっはっ!!!」
ビームズは調子に乗った。
「いや、実に扱い安い上司ですね……本当に」
「お恥ずかしい限りです」
そそくさとワトスンに近寄って、そっと耳打つ鬼山刑事。
「ところで……本当にいいんですか? 多分彼女、また調子に乗りますよ? 探偵の威厳とかは……」
「いいんですよ。威厳なんか無くたって」
鬼山刑事ははっとして、ワトスンの顔を覗き込む。その目はどこか遠い所を見つめているようだった。
「ビームズさんはあのままのビームズさんでいいんです……」
それはなんのことはないちょっとした一言だった。
上司の扱い方も分かっていれば、上司の中身も彼にしか分からない物があるのだろう……いや、お互いがお互いを、それぞれ分かり合っているのだろう。
それは本当になんでもない一言。しかしこんななんでもない一言で、鬼山刑事は『何か』を豪く納得してしまったようだ。
その表情を一瞥すると、ワトスンはにんまりと笑みを浮かべ、最後にこう言い放った。
「だって、所詮彼女はMay探偵なんですから」
「あ、お上手」
「うまくなあああああぁぁぁい!!!!! 強引に締めるなワトスン!!!」
可愛い女の子を書くのが苦手中の苦手で・・・少しでも可愛らしい(?)風に描けていればいいのですが・・・
そのあたりも含め、是非是非感想をいただきたいです!!
一言感想でもいいのでお気軽にお願いします!