1 再会
「寒いよぉ。」
私は、道端でしゃがんでうずくまっていた。
道が分からなくなって、もう何分経ったのだろうか
幼い私はただ、あの人の名前を呼ぶだけだった。
いちしか雪がちらほらと降り始め、辺りは真っ白。
上を見るとねずみ色の大きな雲が光を遮った。
泣き喚く声は、響きもせず、虚空に消えていくだけだった。
もう、私は死んじゃうんだ…。
そう思ったとき温かい何かが私の頭を撫でた。
「…見つけた…」
私をきつく抱きしめた男の子は、息を切らして、呟く。
「…僕の傍から離れないでね」
そうだ。この男の子を私は大好きだった。
いつも一緒に過ごしていた、隣の家の男の子。
私が足をもつらせて、こけると男の子は優しく笑って手を差し出した。
そして、泣きながら、男の子と恋人繋ぎをして帰った。
いつも一緒に歩くときは恋人繋ぎ。
そういう法則が私と男の子の間で出来たりもした。
『恋人繋ぎをするとね、ずぅっと一緒にいられるんだよ!』
『じゃぁ、ずっとこうしていようね』
『うんっ』
男の子は、笑顔が素敵で、逞しかった。
そう、名前は----
バンッ
大きく机を叩く音が耳元でした。
「…はっ」
「紀野 風香!!!俺様の授業で寝るとは良い度胸だな…」
「ひっ、ごめんなさい…尚ちゃん…」
俺様で偉そうな先生は神宮尚人先生。
通称、なおちゃん。
数学の先生であり私のクラスの担任。
ヤンキーっぽいけど、すごく面白い先生で、熱心な先生だから、みんなから好かれている先生。
私自体も、結構お世話になってて、信頼できる先生だ。
そんな先生が、私が寝ているところを起こすのは恒例となっていた。
みんなの笑いがクラスで起こる。
「もう、起こしてよー、莉乃ぉ」
「起こしても起きないじゃない」
私の隣に座る三月莉乃は、私の親友。
ツインテールが目印の可愛い子だ。
私が莉乃と口論していると後ろから痛みが走った。
「いったぁぁぁ」
私が大声をあげると、尚ちゃんは私の頭をくしゃくしゃして、罰だよって笑った。
「うぅ…」
「よし授業続けるぞー。だからな、この問題はー…」
私は改めて真剣にノートを写そうとすると、隣の莉乃から手紙が回る。
”何か、尚ちゃんと風香良い雰囲気だね(*´д`*)禁断の恋ってやつー?”
「・・・なっ」
私はバッと莉乃の方を向くと、莉乃はそっぽ向いて、ノートを書いている。
でも…好きとかそんなんじゃないけど、何故か最近、尚ちゃんはよく私に絡んでくる。
朝会ったら、元気か?とか、調子はどうだ?とか。
先生だから当然なんだろうけど…。
私がじっと、先生を見つめていると、バッと目が合った。
「えっ」
「紀野。この答えは何か分かるよな?」
「え、えっとー…」
くぁぁ、話聞けばよかった!!
全然分からない…。
先生は溜息をつく。
「ちゃんと、集中しろよ!ったく…じゃあ、三月。お前は分かるか?」
莉乃はスラスラと答えを言う。
やっぱり、違うに決まってる。
勘違いだ。
私もまた、心の中で溜息をついた。
学校も終わり、家に帰ると、いつも母親が元気におかえりーという声が聞こえなかった。
妙な静けさで少し怖い。
「おかぁさーん」
大きな声で呼んでも返事はなし。
リビングに向かうと、一つの手紙が机の上に置いてあった。
私は息を飲む。
”隣の家に行ってごらん”
1行。
「・・・は?」
私は玄関を駆け抜けた。
そして隣の家を見ると、明かりがついている。
隣の家は、前まで、おじさんとおばさんが住んでて、最近引っ越したはずなのに…。
どういうこと…?
私は怪しみながらも、チャイムを鳴らしてみた。
「はいはぁぃ、ちょっと待ってね~」
男の人の声!?
胸がバクバクと打つ。
バッと勢い良くドアが開いた。
「いらっしゃーい!風香ちゃん」
気の良さそうなお兄さんが出てきた。
「ほえ…?」
「どうぞどうぞ、入って!」
「は、はい?」
「良いから!」
強引に手を引かれ、家に入った。
懐かしい感じがした。
そうだ、この家。
昔何回も行ってた。私の大好きな男の子がいたから・・・。
私が家を見回していると、廊下やら階段から、足音がたくさん聞こえてきた。
「へ…へっ!?」
「風香だ!!!」「ふうちゃんだぁ」「風香ちゃんじゃん!」「おぉ風香だ」
男の子が4人で私の前に現れた。
もうすでに、私は男5人囲まれていることになる。
「何で…私の名前…?」
冷静なかっこいい子がボソッと呟いた。
「覚えてないのか」
「覚えてないのかって…会ったこと、あるの!?」
こんな、かっこいい男の子たちに会ったことがあるはずない!
「神宮。って苗字、覚えない?」
「尚ちゃんの苗字…?」
「昔の話。10年前ぐらい、隣の家にいたでしょ」
「…あ、あぁぁ!!!いたいた!!男の子の大兄弟でしょー」
「帰ってきたんだよ♪」
私の肩を掴んで、茶髪の男の子は微笑んだ。