二、全力で遊ぶべし
坪井 孝仁
16歳
備考
圧倒的アナログゲーム派、デジタルゲームアンチ
プラザ【はぐくみ】、中高生を主な利用者として受け入れる裏路地の区営児童館1階は受付と附属の保育園になっており、2階は談話室という名の遊び場と調理室兼多目的室。3階にはダーツや卓球などが行えるスポーツルームやバンドスタジオ、屋上までついている。
管理人の山谷圭吾に連れられ、僕は2階の談話室なるところにたどり着いた。
辺りを見渡す、ぱっと見は小学校の学童のような場所だ、が、やはり中高校向けの施設。けん玉、コマ、マンカラと言った懐かしいものもあれば、流行りの漫画や人気小説、名前も知らないボードゲームになんとゲーミングPCなんてものまであった。さらに上を見れば24インチのテレビに隣には自習室、壁際ではメダカが泳ぎ、はたまた反対では人気トレーディングカードゲームのデッキが10個ほど並んでいた。
(これほどか、、、)
あっけに取られている僕の横でタニケイさんが話しかける。
「さ、あっちでボードゲームやっている子達いるから、行こっか。」
タニケイさんが指差した先の円卓では、3人の男子がタニケイの帰りを待っていたかのようにいっせいにこっちを向いた。
「まだゲーム始まってないよね?」
「おう、んでタニケイ、そっちの子は?」
「あぁ、彼も入れてやってくれ、ほら、こっち」
言われるがまま靴を脱ぎ、円卓へ座る。見たところ同級生が一人と年上年下が一人ずつだと思う。
、、、、、、、、、、
不安だ。俺、この人たちと遊んでいいのか?俺だぞ?コミュ力マイナスまで達しているぞ?
どうしよう どうしよう どうしよう いや抜けられないよなこんな状況で
今から抜ける? ガチで気まずいって! タニケイさんに申し訳ない
ほらやっぱり僕なんか はい、解散解散っと 恥ずかしい
みっともないな、僕 というかなんでみんな無言? やばいな、、、
またしても頭の中がぐちゃぐちゃになってゆく。
沈黙を打ち破ったのはタニケイさんだった。
「彼は大崎君。今日初めてきた子だから、ルール説明とかしてあげて、「開拓コロ」は君らの十八番でしょ?」
タニケイさんが僕を庇った気がした。でもまだ沈黙は続く。
あぁ、正直それで気を遣われるのは嫌だ、自分のコミュ力の問題なんだ、他人に任せてどうこうじゃないんだ。
気まずい、、、円卓の空気はまだ重い。
でも、それを打ち破ったのは先輩らしき男子だった。
「大崎君、下の名前は?」
「っと、咲です。」
「いい名前じゃん、俺は坪井 孝仁。んでそっちのメガネが原田 翔一郎で、あっちのぽっちゃりが 「喜多川 蓮太。よろしくね、咲。」
、、、いきなり名前呼びなのは驚いた。咄嗟に返事をする。
「はい、よろしくお願いします。」
「おーし、じゃあとっとと始めるか、君、ルール知ってる?」
え?もしかして普通に話せてる?
「おっけー、じゃあ説明からこのゲームは開拓コロっつって、まず、、、」
坪井先輩の説明が始まった。
「開拓コロ」
旧石器時代にタイムスリップしてきたプレイヤー達がサイコロの出目を元に資材を手に入れ、原住民と交易することで街を発展させ、その傍らタイムマシンを作り上げで現代へ戻ることをゴールとするボードゲームだ。このゲームの面白いところは、タイムマシンの定員が2人なところだ。だからこそ、今回のように5人で遊ぶときは貢献しなければタイムマシンに乗せてもらえず、正直の開拓をすれば実力行使で奪われるか裏切られる。駆け引きと戦略が求められるそうだ。
難しそうだが、それ以上に面白そうだ。
、、、面白いか。
まだ出会ったばかりだからなんとも言えないが、ここの人たちは僕の周りの人たちとは違う気がする。なんというか。周囲の空気を読むことを重んじないというか、、、
「ってことでわかった?咲」
「はい、わかりやすかったです。」
「それはよかった。じゃあ、スタートタニケイからね。」
坪井先輩が発すると同時に
「いーやちょっと待てよ坪井君、君スタートプレイヤーが不利取るの知ってるよね??」
タニケイさんが返す
「よし!ガン不利回避ィ!」
原田と紹介された人も続く。
なんだか居心地のいいところだ。みんなが自由に話し、笑っている。今までの僕とは真逆だな。
なんて病むと思ったか?ボードゲームを始めればそんなネガティブな感情が僕に入り込む隙間など微塵もなかった。
面白い。
本当にタイムスリップしたみたいだった。原住民の特技を生かして役職を持たせ、そこからみんなの指示によって権力構図が変化してゆく。堅実に開拓を進める喜多川君、タイムマシン作成の前ステップとなるランドマーク建設に必要な資材を占拠し交渉に持ち込もうとするタニケイ、そんな中で交渉に応じつつ裏で結託し二人で脱出しようと目論む原田と坪井先輩。序盤はタニケイがリードして開拓を進め、多くの取引と同盟、破綻を繰り返し、最後は坪井先輩原田を裏切って火縄銃を開発し、僕たち3人を倒してタニケイと先輩が勝利した。
「グハァッ」
原田が打たれた真似をして座りながらうずくまる。
それを見て喜多川君がが手刀で原田を滅多刺しにしてる。
思わず笑みがこぼれた。
「とまあ、こんなことかな。どうだった?大崎君」
タニケイさんが聞いてきた。
そんなもの、答えは決まっている。
「楽しかったです、、、すごく!」
タニケイさんが笑う。みんなも笑う。僕も笑った、面白いくらいに。
あぁ、ここはいいところだ。
「っと、もうこんな時間だ大崎君、遅くなっちゃったけど大丈夫?」
時計の針は18時30分を指していた。集中していたから本当にあっという間だったが、4時間近くもボードゲームをしていたらしい。
「あー、そろそろ帰らないとかもです。」
「そっか。じゃあまた、いつでも帰ってこいよ。」
「帰ってこいよ」タニケイさんのその言葉が妙に深く僕の心に刺さった。
タニケイさんからしたら普段みんなに言っている言葉かもしれない。でも、僕にはそれが特別に感じた。
プラザから出る、4月。もう空は暗くなってしまった。
また来よう。そう思った。
家へ向かう。自然と歩くテンポが速くなる。ゴツゴツして灰色に見えていた世界は街頭の明るさで打ち消され、アスファルトに向いていた顔は上に向いた。
「あら、おかえり咲。どこいってきたの?」
いつもよりも笑顔で答えることができた。
「ちょっと開拓にね。」
原田 翔一郎
15歳
備考
トレーディングカードコレクター




