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1の部分は、以前短編として投稿した『凱旋した勇者が婚約破棄を叫んだが、そもそも婚約していなかった話』と同一内容となっております。


また、本作は断罪劇やざまぁ展開を目的とした物語ではありません。ご了承のうえ、お読みください。

 魔王の復活が予兆された五年前のこと。小さな宿場町に住む十五歳の少年が勇者だと、同じく十五歳だった聖女にこの世界の創世の女神から神託が下された。

 まだまだ庇護されるべき子供といってもおかしくはない年齢の勇者と聖女、そして二人よりも数歳年上の三人の仲間たちが魔王討伐へと旅立った。それから五年という月日が過ぎたのち、無事魔王討伐を果たし王都へと凱旋した勇者一行は、魔王討伐の報酬を手に、勇者の出身地へと連れ立って帰郷した。

 

 勇者たちを出迎えるため、宿場町に住む人々は、魔王を倒したあのヤンチャ坊主が帰ってくるぞ、と歓喜し町へと迎え入れた。

 町の中心地にある、町に住む人々が待ち構えている噴水のある広場へと、勇者一行は案内された。

 歓待され、人々から口々に言葉をかけられる勇者の目に、一人の女性の姿が映り込む。その女性とは、勇者の幼馴染だった。

 目が合い、おかえり、と口もとだけで小さく微笑みながら言う幼馴染の姿に、勇者は旅立ちの日を思い出した。

 旅立ちのあの日に幼馴染から言われた、さっさと魔王を倒して無事にちゃんと帰って来なさいよ、という言葉を。

 心配そうで、泣きそうな、それからどこか怒っているような表情を。

 ――そうだ、その言葉の意味はきっと……と勇者は思う。


 一つ、息を吸った。

 深呼吸をし、勇者は幼馴染に向けて言葉を紡ぐ。

 真摯に、誠実に。これから傷付けてしまうだろう、幼馴染の心を守るために。自分の偽らざる聖女への気持ちを、知ってもらうために。


「ごめん、カティア! オレ、聖女のことが……ミーティアのことが好きになっちゃったんだ! 愛してるんだ! だから……だから魔王倒して帰ってきたら結婚しようって話、なかったことにしてくれ! 本当にゴメン!」


 噴水広場の中心で、隣に立っていた聖女の手をそっと握り、勇者が盛大に聖女への想いを叫んだ。よく通る勇者の声が、広場内を駆け巡って響き渡る。

 勇者の突然の愛と婚約破棄の言葉に、一瞬のざわめきと、唖然とした表情を浮かべる広場にいる人々。そして、離れた場所で傍観者として徹し、興味深げに眺めている勇者の年上の仲間たち三人組。

 広場中の視線が、勇者と幼馴染、そして小動物のように震え、困惑しながら二人を交互に見る聖女へと向けられる。なんともいえず、気まずい空気が空間を支配した。

 

 一方、幼馴染は。

 

 突然の勇者の告白に一瞬目を見開いたあと、数回まばたきを繰り返し、ゆっくりと目を閉じた。それから、ふっ、と小さく息を吐き出し、目を開く。


「アルベルト、私とアンタの関係はなに?」


 幼馴染は静かに、勇者へと問いかけた。

 

「へ……?」

「私と、アンタの、関係は、なに?」

「お……幼馴染……?」


 意図のわからない幼馴染の問いに、勇者が戸惑いながらも答えると同時に、広場のどこかで、誰かがこきゅり、と小さく唾を飲み込む音が聞こえてきた。


「そう、幼馴染よね」

「う、うん」

「で、本題だけど……」


 幼馴染は一度言葉を区切り、目を眇めて勇者を見つめる。

 

「私とアンタが結婚の約束をした事実は、一切ないわ」


 そして、はっきり、きっぱり、そう断言した。


「それにしたって、なんだってそんな勘違いしたの」


 はぁ、と深い溜め息を吐きながら、勇者へと幼馴染は再び問う。


「え、だってカティアがちゃんと無事に帰ってきてって……」

「なにそれ。そんなの幼馴染が勇者として魔王倒しに行ってきます――だなんてことになったら、言うでしょ、普通」

「でも、あの時なんだか怒ってたし」

「怒ってた……?」

「怒ってただろ」


 よく怒られてたからオレにはわかるんだ! と言う勇者の言葉に、なんだかすごく情けないものを感じながら、幼馴染は当時を振り返る。


 ――あぁ、そうだ。あの時は確かに怒っていた気がする、と幼馴染はその理由と共に思い出した。


「……そうね、怒っていたわね」

「ほら、やっぱり怒ってた」

「でも、だからって、なんでそれが結婚だなんて話になるの」

「カティアがオレのことが好きで、離れたくなくて。だから無事に帰ってきてっていうのは、帰ってきたらもう離れなくてもいいように、結婚しようよ……ってことじゃないの?」

「いや、なんでそうなるのよ」

「え、違う?」

「違うに決まってるでしょ。勇者に選ばれたのが『大人』の誰か、じゃなくて、『子ども』のアンタなのが少し……女神様が気に入らなかったのよ」


 幼馴染が軽い頭痛を覚え、気を紛らわせるためにと視線を勇者から聖女へと移したならば。聖女はびくりと体を震わせると勇者の後ろへと素早く身を隠し、窺うように幼馴染へと、ちらりちらりと視線を向けた。

 聖女のその姿に、なんだか苛めてるみたいだなと、幼馴染は申し訳なさそうに少し眉尻を下げると、聖女様が悪いわけではないですよ、と告げる。


「剣を持ったこともない、魔法も使えない。そんなただの普通の子どもに勇者の役目を押し付けるっていうのが、私にはわからなかった。勇者は戦う力を持った大人じゃダメだったのかって」


 勇者と聖女は、静かに幼馴染の言葉に耳を傾ける。

 

「まぁ、お客様から入ってくる勇者一行の噂話だとか、しっかり魔王を倒せたってことから判断するには、女神様の采配も、やっぱり正しかったんだろうけどさ。……だから、あの時怒ってたのは、そういうこと。わかった?」

「あ、うん。わかった。……なんか勘違いしてごめん」


 しょんぼりと肩を落とす勇者に、幼馴染は肩をすくめた。


「もう成人したんだから、いい加減その思い込んだらすぐ実行するくせ治しなさいよ?」


 さて、と幼馴染は空気を切り替えるように一度手を叩き、微笑んだ。


「もう一度いうけど、アル、おかえりなさい。魔王討伐、本当にお疲れ様。聖女様と、そちらのお三方もこの町へようこそいらっしゃいました。小さな宿場町で恐縮ですが、ごゆっくりお過ごしくださいませ」


 微妙な空気を発生させた噴水広場でのこの騒動。

 幼少期より勇者とその幼馴染と共に一緒に過ごしていた、同年代の友人たちはかく語る。二人の様子は、勇者が旅立つ前によく見た関係の、まるで幼い子どもと、その子どもに言い聞かせる母親のようであった、と。勇者になってもアイツは変わらなかったんだな。あぁ、懐かしいなぁ、と友人たちは自然と顔が綻んだ。

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