聖女の微笑み
騎士団の中庭には、白い光が広がっていた。
「……これでどうかしら」
ミサキはそう言って、手を下ろす。
枯れかけていた花が、ゆっくりと色を取り戻す。
「さすが聖女様です」
魔導士が感嘆の声を上げた。
「これほど安定した浄化魔法は見たことがありません」
「ふふ……当然よ」
ミサキは小さく笑った。
だが、その視線は――
中庭の隅に立つ少年へと向いていた。
(……あの子)
アオイ。
騎士団に守られている存在。
(……邪魔なのよ)
ミサキは、内心で舌打ちした。
(……私が“選ばれた存在”なのに)
(……なんで、あんな無価値な子が……)
⸻
「……きれい……」
回廊の陰で、アオイは魔法を見ていた。
光はやさしく、あたたかい。
(……すごいな……聖女様……)
その瞬間。
ミサキの指が、わずかに動いた。
誰にも気づかれないほど、ほんの少し。
(……反応しなさい)
(……あなたの“異物の魔力”……)
空気が、わずかに歪む。
アオイの胸が、きゅっと締めつけられた。
「……っ」
視界が揺れる。
(……なに……これ……)
膝が、がくりと落ちた。
「アオイ?」
ノアが気づく。
「どうした!?」
「……だいじょうぶ……」
だが、声は震えていた。
⸻
ミサキは、それを見て微笑んだ。
(……やっぱり)
(……私の魔法に反応してる)
(……気味が悪い……)
(……壊れてしまえばいいのに)
そう思いながら、
外向きには心配そうな顔を作る。
「……あの子、大丈夫かしら……?」
「聖女様……」
「もし、私の魔法が負担になっているなら……」
「……訓練、控えた方がいいですよね……」
完璧な演技だった。
⸻
医務室。
ベッドに横になったアオイは、
胸を押さえていた。
(……ぼくのせいだ……)
(……聖女様の魔法に……)
(……変な影響……)
「……ごめんなさい……」
誰にともなく、つぶやく。
扉が開いた。
「……アオイ」
カイルだった。
「……どうだ」
「……すみません……」
「謝るな」
カイルは低く言う。
「原因はまだわからない」
「……でも……」
アオイは小さく言った。
「……ぼくが……変だから……」
その言葉に、
カイルの眉がわずかに動いた。
「……変じゃない」
「……だが……」
言葉を探す。
「……調べる」
「必ず」
⸻
その夜。
ミサキは、自室で笑っていた。
「……あは」
(……苦しそうだった)
(……気持ちいい)
(……私の光に焼かれて……)
(……汚れた存在が……)
「……早く……」
「……消えればいいのに……」
窓の外では、
騎士団寮の灯りが静かに揺れていた。




