騎士団寮の朝
朝、アオイは物音で目を覚ました。
――カン、カン、と金属が触れ合う音。
外から聞こえる、剣の音だった。
「……訓練……?」
そっとベッドから起き上がり、窓の外をのぞく。
中庭では、騎士たちが朝の訓練をしていた。
剣を振るう音。
掛け声。
整った動き。
(……すごい……)
城で過ごしていた頃、
アオイは騎士団の姿を遠くからしか見たことがなかった。
自分とは関係のない、
「強い人たちの世界」だと思っていたからだ。
コンコン、と扉が叩かれる。
「起きてるか、アオイ」
レオンの声だった。
「はい……!」
慌てて扉を開ける。
「朝食できてるぞ。まだ少しだけど」
「……ぼくも、行っていいんですか?」
「当たり前だろ」
レオンは笑う。
「ここはもう、お前の家みたいなもんだ」
その言葉に、胸が少し苦しくなった。
「……そんな……」
「変な顔するなって」
レオンは頭を軽くかいた。
「ほら、ノアも待ってる」
⸻
食堂には、すでに何人かの騎士が座っていた。
「アオイ!」
ノアが真っ先に手を振る。
「こっちこっち!」
「……おはようございます」
恐る恐る席に着く。
昨日よりも、空気がやわらかい。
でも、それでもアオイは落ち着かない。
(……ぼく、場違いじゃないかな……)
パンを手に取るが、なかなか口に運べない。
それに気づいたノアが言った。
「食べないの?」
「……えっと……」
「具合悪い?」
「ちがいます……ただ……」
言葉に詰まる。
レオンが代わりに言った。
「緊張してるだけだろ」
「……」
「昨日まで城にいたんだ。そりゃ怖いよな」
その言葉に、アオイは目を伏せた。
「……ぼく……騎士団に迷惑じゃないですか」
食堂が、少し静かになる。
ノアが目を丸くした。
「え?」
「……守られるだけで、何もできなくて……」
アオイは、小さく続ける。
「……ぼくがいると、みんな困るんじゃ……」
その瞬間。
「そんなこと、あるわけないだろ」
低い声。
カイルだった。
いつの間にか、後ろに立っていた。
「お前がここにいるのは、必要だからだ」
「……必要……?」
「そうだ」
カイルは、まっすぐアオイを見る。
「お前は、騎士団の一員ではない。だが――」
「守る対象だ」
「それは、負担じゃない」
「……俺たちの役目だ」
その言葉に、
アオイの喉が、きゅっと詰まる。
「……役目……」
「そうだ」
カイルは視線を外し、続けた。
「それに……」
一瞬、言葉を探すように間を置いてから。
「……放っておけないだけだ」
その言い方が、少しだけ不器用で。
アオイの胸が、じん、と熱くなった。
「……ありがとう……ございます」
声が、少し震えた。
⸻
食事のあと、アオイは中庭を歩いた。
騎士たちの訓練は、もう終わっていた。
(……ここなら……)
(怒られない……)
(叩かれない……)
(追い出されない……)
それだけで、胸が軽くなる。
でも同時に、
不安も、少し生まれる。
(……聖女様は……どう思ってるんだろう)
城に、取り残された人。
アオイは、ぎゅっと服の裾を握った。
(……また、何か起きる気がする……)
風が、静かに吹いた。




