騎士団寮
城を出る朝。
アオイは、小さな荷袋を胸に抱えて立っていた。
「……ほんとに、ここでいいんですか」
目の前には、騎士団寮。
石造りの建物は、城よりもずっと素朴で、でも温かそうだった。
「いいも何も、決定事項だ」
カイルはそう言って、扉を開ける。
「ここが、お前の部屋だ」
案内された部屋は、質素だが清潔だった。
窓からは中庭が見え、朝の光が差し込んでいる。
「……ぼく、こんな部屋、初めてです」
ぽつりとこぼれた声。
「城の部屋、嫌だったのか」
「……はい」
少し間を置いてから、アオイは続けた。
「誰も来ないし……来るときは、怒られる時だけで……」
カイルの表情が、わずかに曇る。
「もう、あそこには戻らなくていい」
「……」
アオイは何も言えず、ただ頷いた。
⸻
その日の昼。
食堂では、騎士団員たちが集まっていた。
「アオイ、こっち空いてるぞ!」
レオンが手を振る。
「スープ飲める? 無理ならパンだけでも」
ノアは、椅子を引いてやる。
「……ありがとうございます」
恐る恐る座るアオイ。
周囲の視線に、少し身をすくめる。
「……みんな、見てます」
「気にするな」
カイルが言う。
「ここでは、お前は“聖女の付き添い”じゃない」
「?」
「騎士団の保護対象だ」
その言葉に、アオイの目が揺れる。
「……守られる、側……」
「不満か」
「いえ……」
アオイは、スープを一口飲んでから、静かに言った。
「……うれしいです」
その声は小さかったが、確かだった。
⸻
夜。
新しい部屋で、アオイは布団に入る。
(……静か)
怒鳴り声も、足音もない。
ただ、遠くで見回りの剣の音がするだけ。
(……誰かが、外にいる)
それだけで、胸が少し楽になった。
その時、控えめなノック。
「……アオイ」
「だんちょう?」
「具合はどうだ」
「……大丈夫です」
カイルは扉の外から言う。
「無理はするな。何かあれば、すぐ呼べ」
「……はい」
少し迷ってから、アオイは言った。
「……ありがとうございます」
「何に対してだ」
「……ここに、いさせてくれて」
一瞬の沈黙
「礼を言うことじゃない」
カイルはそう言って去っていった。
だが、廊下の足音は、しばらく近くにあった。
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アオイは、微笑みながら布団の中で目を閉じた




