隠された痕
朝、詰所はいつも通りだった。
「アオイ、朝食できてるぞ」
ノアが手を振る。
「……はい」
アオイは少し遅れて現れた。
長袖の服を着て、いつもより動きがぎこちない。
「暑くないか?」
レオンが眉をひそめる。
「だ、大丈夫です」
その声が、どこか硬い。
訓練の見学中、ふとした拍子に――
アオイの袖が、めくれた。
「……っ」
白い腕。
そこに残る、赤黒い痕。
火傷の跡だった。
新しいものも、古いものも、混じっている。
「……アオイ」
ユリウスの声が低くなる。
「それは、何だ」
「……え?」
気づいた瞬間、アオイは慌てて袖を引き下ろす。
「な、何でも……」
「何でも、なわけがない」
カイルが歩み寄る。
その目が、はっきりと変わった。
「誰に、やられた」
沈黙。
「……転んだときに」
「火傷だ」
短く否定される。
「答えろ」
圧のある声に、アオイの肩が震えた。
「……城の、厨房の人に……」
絞り出すような声。
「“邪魔だ”って……あの…
お湯、かけられちゃって…」
その場の空気が、凍る。
「……他にもあるな」
レオンが歯を食いしばる。
「……怒られると思って」
「誰に」
「……聖女様の部屋に近づくなって」
その瞬間。
「……ふざけるな」
ノアが初めて、声を荒げた。
「それ、事故じゃないだろ!」
「……僕が、悪かったんです」
アオイは俯いた。
「役に立たないのに……
ここにいて……」
「違う」
カイルが、強く言う。
「悪いのは、手を出した人間だ」
アオイの前にしゃがみ、視線を合わせる。
「……痛かったか」
「……はい」
小さく、涙が落ちる。
「自分のせいで……
みんな、怒られるの、嫌で……」
その言葉に、騎士団の全員が黙り込んだ。
「……ユリウス」
「はい」
「城に連絡しろ」
声が低く、冷たい。
「使用人の処罰を要求する。
正式にな」
「団長」
レオンが言う。
「それ、敵に回すぞ」
「構わん」
即答だった。
「俺の管轄に、手を出した」
その言葉に、アオイは目を見開く。
「……僕のせいで」
「違う」
今度は、ノアがアオイの前にしゃがむ。
「俺たちの大事な人に、手を出したんだ」
「……大事?」
「当たり前だろ」
その夜。
城では、件の使用人が拘束された。
「……やりすぎです」
アオイは、カイルの部屋でそう言った。
「僕が我慢すれば……」
「我慢するな」
短く、強く。
「二度と、隠すな」
包帯を巻かれた腕に、そっと触れる。
「痛いなら、痛いと言え」
「……はい」
「怖いなら、怖いと言え」
「……はい」
「お前は、守られる側だ」
その言葉に、胸が締めつけられる。
「……泣いても、いいですか」
「許可する」
アオイは、声を殺して泣いた。
その背を、カイルは黙って支え続けた。




