その手を取る資格
ミサキが去ったあとも、詰所の空気は重かった。
「……本気で取りに来るぞ、あれ」
レオンが腕を組む。
「聖女の権限は強い」
ユリウスが続けた。
「正式に要求されたら、拒否は難しい」
「拒否する」
即答だった。
カイルはアオイから目を離さない。
「俺が守る」
「……理由は?」
ノアの問いに、カイルは一瞬だけ黙った。
「……必要だからだ」
それ以上は語らない。
その夜、アオイは眠れずにいた。
ベッドに横になっても、昼間のやり取りが頭から離れない。
(城に戻れって言われたら……)
扉をノックする音がした。
「……アオイ」
低い声。
「カイルさん?」
扉を少し開けると、廊下に立っていた。
「眠れないか」
「……はい」
「少し、話すか」
中庭の石ベンチに並んで座る。
夜風が、髪を揺らす。
「お前は……ここにいたいのか」
「……います」
即答できた自分に、アオイは驚いた。
「怖いけど……
城に戻る方が、もっと怖いです」
「……そうか」
しばらく沈黙。
「俺は、正しいことをしているのか分からん」
カイルがぽつりと言った。
「保護と言いながら、
お前の行動を縛っている」
「……嫌じゃないです」
アオイは小さく言った。
「誰かに、選ばれるの……初めてで」
カイルの手が、ぎゅっと握られる。
「……それが、間違いだったら」
「間違いでも」
アオイは、そっとカイルを見る。
「……今は、いいです」
夜の中で、視線が重なる。
「触れるな、と言ったはずだ」
「……今も?」
「……今も、だ」
だが、距離は縮まったままだった。
その瞬間。
中庭の端に、影が揺れた。
「……誰かいる?」
アオイが気づく。
「来い」
カイルはすぐにアオイの肩を抱き寄せる。
草むらの奥――
人影が、一瞬だけ動いた。
「……見張りか」
「聖女側、だろうな」
ユリウスの声が、闇から聞こえた。
「団長、始まりました」
「……ああ」
カイルは、アオイを背にかばう。
「お前は、もうただの客人じゃない」
「……はい」
「狙われる存在だ」
胸が締めつけられる。
守られているのに、
“普通”から遠ざかっていく。
「それでも、ここにいるか」
少しだけ、強い声。
アオイは、うなずいた。
「……ここが、いいです」
その言葉に、カイルの表情が変わった。
「なら、もう離さない」
その宣言は、守りであり、檻でもあった。




