俺の管轄だ
訓練場を出たあと、アオイは騎士団の詰所に連れていかれた。
「……あの、僕……」
「座れ」
短く告げたのはカイルだった。
有無を言わせない声なのに、動作は不思議と優しい。椅子を引き、背に手を添えてくれる。
「アオイの魔法、すごかったな」
ノアが明るく言う。
「結界が“感情”で発動するなんて聞いたことない」
「俺も初めて見た」
レオンは腕を組みながら、真剣な表情でアオイを見る。
「怖かったか?」
「……はい」
正直に答えると、部屋の空気が少し重くなった。
「城にいたときも、急に体が光ったことがありました。でも……怒られたので」
「怒られた?」
ユリウスが眉をひそめる。
「“聖女様のそばで変な真似をするな”って……」
言葉にした途端、喉が詰まる。
思い出しただけで、胸が痛んだ。
「……ふざけるな」
カイルの低い声が落ちる。
「力が目覚めかけていたのを、恐れて隠しただけだ」
その言葉に、アオイは目を見開いた。
「隠す……?」
「お前の力は、守るためのものだ。攻撃じゃない。しかも――」
ユリウスが静かに続ける。
「他人の悪意や敵意に反応して、無意識に結界を張る。
つまり……」
「嫌な視線を向けられるほど、発動するってことか」
レオンが言葉を継ぐ。
アオイは、はっとした。
ミサキに見られた瞬間、怖くなった。
逃げたいと、思った。
それが、引き金だったのだ。
「……じゃあ、僕……」
「利用される」
カイルははっきり言った。
「聖女よりも、安全で扱いやすい盾としてな」
アオイの指先が震える。
「だから、城に戻す気はない」
「え……?」
「騎士団の管理下に置く。
これは命令だ」
その言い方は厳しいのに、目はどこまでも真剣だった。
「嫌なら、拒否してもいい」
沈黙。
アオイは、ぎゅっと服の裾を握った。
城に戻れば、また“聖女の隣の失敗作”になる。
ここにいれば、怖いけど……誰も、見下さない。
「……ここに、いたいです」
小さな声だった。
だが、カイルははっきり頷いた。
「なら、俺の管轄だ」
「え?」
「お前は俺の保護対象だ。
勝手に触るな。勝手に連れ出すな。
……いいな?」
ノアとレオンは顔を見合わせる。
「団長、それ独占じゃ……」
「黙れ」
ぴしゃり。
アオイの心臓が、どくんと鳴る。
守られるはずなのに。
なぜか、逃げ場を失った気がした。
その夜。
部屋に戻ると、机の上に小さな包みが置いてあった。
中身は――焼き菓子。
「……え?」
メモが添えられている。
『また作ってくれ。
……甘いの』
短い字。
カイルのものだと、すぐに分かった。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「……ずるい」
そう呟きながら、アオイは小さく笑った。




