聖女の名
その名が公に告げられたのは、
王城の広間で行われた、簡素な儀式の場だった。
「――聖女、ミサキ」
高官の声が、静まり返った空間に響く。
「この名をもって、神殿および王国は
彼女を正式な聖女として認める」
控えめな拍手が起こる。
白い衣を纏った少女――ミサキは、
楚々とした微笑みを浮かべ、深く頭を下げた。
その姿は、あまりにも“正しい聖女”だった。
少し離れた場所で、
アオイはその様子を見つめていた。
胸の奥が、ざわつく。
(……近づいちゃ、いけない)
理由は分からない。
ただ、本能的にそう感じた。
「……顔色が変わったな」
隣で、カイルが低く言う。
「無理なら、ここを離れる」
「……いえ」
アオイは、小さく首を振った。
「ちゃんと、見ておきたいです」
その言葉に、
カイルは何も言わず、ほんの一歩だけ近づいた。
儀式が終わり、
人々が散り始めた頃。
「――アオイさん」
聞き覚えのある声。
振り返ると、
そこに立っていたのは、ミサキ本人だった。
「……聖女様」
空気が、ぴんと張り詰める。
ノアが反射的に前へ出て、
レオンがさりげなく進路を塞ぐ。
だが、ミサキはそれを気にした様子もなく、
穏やかに微笑んだ。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ」
「今日は、少し話がしたいだけ」
「……何の、ですか」
「あなたのこと」
その一言で、
胸の奥が、きゅっと締めつけられた。
「同じ世界から来たのに」
「あなたは、ずいぶん大事にされているのね」
声は柔らかい。
けれど、その目は冷たい。
「……それは」
言葉を探していると、
ミサキが一歩近づいた。
その瞬間。
胸の奥の温もりが、
はっきりと反応した。
「……っ」
空気が、揺れる。
目に見えるほどではない。
だが確かに、
“拒む力”が働いた。
ミサキの足が、止まる。
「……へえ」
小さく、興味深そうに呟く。
「やっぱり、ただの巻き添えじゃないのね」
その声音に、
ノアが眉をひそめる。
「聖女様」
「それ以上近づくのは――」
「分かってる」
ミサキは、くすりと笑った。
「今日は、これだけ」
「でも……覚えておいて」
視線が、まっすぐアオイに向けられる。
「守られている立場は」
「とても、壊れやすいのよ」
そう言い残し、
彼女は踵を返した。
残された沈黙の中で、
アオイは静かに息を吐いた。
「……怖かったか」
カイルの問いに、
少し考えてから答える。
「……はい」
「でも……逃げたいとは、思いませんでした」
その言葉に、
ユリウスがわずかに目を見開く。
「……変化ですね」
「え?」
「あなたは今」
「“守られる側”であることを、受け入れ始めている」
レオンが、軽く笑った。
「いい傾向だな」
ノアはまだ、少し不安そうだ。
「……相手は、聖女だよ」
「だからこそだ」
カイルが、はっきりと言った。
アオイの肩に、確かな手が置かれる。
「――俺たちは、お前を守る」
その言葉は、
義務ではなく、選択だった。
アオイは、
胸の奥の温もりを感じながら、
静かに頷いた。
聖女ミサキ
•身長:158cm
•体重:46kg
•髪の色:黒に近い茶色腰あたりまでのストレ ート
•目の色:暗めの赤茶




