表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

噂の温度

噂が広まるのに、時間はかからなかった。


「騎士団が、あの巻き添えの子を囲っているらしい」

「聖女様より、大事にしてるって本当?」


廊下のあちこちで、

声がひそひそと交わされる。


アオイは、それを聞かないふりで通り過ぎた。


(……前より、視線が多い)


けれど、不思議と足取りは重くならなかった。


理由は、はっきりしている。


詰所の扉を開けた瞬間、

空気が変わるからだ。


「お、来たな」


レオンが手を振り、

ノアがすぐに気づいて椅子を引く。


「今日は無理しないでくださいね」

ユリウスの声は、いつも通り穏やかだ。


そして――


「……調子はどうだ」


カイルの低い声。


それだけで、

胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「……だいじょうぶ、です」


嘘ではなかった。


噂も、視線も、

ここでは届かない。


「城内での動線は制限する」


カイルが淡々と言う。


「単独行動は禁止」

「必ず、誰かが同行する」


「えっ、それって――」


ノアが言いかけて、

すぐに口を閉じる。


「……過保護、ですよね」


アオイが、恐る恐る言うと、

レオンが苦笑した。


「まあな」

「でも今は、それでいい」


「納得できませんか?」


ユリウスが静かに尋ねる。


アオイは、少し考えたあと、

首を振った。


「……嫌じゃ、ないです」


その言葉に、

ノアがぱっと顔を上げる。


「本当に?」


「はい」


「……そっか」


ノアは安心したように息を吐き、

それから、少しだけ不満そうに付け加えた。


「でも、団長が一番張り付くのはズルいと思います」


「業務だ」


即答。


「絶対それだけじゃないでしょ」


空気が、ぴりっと張る。


「ノア」


カイルが名前を呼ぶだけで、

それ以上の言葉は必要なかった。


アオイは、二人を見比べて、

小さく瞬きをする。


(……え、これって)


自分を巡って、

空気が尖っている。


それに気づいた瞬間、

胸の奥が、また反応した。


温かい波が、

詰所全体に広がる。


「……あ」


レオンが、息を呑む。


「今の……」


「安定化してますね」

ユリウスが、はっきりと言った。


「感情が強く動いたときほど、顕著です」


「つまり?」


「――アオイが“ここにいる”だけで」

「騎士団の魔力循環が、整っている」


沈黙。


「……だからって」


ノアが小さく呟く。


「だからって、独り占めしていい理由には――」


「独り占めはしない」


カイルが言った。


「だが、守る責任は負う」


その言葉は、

誰かに向けた宣言というより――

自分自身に言い聞かせるようだった。


その夜。


アオイは、新しい部屋のベッドで、

一人天井を見つめていた。


(……噂、広がってるな)


少し前なら、

それだけで眠れなかったはずなのに。


今は、

扉の向こうの気配を感じるだけで、

心が落ち着く。


(……放ってくれない、んだ)


それは、

不安じゃない。


むしろ――

少しだけ、くすぐったい。


胸の奥で、

温かな光が、確かに脈打っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ