居場所の名前
その決定は、静かに下された。
「本日より――
アオイ・ミナセは、王城騎士団の管理下に置く」
会議室に、低い声が響く。
発言したのは、カイルだった。
「理由は?」
形式的な問いに、
カイルは一切迷わず答える。
「第三者による魔力干渉を確認」
「本人の意思による拒絶も成立している」
「……これ以上、単独行動を許可する理由がない」
沈黙。
反論は、出なかった。
アオイは、部屋の隅でその様子を聞いていた。
(……管理下)
言葉だけを聞けば、
自由を奪われるようにも思える。
けれど――
「異議は?」
そう問われた瞬間、
なぜか胸の奥が、静かだった。
怖くない。
それどころか、
少しだけ、ほっとしている自分がいる。
「では、決定とする」
その一言で、
すべてが決まった。
会議が終わり、廊下に出る。
「……アオイ」
ノアが、遠慮がちに声をかける。
「嫌だったら、言っていいからね」
「無理に、縛るつもりは――」
「……嫌じゃ、ないです」
言葉が、自分でも驚くほど自然に出た。
「ここにいる方が……安心します」
ノアの目が、少し潤む。
「……そっか」
レオンは、豪快に笑った。
「なら決まりだな!」
「今日から俺たちの――」
「余計なことを言うな」
即座に、カイルが遮る。
だが、
その声はいつもより、少しだけ柔らかかった。
「……部屋を用意する」
「詰所の近くだ」
「え……?」
「何かあれば、すぐに気づける」
それは命令ではなく、
完全な配慮だった。
ユリウスが、静かに補足する。
「あなたの魔力は、孤立すると不安定になります」
「人の気配が、必要なんです」
「……それって」
「ええ」
「あなたは、“一人でいると危険”な存在です」
その言葉は、
否定ではなかった。
むしろ――
必要とされている証だった。
新しい部屋は、
質素だが、清潔で、温かかった。
「……ここが」
「気に入らなければ、変える」
カイルはそう言いながら、
無意識に扉の位置に立つ。
まるで、
最初から“守る配置”に立つように。
「……大丈夫です」
アオイは、小さく笑った。
「……ここなら、眠れそう」
その言葉に、
カイルの肩から、わずかに力が抜けた。
夜。
ベッドに横になり、
天井を見つめる。
(……嫌われてたはずなのに)
なのに今は、
放っておかれるどころか――
離されない。
胸の奥で、
温かな光が、静かに満ちていく。
それはもう、
不安を消すだけの力じゃない。
「……ここが、居場所なんだ」
そう呟いた声は、
誰にも聞かれなかった。
けれど。
扉の向こうで、
足音が止まり、
しばらく動かなかったことを――
アオイは、まだ知らない。




