変わらぬ月と少年 【月夜譚No.368】
見上げた先には月があった。暗い夜空に煌々と一際存在感を放つ、丸い影。それがあまりにも眩しくて、あまりにも見慣れたそれと同じもので、彼は思わず目を細めながら笑ってしまった。
つい数時間前まで、彼は学校にいた。ホームルームが終わり、部活にも入っていない彼はそのまま校門を出ようとしたのだが、そこでふっと意識が途切れた。そして、次に気がついた時には見知らぬ場所にいた。
それから短時間の間に色々とあり、ここが自分のいた世界とは全く違う世界だと知ることとなる。
そんな漫画やアニメのようなことが起こるものかと我が目を疑ったが、実際に見るもの触れるものが嘘のようには思えず、潔く受け入れるしかなかった。
頼る当てもなく夜になってしまい途方に暮れていたが、普段見ていたものと変わりない月を見たら、少しだけ元気が出てきたように思える。
彼はへたり込んでいた脚を伸ばして、満月にそっと手を伸ばした。
同じものが空に浮かんでいるのなら、元の世界に帰れる道だってきっとある。
彼の瞳の中の満月は、まるで応援でもするかのように輝いていた。