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「主人公の名前」

 「昔、昔、龍之介という醜い大男がいました」

 「おい、木太郎、おぬし、知ってて、作り話をでっちあげたな。」

 「はあ」

 助手の小玉木太郎は腹を掻きながら、訳のわからない顔をする。

 「とぼけよって、まあ、よい、わしには考えがある」

 「はあ、えー、昔、昔、龍之介という醜い大男がいました」

 「おい、わしをバカにする気か」

 「はあ」

 「はあじゃない。続きからでよかろうに、

それを、まあいい、続きから、続きから話せ」

 「はあ、昔、昔」

 「バカ者、続きとわしはいうてるじゃろ」

 「す、すいません。龍之介という」

 「このバカ、続きと言ったじゃろうが」

ついに教授の怒りが爆発し、助手の顔面にパンチが入る。

 助手は何でそうも教授が怒っているのか訳もわからず、

 「あのー、話すのをやめさせてください」

と泣き声で言う。

 「この野郎、わしが一番イヤなことだけ話して、わしを愚弄する気か」

と教授はもう一発助手を殴る。

 「どうしたらよろしいんでしょう」

助手は泣き出す。

 「大男がいましたの続きから始めろ。いいな」

教授は右手を構えながらそう言うと、

助手はおそるおそるぶつぶつ教授に聞こえない声で言いながら、

 「その男はずうたいに反比例して、

おつむの方は小さいらしく、

あほーの龍之介と呼ばれていました」

 「この野郎」

 教授はまた助手は殴る。

 「あのー、

どうして私がそんなに怒られなければいけないんでしょう」

 助手は泣き声でおそるおそる教授に聞く。

 「そうか、おぬしは本当に知らないんだな。

いいか、よく聞け、わしの甥っ子の名は龍之介だ。

しかも、大男で不細工だ。さらに、頭も悪い、

わかったら5分だけ時間をやるから話しをうまく作り変えろ」

 助手の小玉木太郎は悩んだ。

どうせなら、名前だけ龍之介から誰かの名前に変えようか。

しかし、また、その名前が教授の知り合いだったら、

また、殴られるに決まっている。助手は考える。

どの名前なら安全か。そして、出した結論は単純だった。

そう、自分の名前である木太郎に変えることにしたのである。

 しかし、

 「あほーの木太郎は」と言ったとたん、

 「この野郎」とまた教授に殴られた。

 助手は

 「木太郎は僕の名前ですが」

 「バカモンが、わしが実力不足のおまえを助手に採用してやった理由を忘れたのか」

と教授は今度は助手に足蹴りをくらわす。

 「いたー、すいません。ああ、忘れてました。

カミサン伝説研究の権威であるトンデモ大学の禿田木太郎教授

と同じ名前だったからでした。本当にすいません」

助手はひたすら頭を下げる。

 「よーし、思い出したか。じゃあ、あと3分だけやろう。

名前はワシの嫌いなケイメイ大の山田久素太の名をとって、

くそたにせえ。わかったな。」

 教授はそう言ったが、助手は困った。

 3分もらえるということは自分がこれまで話した内容の中に

名前以外にも教授の気にいらないキーワードがあるに違いないからだ。

うーん、まず、醜いか?でもこの話しには...。

次に大男か?でも、この話しには...。あほーか?

これは絶対はずせない。なんせ、あほーあほーあほー編なんだから。

おつむが小さいか?これはどうにかなりそうだ。しょうがない、

「醜い」を「イケメンとはいえない」に変えて、

「大男」を「すごく背の高い」に変えて話すか。


 助手は3分後

 「すいません。頭を整理するために、

最初からやらせてください。よろしいでしょうか」

と教授の機嫌を伺うと共に変更した言葉でいいのかを試すために教授に確認した。

 「話しを少し変えたのなら、よかろう」

 「えー、30年ぐらい前」と助手が切りだすと、

教授はよしと言った顔で頷いた。

 「くそたというとてもイケメンとはいえない背の高い男がいました」

 「うん、まあ、いいが、くそたなら不細工で頭の悪い巨人のような男でよかろう」

と教授の機嫌が直る。

どうやら、くそた教授を相当嫌っているらしい。助手は調子に乗って

 「くそたはずうたいの割に」

と話すと、

 「バカ野郎、まだわからんのか」とまた教授に殴られる。

 しまった。「ずうたい」というのが気にいらなかったんだ

と助手は気づくと教授に言われたとおり、言葉は変だが、

 「すいません。えーくそたは巨人のクセにとんでもなく頭が悪かったので、

あほーのくそたと呼ばれていました」

 「まあ、ちょっと変だがよかろう」

と教授は頷いた。




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