グリーン・リアリティ
ここに魔王はいたはずだが、見当たらなかった。というより人間の気配すらなく、とても静かだった。
窓は割れ、鳥は歌い、空は紫色に、学校は崩れてしまっていた。
がれきが散乱し、落ち葉が堆積し、木の枝は折れ、手入れされている形跡はどこにもなかった。
一体何が起きているんだ?外に居たら危険なやつ?
などと、考えていたが。
――獣人の姿を見つけられて、良かった。
「あの!」「あら~、無事着いたのね」
なんだろう、この違和感。
この世界の変わりように対比して、獣人はほとんど前と変わらなかった。
いや、今の惨状に不釣り合いな青いドレスの美しさがあった。
「総一郎様をずっとお待ちしていました」
うっとりした顔で、両手で頬を抑える。
「えっど、どこかでお会いしましたっけ?」
"今回"はあっていないはずだ。
「んん゛っ、そうですわ。171年ぶりでしたわね、戸惑うのも無理はありませんわ。順を追って説明しますわね」
171年?は?え?
「自己紹介がまだでしたわね。私<わたくし>、シュレーディンガー。長いのでシュレでいいですわよ」
「こっちはマキナ」
「サポートAIのマキナです。よろしくお願いいたします」
「あっはい」
黒い箱、と形容すればよいのだろうか、黒い金属質な箱が空中に浮いていた。
表面はつるりとして、電気でも流せば壊れそうな気がした。
――はっ。いやいや、なんで破壊しようとしているんだ。敵でもないのに。
「今は、西暦2190年。この敷地の外は全て現実性が崩壊しておりますわ」
「現実性……が崩壊ですか?」
2190年?浦島太郎か?現実性が崩壊?どういうことなんだ?
「総一郎様もご存知の通り、渋谷消失事件が発端となり、じわじわと世界を蝕み、侵食し、現実性が壊れ始めて、今に至りますの」
「自己認識が体外へ漏れ出し、世界と同化する現象ですわ」
「呼びかけて戻ってきた例もありますが、少ないですわね」
そんなことに、なっていたのか。
「えーっと、シュレさん?ここが無事なのはどうしてなんですか?」