トキヒコ観察記 グルビイ・レドセン・オロウェク
『トキヒコ観察記』を始めよう!
何事に対しても、重い腰を上げるのは今なのだ!
と、思っていても、中々実行に移せていない現実。
いや、ほら、ずっと始めようと思ってるよ。
いやいや、今この瞬間から!
それで始めるにあたって、先ずは準備だ。準備と言うのは、ココで暮らす者達を描き写す為の道具の類を揃える事。
だけどそもそもココ、エルフの里国には、私が今まで使っていた一般的な筆記用具がなんにも無いからなぁ。
「さあ、どうする?どうしよう?」
色々と道具を揃える、、、実は以外と大変だなぁと思っている、、、思ってるよ。始めない言い訳。重い腰。
筆記用具と言っても大袈裟な物では無く、それこそ鉛筆に始まり、エルフの里国で暮らす者達を描き記す為の文房具。
だけどエルフの里国には、文房具屋も無ければ画材店もコンビニも、スーパーマーケットもデパートも無い。
売っても無ければ取り扱ってるお店なんて無い。
そもそも、今まで自分が当たり前に使っていたエンピツに始まり、ペン類や絵具、、、無い。それはノートや画用紙に代表される紙類にしても同じ。
文化、文明の違いと言ってしまえばそれまでだけど、多くの知識や情報を自分の中で記憶し、相手に意識として伝える事が出来るエルフ達にとっては、記録を残したり伝達する為の道具としての筆記具類は不用な物なのか?
エルフ達の彼らの頭の中には、百科辞典でも入ってそうだし、いやいや図書館だったりして。
でも、紙や鉛筆を使う事は、誰かに何かを表現するには手っ取り早く、適当じゃない?
地球上の古代人だって、洞窟とかに何やら絵とか記号とか文字を残したり、石碑や土偶とか、古文書なんかだって有る。
それらが、子孫に伝える為の物だったのか、未来の誰かに託すが為の物だったのかは不明だけど、何かの形で残されている物は多い。
それも文化や生活、いやいや人種と言うか種族の違いだからなのかなぁ。
かと言い『トキヒコ観察記』は、誰かに何かを伝える為に書き記すのとはちょっと違うんだけど。
あくまでも、自分の趣味的な行いなんだけどね。
とにかく、私が使いたい、使おうとするモノが何も無い。
何か道具が欲しいのであれば、自分で作るとか、誰かに貰う(作ってもらう)とかの調達方法しか、脆弱な自分の脳ミソでは思い浮かばない。
無い物をあーだ、こうだと言っていても始まらない。
ではよし、先ずは鉛筆なりペン類の調達から開始しよう、、、しなくっちゃ。無いなら自分でなんとかする、だな。
ココ(エルフの里国)にて、私が何かを書き記す時にお借りしていた物は、見た目『エンピツ』と変わらない。
だけどそれは、太く真っ黒な鉛筆の芯みたいな物の周りに、木の皮や動物の皮が巻かれていた物。
エルフの食堂でお借りしたり、ズレヅノォグロマジチキシェ(建具や屋内の造作物製作者)のストラーカが設計図等を書く時も同じ物を使っていた。
この太く真っ黒な鉛筆の芯の親玉が何かは知らないのだけど、何かを書き記すには十分な物だ。
「トキヒコさん、出掛けるまする。」
「へっ、何処へ?」
リーザから唐突に声が掛かる。リーザ、王宮で仕事かな?
「トキヒコさん、ご一緒して頂きますよ。」
「えっ、オレも?」
でも突然、リーザ珍しい、、、いや『エルフの里中を連れ回して欲しい』さっそく発動か?
断る理由は無い(特に何もしてないから。)それで何処に行くのだろう?
「そろそろトキヒコさんは『トキヒコ観察記』を始めます事と成りましょう。成らば、書き記すべく道具の類が必要になります事。」
「う、うん」バレてる。
ココ(エルフの里国)には、私が知り、使い慣れた文房具用品が揃って無い。物自体が無い。
だから売ってる店、当然在りません。
例え在ったとしてもお金、有りません。
「先ずは、先程トキヒコさんが思いを馳せました鉛筆、其れ成るを造ります事とします。」
そう、無ければ無いで、作ればいい。どうやって?
「トキヒコさんは、それらをご自身で準備なさろうとしております。」
うん、誰かに頼べば手っ取り早いかも知れないけど、それはちょっとな〜。
さくらにも『自分の事は自分でやれ』って、生意気にも言われちゃったからなぁ。
でも材料は?どうやって鉛筆を作る?
「リーザ、鉛筆の材料って、いつも私がここで借りたり、皆が使っている鉛筆の芯の親玉みたいなヤツ、あれもやっぱり鉛筆なの?」
一般的な鉛筆よりも濃く、それで何だか粘っとりと柔らかい。そして太いので使いづらい。
「其は、グルビイ・レドセン・オロウェク(太い芯の鉛筆)ですね。」
「殆ど同じとなりまする。トキヒコさんが表せよう『鉛筆の芯の親玉』、トキヒコさんが知りまする鉛筆の芯部分と成分的には同質の性質となりましょう。」
「成分的に同質~?」
「はい、『鉛筆の芯』は“黒鉛”と“粘土”より作られます。粘土が多き程に、その芯は硬く成りましょう。その混合比率にて芯の硬度や濃さ、HやBのアルファベット表記が付けられます製品として分かれまする。」
リーザの知識は人間社会で得たモノ。そうなんだよな、鉛筆って芯の硬さや濃さで、BとかHBとかがある。
この鉛筆の芯の種類で表される“H”はハード(硬い)、それと“B”はブラック(黒い)の略字で、Hの数字が多いほど(薄く)硬い芯となり、Bの数字が多いほど濃く柔らかい芯となる。
ちなみに、“HB”はそれらの“中間”となるそうだ。
「でも、黒鉛~?黒い鉛?」
鉛筆の芯が鉛だったら、何か体に悪いイメージが有る。鉛筆の先っちょを舐めたりしてたのはアウトか。
「トキヒコさんの思われますオローワ(鉛)とグラフィト(黒鉛)は別なる性質を持つ物質となりまする。」
鉛筆の芯は『黒鉛』から作られる。
黒鉛は『黒い鉛』と表されるが、鉛とは別物、成分として違った物。元素分析が行われる以前には、その見た目から鉛を含むと思われていた為であるが、実際には鉛はまったく含まれていない。
「黒鉛はダイヤモンドと同じく炭素の仲間なのです。ですがダイヤモンドと兄弟と言えども結晶構造の違いにより性質も形状も異なります。」
鉛筆の芯と宝石のダイヤモンドが兄弟?!
「またですね、黒鉛成る物質は優秀な多くの面を持ちまする。」
「優秀って?どんな?」鉛筆の芯以外の用途があるの?
あーっ!
「黒鉛は粉末とすれば、潤滑材油分を含まないながらも潤滑性と導電性を有します。よって、埃が溜まりやすいゆえに多量の油分の使用が望ましくない箇所の潤滑に単独で用いられることは多ございます。あちらで身近とされます例を挙げませれば、室内向けの鍵穴、キーシリンダーの潤滑材に使用されましたり、ゲーム機器やパーソナルコンピューター等の電子機器のコネクタ部の接点、同じく復活剤や電子基板のパターンを補修する際の用途として用いられます。」
リーザは私の居た世界で得た知識を披露するかの様に、教えてくれる。
「、、、特に比較的高荷重な部位に用いるオイルやグリースなどへの固体潤滑剤としまして黒鉛粉末が添加されたりもします。またですね、何かを潤滑する際にわざわざ黒鉛を求め無くとも、芯の軟らかい鉛筆が手元にございますれば代用は可能と成りましょう。」
ふぅ~、今回は短くて済んだけど、リーザ自身が興味を示した物・地域・時事などであったら、止まらない。
そこに嫌味も悪気も自慢するでも無い。
私が知らない事、知識として不十分な所を何時も補ってくれる、、、せっかくリーザが説明してくれても、分からなかったり、覚えられない事は多いんだけど。
ゴメンねリーザ、私はエルフ達の様に意識の伝達が出来ないから、何時も声を発して言葉でもって説明してもらってるし、脳ミソの貯蔵可能な量というか、記憶出来る隙間も狭い。
「黒鉛って優秀なんだ。それと鉛筆やシャーペンの芯の硬さや濃さが、混ぜる粘土の量なんだ、へぇ~。で、ココで使われてる物は?」
「はい、先に申しました芯の原料と成ります黒鉛ですね、我らの里国でも同等成る性質を持ちまする地中鉱物のオロォワクザミーが採掘されます。」
オロォワクザミー、、、?
「でも採掘って、何処か決まった場所があるの?」
オロォワクザミー鉱山とか?
「オロォワクザミーのコパルニィア、鉱山と表すならば近きですね。其の地域にて採掘されますが、通常であればその地中を掘り進む事と成りましょう。」
“山”じゃなくて、地下なのか。
でも地中を掘り進むなんて、トンネル工事が出来る専用の機械か特殊な車両とかが無いと無理なんじゃない?
私で採掘出来るモノなのかなぁ?
「オロォワクザミーの採掘場となりましょう、カミエニオラム・コパルニィアへと向います。トキヒコさん、出向きましょう。」
エルフの里国に在る書き物(鉛筆相当)の材料となるオロォワクザミー(黒鉛相当)の産地となる『カミエニオラム・コパルニィア』は、ちょっと遠いらしい。
この『ちょっと』がエルフ達が持つ感覚なんだけど、多分相当遠い場所なんだろうなぁ。
それこそ今日中に歩いて行き着けるなら、ちょっとなのかも知れないぞ。
「うん、出掛けよう。でもそれが遠出となるなら、遠い場所への移動方法なら、、、」
『ドローガ・ドロゼワゥ』(樹木へと入り、その持つ流れの中で場所を移動する技)で、私はちょっと参っていた。
一時的な事だとしても、自分の力で、意思で、遠くへの移動が叶った瞬間。
車やバイクなどの物質を使った物理的な移動手段を超越してしまう現象。
だけど私は封印した。(この前使ったけど。)
それは、この『技』を使う自分自身の意志の正しさと制御が怪しい事、それと「いつか何か取り返しのつかない事に繋がってしまうのでは?」と未知なる不安を抱えてしまったから。
『ドローガ・ドロゼワゥ』だから、この『力』を与えてくれたリニジュカさんの所へ行く時だけの限定とした。
でもやっぱ、凄い力であり技を手に入れて、体験した事、感じた事を引きずってしまう。
使えるのに使わない。それは少しの葛藤でありつつも、喪失感に近い何かが蟠る。
そして、出不精になった。
トキヒコ観察記を始める準備をしていない事、遠出に対してちょっと億劫になってる自分、、、リーザは何でもお見通しだな。
「カミエニオラム・コパルニィア、その地に赴けませば、オロォワクザミー(黒鉛相当)の鉱床がございます。」
「ふむふむ、でも鉱床だなんて、リーザは地中を掘り進むと言ったけど、黒鉛の地下鉱脈でも有るの?」黒鉛だから、真っ黒な地面だったりして。
「オロォワクザミーは地球上の黒鉛の鉱脈と同じく、其の鉱床は地上よりスェイシチ・ゼズの地下にございます。」
うーん、確か“スェイシチ・ゼズ”は6と100、、、600?!
地下600mって無理じゃん!人が掘って進める深さでは無いよっ!
「トキヒコさんご心配無く。オロォワクザミーの鉱脈は地中深くと申しましたが、カミエニオラム・コパルニィアの山系は隆起に寄りますモノ。オロォワクザミーの鉱脈も隆起に伴い地上寄り近くまで迫り上がりております。」
オロォワクザミーの地下鉱脈も山と一緒に迫り上がった?
「そして採掘を行いし横穴の場を設けており、採掘と搬出経路、換気、水抜きの確保等の安全対策も滞り無く。」
やっぱりエルフ、何だかんだと優れている。
カミエニオラム・コパルニィアの山か、でも、その谷底ってどんな場所なんだろう。山奥の谷底?
エルフの里国には、旅行案内所や地方や各地の紹介所もないし。
だから事前に行き先の情報が得られないのはもどかしい。
どこかで特産品が有ったとしても、PRする機会が無いのは勿体ないんだけど。そうだっ!
「リーザ、アレを使おう」
ここで新たに導入された新兵器。何かの石から削り出された、姿見に近い大きな一枚板。
ディアメント(菱形)の石板の表面は真っ黒である。
コレは、母王ジールから『トキヒコハウス』の新築祝いにと、届けて頂いた物(エルフの里国には、プレゼント交換や手土産、何かのタイミングであっても、物をプレゼントする習慣は無いのだけど、人間社会を知るエルフの王家の者達だから、何か変に気を使わせちゃったのかなぁ。リーザは凄く驚いていたけど)。
周囲を写し出すという『ロムブ・オコリカ・ルストーロ』という鏡の登場。
相手の意識を読み取れない私が、誰かの何かを可視化して知るために、誰かの意識や誰かの記憶を映し出す物。だそうだ。
ただ、このルストーロ(鏡)にて写し出すのが可能なのは、相手(本人)からの事や、エルフの里国の中だけの範囲に限られるそうだ。
エルフ王家(母王ジール、女王ユーカナーサリー、長子であるザーララ)がオブセーワクジャ(『観る』)物とは違う、、、そうだ。
それは行使される“魔力”の位置が違うから、、、良く分からん。
リーザがロムブ・オコリカ・ルストーロに“魔力”を流し込めば、鏡は淡い光を宿し、なにやら情景が映し出される。
エルフの王宮にある、女王ユーカナーサリーが持つ物や、母王ジールの部屋に有るという物とは少しニュアンスと言うか“モノ”が違うらしいのだけど、不思議な物。
“魔力”が流し込められれば、それが起動する為の電源相当となり、まるでモニターの様に何かが映し出される。
「テレビ画面を観るみたいだね」
菱形で真っ黒だった一枚石板は、今はどこかの風景を写し出す。
その景色は、起動の為の“魔力”を流し込んだリーザの意識が反映される。
当然、“魔力”を内には秘めない私では出来ない。“魔力”を持たぬ者にとっては只の黒い板。
これが一種の『鏡』だとしても、自分の顔を写す事も出来ない。
「リーザ、ココがカミエニオラム・コパルニィアになるの?」
リーザの魔力によって、映し出されたのは『カミエニオラム・コパルニィア・ワヅゴーゾ』
そこは、その山頂部分は雲を突き抜ける程高く、頂上部分は今映し出された角度からは、ハッキリとは見えない。
全体に見るからに黒く感じる、草木の生えていない剥き出しの岩山の禿山だ。遠方よりその山々の頂上部を見れば、トンガリ山で削り出されたエンピツの形に近いそうだ。
映し出されたカミエニオラム・コパルニィアの風景が動く。
トンガリ山へ近付いて行く。
そして山の根元に迫れば、人の手で掘られた事が分かる横穴が見えて来た。
「これって、採掘の為の坑道の入口なの?」
だけど人影が見えない。余りエルフ達が立ち寄らない場所なのかなぁ。
「トキヒコさん、今ルストーロに映し出されます情景は、私の意識であり他者より得ました記憶の一部。」
「故に、反映に制限と成ります事、尚も今現在と異なります事をお許し頂きたく。」
「いやいやいや、許すも何も問題ありません」
そうか、映し出される景色はライブ中継とは違うのね。
「他の者の姿無き、そうですね常に“物を書き記す”行為の者は少のうございますし、使用頻度の高き者は自身にての蓄えを持ちましょうから。」
蓄えかぁ、ストラーカに分けてもらえば良かったかなぁ。
いやいや、自分で出来る事は自分で。
それと、鉛筆作りなんてした事が無いから、原材料からの調達だと、ちょっと面白そうにも思った事も確か。
エルフの里国の者達が、何かを書いたりする姿を余り見た事は無いけど。(普通に多くを記憶してたり、向かい合えば意識で伝達しちゃうからなぁ。)
ただ、『カミエニオラム・コパルニィア (黒鉛相当の採掘場)』、山頂部は雲の中に隠れたまま、さっき見た想像出来る途中の道中は、急斜面を幾つも進まなくてはならない。
登ったり下ったり、、、滑り落ちるかも、、、たどり着くにはにはおいそれとは行けそうにない。
さて、どうやって行こう?
やっぱりリーザの“魔力“でもって、何やら移動の『術』を行使してもらおうか。
だけどそれって、誰かに頼りっ放しになるよなぁ。
「トキヒコさん、そこは私にお任せ下さい。」
「確かに他者へ頼る事と成りましょうが、出来る事、出来ぬ事は皆が持つモノです。」
「そうも知れないけど、」
何処かに行くなら車に乗ったり、電車やバス、自転車だって、、、どうしても『どうやって(遠隔地に)行く?』と考えた時、移動の手段として、乗り物に乗ったり公共の交通機関とかを考えてしまう。
歩く事だって移動の為の手段には変わりないけど、時間の節約というよりも、便利な事、楽な事を優先して想像してしまう。
まあ、そうやって生きて来たかならなぁ、仕方ないか。
「そうですトキヒコさん、『仕方の無き事』やも知れません。でもですね、『郷に入れば郷に従え』でもあります。『郷』とは我らの里、この世界に於いて、です。」
「魔力にて術を行使します事、我らとすれば日常です。尚もトキヒコさんがお近くい居ませれば、私の負担も皆無に等しく、」
ああ、ルイラーね。見えません。
「そうですトキヒコさん、参りましょう。」
「良しではリーザ、お願いします。『カミエニオラム・コパルニィア』に連れて行って下さい。」
よ〜し、『トキヒコ観察記』開始の第一歩だ!
ただ、鉛筆の芯の親玉である『オロォワクザミー』が手に入っても、オレが鉛筆なんて作れるのか?
経験が無い事、やった記憶の無い事に対して、少しの不安と躊躇心は発生してしまう。
鉛筆作りなんて、大した事では無いのに、、、たぶん。
少しの逡巡、リーザに顔を覗き込まれた。
「トキヒコさん、『やってみなければ始まらない』ですよ。」
あー、オレのセリフ。
そうだよな、材料が調達出来れば何とかなるだろう。
よし、グルビイ・レドセン・オロウェク(太い芯の鉛筆)だっけ?を作ろうじゃないか!
「じゃあさ、エルフの里国でも鉛筆は持てるって事だね」
「可能となりましょう。」
よ〜し始めよう!先ずは書き物(鉛筆)を作ろうじゃないか!




