さくらの持つ力の源流 さくらの気づき
トキヒコは目覚めた。
「夢でも見ていたのか、、、?」
トキヒコは上半身を起こすと、この場所、左右に分かれる樹木の真ん中で胡座をかいた。
「うーーーん」
そして、ひとりで唸り出した。
「お父さん、どうしたの?」
(「父はこの刻の止まりし場にて、何かを感じ、何かを見たのだろうか?」)
「あーさくら、何か夢でも見たのかも知れない」
(「夢?」)
あれは、夢だったのか、オレの持つ記憶の一部だったのか。
「そうね、夢でも見たんじゃないの?何か恐ろしい夢でも。」
(「父はどんな夢を見たのだろう。」)
さくらは精霊達との交信に夢中となり且つ、自身の届かぬ意識であり、父と精霊達とが同じとする“気持ち”が何であるのか、それは自分が届かない一種の領域とも表せるのか、そして何故自分は理解に及ばない、、、父トキヒコが隣で寝ている事を忘れていた。
恐ろしい夢かぁ。そうなんだよ、夢ってさ、見るとそれは何だか怖い状況だったり、切迫感の内容が多いんだけど。
「何か違うんだ。ただの日常と言うか、怖さも追い立てられる事も無い。大事な事かと言えば、そうでも無い。ただ普通の事。そんな感じ」
「オレはいつも通りの出来事の中にいて、、。何だった?」
何の事だった?オレの事だったのか?夢の中に、誰か出て来た?いや、、、ただの夢、、、だけど憶えて無い。
「あ~何か、悔しい。思い出せないのが悔しい」夢を見ても、いつもそんな感じ。夢を明確に覚えている事って、実際は少ないしなぁ~
(「父が見たとされる夢。それはどんな夢であったのだろう。」)
さくらが如何に強き力を持とうとも、相手の見た夢を遡り、辿る事は出来ない。
「あっ!うーーーん、、、」
「今度はどうしたの、お父さん?」
「あー、いやー、オレの源流だかを探しに来たのに、何にも見付けられたりしてない。これだと、ただ昼寝しに来ただけだよ」
(「お父さんがこの場で昼寝をした事は、私のせいでも有るから。」)
「あちゃ~女王様、ユーカナーサリーに怒られる」
「もっと別の場所、別の何かを探さなくちゃ」
それこそオレの持つ記憶の一番古いトコが思い出される所とかに。
だけどそこに、オレの源流だとかが有るのかは知らないけど。
「お父さん、スルガトキヒコの“個”としての源流は、この場所、お父さんの『秘密基地』に有ると思うの。」
「何でぇ〜」
さくら、オレが寝ている間に、何か見付けたのか?
「直感よ、女の“勘”ってやつよ。」
「はあぁ、」
エルフは『勘』に頼らない、勘を働かせない、そもそも持たない。
例えば、何か問題を前にした時、意識の中では思考の更新や選択が繰り返えされ、答えに辿り着こうとする。
そこに人間が持つ『勘』が立ち入る隙は無い。
尚も『勘』は確定していない事由を選ぶ事でもあり、未確定 な事を選ぶのは、エルフとしては苦手であり、行わない。
さくらは『勘』だと言った。
さくらはハーフエルフとは言え、人間の部分が多いのか。
そうするとやっぱり、さくらの持つ何かしらの“力”は、オレからの遺伝でさくらに何かが渡った、、、それを探しに来た筈なのに。
「はぁ~、さくら、ヒトが個人として現されるべき源流って何だ?そもそもそんなの有るのか?」
女王ユーカナーサリーは、皆が持つとされるモノとかおっしゃられましたけど、そんなの意識した事もないし、個性だとかもいつの間にか生まれて身に着くモノじゃないの?
、、、生まれる、何処から?どうして?
「そうね、お父さんはどうしてスルガトキヒコなの?」
「いや、そんなの両親から産まれた時からそうだよ。」
「だけど、産まれし刻と今現在のスルガトキヒコは同じであるが、異なる存在。其れは持つ意識、思考、意志、習性、、、性格を自身が現す“個”として持っている。其れは何時、きっかけであり決めたり刻、指針は?構成されし自己の誕生はどうして?」
「そんな矢継ぎ早に言われてもなぁ。そりゃあ大きく、大人に向かって育って行く途中に、好き嫌いだとか、経験した事や誰かの影響を受けたりして、性格とかが出来て、」
「お父さんはまだまだ大人に育って行く途中なのね」
「何で?」
「お父さんの精神は、子供の頃から変わってないんじゃないの?」
「いや、でも、ほら、、、あー、そうかも」
精神年齢、10歳ぐらいかなぁ。
「だけど、自己の誕生の時かぁ。さくら自身はどうなの?」
「私は分からない。だけどいつの日にか知らざる刻を迎えた場面で解る様に、、、此の刻にお父さんに着いて来たんだけど。」
「なんか今、それっぽく言ったけど、なんだかズルい」
「何よ、ズルいって、、、」
さくらの持った『ジレンマ』。
さくらはトキヒコの源流であろう“気持ち”の存在を知るも、それが何なのかは分からなかった。
尚も初めて触れる事となった精霊達が父と同じ“気持ち”を持つ。
そして彼らの持った“思い”が自分に届いた。
さくらは頭の中と『心』として、新たな知覚を得るに至った。
だが、理解とまでは届かなかった。
届きそうで届かない。
さくらの意識は葛藤していた。
「オレの“秘密基地”。久し振りにここに来たけど、」
不思議と何も変わってない。まるで時間が止まってしまっているかの様だ、、、そんな印象。
だけど、そこに特別な何かが有るでも無く、単なる懐かしさしかない。
ヒトは成長し、大人になると何かを置いて行かなければならないのか?
、、、いや、子供が大人に成ろうが、別に置いて行かなくてもいい。
ヒトの成長の過程は、実際の積み重ね。
だったら、だったら一緒に、一緒に持って行けばいい。
「お父さん、ココにはまた来るの?」
スルガトキヒコの秘密基地。
「さあ、どうだろうなぁ」
実際住まいはエルフの里国に移したし、『ドローガ・ドロゼワゥ』でないと、今のオレでは来られない。
確かに懐かしい場所、オレの源流なのかも知れない。
次に再び、この場所に来る日は有るのだろうか。
だけどこの場所は、オレの持つ記憶であり意識であれ思いが有る。だからこの場所を気持ちとして、一緒に未来に行けばいい。
「なんかさー、誰にも教えないつもりだったけど、さくらにバレた」
「バレたって何よ。ココに私を連れて来たのはお父さんでしょ。」
「まぁそうだけど。だからさ、さくらに譲るよ」
「何かさ、ひとりで考え事でもする事があったら、使えばいい」
オレは自分の中に、この場所を刻めばいい。
「さくらだったら『ピュー』っと来れるだろ」(ズルい)
「ズルいって何よ。でもそうね、そんな機会があったら使わせてもらおうかな。」
(「精霊さん達、その時にまたお会いしましょう。
自身の探求は自身で行う、、、お父さんに言われそうだし、、、人には何でも直に聞いて来るくせに。それに、」)
(「それに、次に来た時は、私も彼らに家族として迎えられるように、、、」)
さくらは改めて、周囲に集まっている精霊達を見回した。
さくらの紅赤の瞳と彼らとの瞳が交差する。
(「彼らの表情なんて分からない、見た目からその持つ思いは感じられない。」)
(「でも違っている。今日この場に初めて訪れて、初めて彼らの事を目にして、、、感じる。)」
(「この場に集まる彼らを知る事と成った、彼らの意識が私にも向かっている事を感じる。」)(「だけど父は私の秘める事となった“力”に関する因を何も持たない、、、」)
(「でも、この場を興しているのはお父さん、父スルガトキヒコだ。そして彼らと共に進む、、、それは私ではまだまだ届かない領域であり、意識、、、それは気持ち。」)
(「いつの日にか、私も持てるかも。そうすれば、その時私も彼らから“家族”として迎え入れて下さるだろう。」)
この場に集う精霊達。彼らにさくらは認識されている。
「さくら、帰りは頼むよ」
さくらは『翔ぶ』。理界を越え渡って。
「お父さん」
「えっ、」
トキヒコは振り向くと同時に、不意にさくらから投げ渡されたリンゴに似た果物を受け取った。
「突然何だよ、こう言った事は相手が認識してから、」
「視覚情報から即判断し咄嗟の行動に移せるのは、スルガトキヒコの持つ唯一の“力”でしょ?」
“力”って、そんで唯一って、、、あー、別に特別な『技』や“魔力”も持って無いけど。
「このオホゥツ(果物、リンゴ相当)を剥いてよ。」
「いいけど、だけど食べ物を投げるのは良くない。リーザに見られていたら怒られるぞ」
エルフは果物を食べる時に、皮なんて剥かない。
果物の皮の厚い薄い関係無く、4つ位に切り分けたり、丸ごとだったり、皮も一緒に食べてしまう。
それは、大雑把だからでは無い。
芯や種も食べてしまう。
それは全てを恵みとして、受け入れているから。
そして、全てと共に歩もうとするから。
「どうしたさくら、久し振りに向こう(人間社会)に行って、何だか恋しくなったか?」
「人間社会が恋しいのは常よ」
「ふぅ~ん、じゃあなんでオレに果物を渡したの?(そんで、剥かすの?)」
トキヒコが台所に立つ時間や、リビンクのテーブルの上で、果物の皮を剥くことは度々あった。
リーザに頼べば果物の皮は剥いてくれた。
でもエルフの持つ側面が、リーザが僅かであれ、少しの抵抗を示すのをトキヒコは知っていたから。
「お父さんは、果物を食べる時に皮を剥く。全部じゃないけど。」
「だから、お父さんがエルフになっていないかの確認。」
「それは、なりたくてもなれないんだ。エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーに言われたよ」
もしもオレがエルフになれたら、、、エルフ達と同じになれたら、、、エルフ達と添い進むには、リーザと共に過ごすには、、、人間が持つ時間は短い、、、だけどそれだともう、それはオレでは無いと。
「知ってるわよ。だからお父さんがエルフに成ろうとして、無理していないかの確認よ。」
そう、エルフになれたなら、エルフ達、リーザと過ごす時間を伸ばせれると思ったから。
それは人間が持つ“死”から、少しの時間でも伸ばそうと、逃げようとする事に他ならない。
「何かさ、久し振りに“秘密基地”に行って、少し気持ちというか、気が変わった、、、様な気がする」
トキヒコ自身が自分の持つ“気持ち”に、何かの変化を感じたのは確かであった。
「何だろう、『一緒に居ればいい』そんな言葉だか考え方が思い浮かんで来た。どこかで忘れていた事なんだろうか」
(「お父さんがあの刻に見た夢?」)
「人間やエルフに限らず、虫も鳥も獣も、木や草だって、その命が尽きる時が来る」命を持つ者は、誰も逃げられない。
「皆んなの行く先、向かう場所は同じだ。だから、だからさ、、、一緒に向かえばいいんだよ」それぞれに、行き着くまでの時間差が有ったとしても、ゴールは同じだ。
「それは特定の誰彼とかでは無くて、、、うーん、何か説明するのが難しい」
「だけどさ、ゴールまで、早い遅いは有っても、共に進めるのであれば、同じに進めばいいんだよ」そんな感じ。
そう、エルフ達より、リーザより、オレが死を迎えるのは早い。
でも、命在る者が辿り着くゴールは同じだ。
だから、、、だからさ、その時が来たら、ちょっとだけ先に行ってるよ、、、そんな気持ちを少しだけ、思う様になった、、、のかな?
トキヒコの自身の死に対する変化があった。
死を想えば恐怖する事。それは変わらない。
僅かな時間であったが、自身の源流のひとつであろうか、過去に過ごした『秘密基地』を訪れ、無意識の中であれ自身と向き合う時間であった。
特に思い出した事は無い、改に感じた事も無い。
ただ、あの場に居ただけ。
だが、トキヒコには何かが伝わり、想い起こす何かに触れた。
それは命の尽きる刻を命在る者のゴールとするならば、全ての者が持つモノであり、全ての者が持てるモノ。
だからただ、向かえばいい。
トキヒコはトキヒコ也に、満足していた。
(「お父さんは簡単な言い方で話すけれど、、、
共に進む、、、隣人だけでは無い。虫、魚、鳥、獣、、、生命体の位置に限らず、花、草、樹木、、、漂う菌、潜む細胞体、、、水、鉱物、空気、、、命の有無すら関係無い。
ただ、この場に在るモノ、星の中に存在するモノ、、、全ての領域に渡る、、、全て、、、かと言いそれらを特別視したり尊重するでもなく、、、自分を改めるべきでもなく、ただ、そのままに、、、相手に対しても、そのままに、、、共に進むだけ、、、ただ、共に在るだけ、、、」)
「どうした、さくら?」何か難しい事でも言ったかなぁ。
ちょっと、自分でも何言ってるのか分からなかったけど。
「お父さん、何時からそんな考え方をする様になったの?」
(「父、スルガトキヒコの持つ、源流の側面の一部だとしても、、、」)
「さぁ、いつからだろう」
(「お父さんが持つ“気持ち”、まだまだ私はその本質にまでは届かない、、、でも、」)
「どうした?」(人間の時間軸で)年頃の娘が何考えてるのか、分かんないなぁ〜
「“共に進む”凄くいいと思う。だけど、お父さんには似合わないわぁ。」
「いや、似合う似合わないって、」あー、似合ってはないな。
「はいどうぞ」
トキヒコは、さくらとの今の会話の内に果物を剥き終え、お皿に並べた。
「ありがとう。お父さんは人間のままね。」
エルフの里国に移住となって、確かに日々は過ぎて行く。
「そんな簡単に変われないよ。生活習慣かな。朝起きて、何か食べて、夜に寝る。なかなか生活感も変わったりしないよ」
「お父さんは、変わったの。」
「そぉ?」
「会社にも行って無いでしょ、だから無理してまで朝に起きない。」
「まあね」
「お父さん、エルフの里国での暮らしはどお?」
「もう天国だな。うん、便利」
「何よ、ソレ。」
「エルフ達ってさぁ、こっちの意識を読み取るじゃん」
(人間社会で暮らすにあたり、リーザには制限を掛けさせていた。)
「エルフ達と接するにあたり、初めは戸惑った。いや、それだけでは済まされない程に色々と感じて、正直困った。いや、困ったと言うより、恐怖だったのかも」
「だけどそれが相手の普通な事だと思う様にして、オレも見繕ったりするのを止めた。だって無駄だもん」
「それで、意識や意志、こっちの気持ちを感じて、読み取ってくれるのは、凄く便利だと思った」
(「お父さんの“気持ち”を読み取る!」)
「その便利って、、、?」
(「エルフ達はお父さんと接して、その持つ“気持ち”が伝わったの?」)
(「お父さんは、エルフの里国の皆に受け入れられている。そこにママであれ、女王様との関係性は関わりを持たずとも、、、それは、スルガトキヒコの持つ、固有の共振に同調と成り、連なったから?!」)
「ああ、背中が痒い時なんてさ、自分が想像するだけでリーザが的確に優しく対処してくれる。それだけでもう天国だな」
「何よソレ!」
(「でもお父さんは、あくまでも“人”まま、エルフと接する事を身に着けている。ありのままの自分を示している。」)
(「自分の意識が相手に『伝わって』しまう事なんて、人間として理解し対応する事が出来る者など居るのだろうか、耐えられる事なのだろうか。それだけ人間は色々な想いを秘めている。他人には知られたくない多くの事柄、感情を。」)
「もぉ~、私にそのお父さんの気持ちは伝えて来ないでよねっ!」
さくらは、トキヒコとエルフの里国へと移住を果たした後、“魔力”に対しての探求、実際の行使、それは目まぐるしく続いていた。
そして、自身が持つとされる“力”と向き合い、悩み、葛藤、追求、、、気持ちを安らげる時を余り持てていなかった。
そんな状況の中で、自身の現状に対して余り振り返った事は無かった。
「私はどうなんだろう。」
(「私は半分人間よ」)
「お父さんに習って、エルフとしての『ありのまま』を受け入れているつもり。だけど、」
(「私が何故、エルフが持つ魔力とは異なる“力”を持つのかは解明されていない。その因は解らずのままだ。」)
さくらの葛藤する感情は、爆発寸前でもあった。
「お父さん、私は何故、エルフが持つ“魔力”とは別の“力”を持つの?どうしてなの?!」
さくらが誰かに聞きたかった事。
だけど、誰に対してでも、特に父トキヒコには、聞くのをためらっていた事。
、、、思わず、出てしまった。
「さぁ、知らん。」
トキヒコは、素っ気ない返事をした。
「何かソレって問題が有るのか?誰かに迷惑を掛けてるなら問題だな」
「そうでは無いけど。だけど自分の事が分からない事は恐怖でもあるのよっ!」
さくらは自然とその声が上付き、怒りの感情が少し湧くのを感じた。
(「怒り?誰に対して?私を人間とエルフとのハーフとして産んだ両親に?
いや違う!そんな事は誓ってでも、、、だけど、」)
「オレだって、自分の事をどこまで知っているのかは分からないよ」
「それは皆んな同じじゃないのかなぁ」
(「今、父が言っている事に、間違いなんて無い」)
(「自分の事を分かっている者など居ない、、、だけど、」)
「そっか、さくらが未知なる力を持つ理由か」
(「あの精霊達からの因とは別の事象でも在るの?父は知っているの?」)
「さくらがさ、未知なる力を持つ事になったのは、スマン、正直分からない」
「だけどさ、この世の中には知りたくても解らない事、知らなくてもどうにかなる事、知らないで済む事は多い。さくらの持つ『未知なる力』がそれに当てはまるのかは、分からないけど」
「でもそれって、必ず知らなければならないのか?知らないと何か不都合だったり、誰かに迷惑を掛ける事になるのか?」
「違う、だけど!」
「だったら、いいじゃん」
「さくらが力を持ったのは偶然だとかたまたまで」
「偶然。偶然なんて事象はあり得ない!必ずそれに繋がるべき理由であり事象は存在する!」
(「父が他人事だからと言っているのでは無い事は分かる。父のためらいを感じる意識も思考も、はっきりと入って来てしまう。」)
(「父の思考、意識、感情が直接解るから、エルフの側面である“魔力”を持つから、伝わって来て、痛い程分かる。」)
(「そう、痛い、、、
そう、、、父が、私以上に私の事を思い悩んでくれている事も分かる。」)
さくらの頬に涙が伝わった。
「何泣いてるんだよ。さくらが未知なる力と言われるモノを持っていようが無かろうが、オレとリーザの娘である事には変わらない。
だから、いいんだ。
そのままでいいんだ。
さくらは何か力を持つ。それでいいんだ。
だけどそれを受け入れるのは、自分でしかない。オレじゃない。
さくらはその中で、ありのままの自分を示せばいいんだ」
「オレ達は一緒に居る。それは場所が離れても、それこそ理界を越えてでも」
「親は子から逃げられない。子は親からは逃げられない。
だけどそんな考え方すら要らない、不要だ」
「さくら、さくらはオレ達の娘だ。それに負い目が無いのなら、自信を持って自分を示せ。それはお前の父として、オレからの命令だ」
「文句が有るなら、」
トキヒコの何時ものセリフ。トキヒコが示すスルガ家の家訓のひとつ。
「自分でやれ、ね。」
その後はさくらが引き取った。
「いや待て。それだとオレが言った事になるから、オレがさくらの事を示す事になるじゃんか」
「それもそうね。」
「だろ」
トキヒコとさくらに笑顔が戻る。
さくらの心が抱える“グニェーフ”は、薄れて行く。
さくらは自分の家族と過ごす事で、心の安らぎを得る。
さくらは独立したエルフである。
それが、人間とエルフのハーフだとしても、人間としての意識も感情も根底に流れ持つ。
その流れが乱れた時、対処出来るのは人間の意識と感情を持つ者であるかも知れない。
人間の持つ意識と感情、、、今この場であれば、トキヒコ以上の適任者は居ない。
それが例え言い合いに発展しようとも、安らぎには変わらない。
「何のお話しですか?」
リーザも自然と輪に入る。
「さくらの持つ『未知なる力』の探求」
さくらの持つ力、それを聞かされたリーザは、外へと気付かれない形で緊張し戸惑う。
「ト、トキヒコさん、其の解が有りますのか、」
「うーん、良く分からないから、じゃあ、まぁいいかって事」
リーザはさくらの持つ『未知なる力』について、口に出す事は無かった。
それは、その因が何とするのかは、母であるリーザも分かってはいなかったからである。
しかし、分からない事を留めてしまっていた自分に負い目を感じていた。
探求を止めてしまう負い目、、、それはエルフの持つ側面のひとつ。
「リーザ、それがさくらの持つ“力”の今の結論。まぁ、何時か変わる時が来るかも知れないけど」
トキヒコの出した『結論』。それはどんな形であれ、示されたひとつの結果。
それはリーザの抱えていた小さな“グニェーフ”(気持ちの“しこり”とされるモノ)を解する事にも繋がった。
トキヒコの何気ない(無責任とも言える)言葉は、リーザにも響く事と成った。
リーザの抱えていたグニェーフ。
どんな形、どんな意味であれ、トキヒコに示されたそれは、リーザにとっての答えには変わらない。
リーザは救われた気持ちに満たされる。
(「ああ、トキヒコさん、、、」)
「さくらは、今よりトキヒコさんがお示しに成られました解につきまして、如何なる定とします?」
リーザのグニェーフは解された。
であるなら、我が娘の抱えようグニェーフを解する為に向かうべき。
さくらは、どう捉えている?
「お父さんが示されたモノ(じゃあ、まぁいいかって、、、なによっ!)、其はお二人の児で在るが故に私が現せしモノ。
其は代替無き示されます事実。他に占めまさる因が有れど、之より定めと成る因は無き。」
さくら、、、何だか分からん言い回しで、エルフ特有の会話か?
リーザは満たされる。
「トキヒコさんは此度さくらと二人して出掛けられましたが、」
あー、最近リーザを留守番役、、、置いてけぼりにしちゃってる感がある〜ゴメン。
「トキヒコさんの意識、少しの変化を感じられまする。」
う〜ん、何がバレたんだ?
「命在る者が行き着く先、其は決められてましょう。」
「其は、トキヒコさん、私であれ、さくらであっても同じ事。」
うっ、全てお見通し。リーザどこで聞いてたの?
「ですが、待つのがスルガトキヒコですか?」
「何事にも向かう者、逃げずに立つのが、スルガトキヒコです。」
「あー、いやぁ~、オレはそんなに立派なヒトじゃないよ。」
流石に“死”に向かって行く事はしないよ。
だけど、ただ待っているのは違うな。
そう、オレはオレ自身に示さなければならない。
他者に言っているばかりで、自分はどうなんだ?
残されている時間は、有る。
「でもですね、近頃のトキヒコさんは成りません。グータラです。」
グータラって、でもリーザ、そんな言葉、良く知ってたなぁ。誰に聞いた?何処で聞いた?
「そんなのお父さんからに決まってるじゃいの。」
トキヒコの持つ意識も思考も、エルフには伝わる。伝わってしまう。
あー、そうだよな、オレからに決まってるじゃんか。
「トキヒコさん、ただ待つでは無く向いましょう。私は常にトキヒコさんと添い並ぶ者。
向いにあたり行いましょう事、ございます。」
そうだ、エルフの里国に移住する事を決めて、一番最初に思った事。
「リーザ、ごめん忘れていたよ。お願いがあります」
「はい、トキヒコさん何なりとお申し付け下さい。」
「うん。リーザ、オレを連れ回して欲しい」
エルフの里国で暮らす事を決めてリーザにお願いした事。エルフの里国中を見て回りたい事。
「リーザ、それともうひとつのお願い」
「はい」
「『トキヒコ観察記』を作るオレの手伝いをして欲しい」
今のオレは、職に就いていない。
エルフの里国で働く必要は無いとも言われた。
エルフの里国で皆の為になる事なんて、何も出来ない事も知っている。
そんなオレでも、何かをやろうと思った事。
ずーと思ってた。
誰かのためになんて、為らないかも知れない。
エルフの里国の者達が知るモノを改めて表す事に、意味なんて無いかも知れない。
だけど、いいじゃん。オレがそうしたいと思ってるから。
「『トキヒコ観察記』って、何を記すの?」
「ああ、オレがここ(エルフの里国)で実際に見た動物達とか虫達とかを記しておこうと思って」
せっかく見付けた出会った彼らをただ見過ごしてしまうのが、なんだかもったいなくて。
「お父さん、ココにはカメラとか写真は無いわよ。」
「絵だよ絵」
「絵?」
「絵と文字で表すんだよ」
カメラと写真が無くても、なんとか記す事は出来るだろう。
「絵って、お父さんお世辞にも絵が上手いとは言えないけど。」
「ハッキリと言うなぁ。だけどさ、他に道具とか方法が無いじゃん。だからリーザに手伝ってもらうお願いなんだよ」
「お父さん、画材や文房具類も無いわよ。」
「そんな事は知ってるし、分かっているよ」
あー、抜けてた、忘れてた。
『トキヒコ観察記』として、エルフの里国に暮らす彼らを記すにも、画材に鉛筆、書き記す紙だとか、何も準備すらしてない。
そもそも、どうやって手に入れる?
代用品とか相当品って有るのか?
「リーザ、色々とお願いします。多分、めちゃくちゃ多くの事をお願いする事になると思うけど、、、」
「はいトキヒコさん、何なりと。トキヒコさんの望みは私の望み。其は続きましょう事。」
「お父さん、自分で準備する間も持たず、ヒトに頼むばかりは良くないわぁ」
「いや、でも、」
「自分の事は自分でやれ、文句が有るなら自分でやれ、よ。」
文句なんて言って無いじやんか、ココにはお店とか無いじゃん。だから自分で調達するしかないから、、、
はい、グータラでした。
「『してスルガさくら、スルガトキヒコの源流成れ探求の果てにて測ろう先、お前が力を持つは何故だ?』」
「『其は、、、スルガトキヒコとリーザリー・エストラルク・ホーリョン・サー・フェアルンの児であるが故。』」
「『では親と成ろう、スルガトキヒコは何を持ち、お前は何を継ぐに至る。」』
「『父であるスルガトキヒコが、その内にて秘めしモノ、それは、、、そんなの知らないわ。本人に聞いて下さい。」』
「『私は私の両親の児で有るが故、力を秘める。』」
さくらの持った自信に裏付けされた強き思い。それは言霊と成りこの場に響いた。
しかし、母王ジールに対しては強き発言であった。
母王ジール、測り知れぬ力を持つ。
だが、母王ジールは微笑みを浮かべ、さくらに言葉を繋ぐ。
「『そうスルガさくら、それで良き。』」
『「薄れておろうぞ。」』
『「はい?」』
『「お前が持とう“グニェーフ”、其は解するが如き薄まりに或る。」』
(「グニェーフ、私の持つ蟠。私の気持ちが抱えてしまった、突っ掛かっている塊。」』
グニェーフ、、、悩みなどでは済まされない、さくらが持ってしまった心のしこり。
『「スルガさくら、お前は多くの事を“知る”に至った。其が示しておろうぞ。」』
『「お前はお前で在るが故、其を示す。それで良き。」』
母王ジールが微笑む。
ジールはエルフであれど、感情を調整されていないエルフの血を持つ。
だが、ジールが人間の様に感情を表せたとせよ、微笑みや笑顔を現す事は皆無であった。
、、、何故だか、トキヒコの前以外では。
(「私は私を示す。父と母との児で有る事を自信を持って示せる。」)
さくらはひとつの解に至ったのかも知れぬ。
「はい!」




