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ハーフエルフの父~エルフの里国編~  作者: タマツ 左衛門之介久


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来客者 風の民クーリャ さくらとジール『無』

 さくらはチョコレートを持参し、エルフの王宮内でトキヒコとは向かう先を違える。

 エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーのおあす玉座の有る『花の間』より2フロア上階となる、母王ジールの元へ。


 母王ジールは、このフロアの一室を住まいとしており、殆どの時をこの場にて、穏やかに、自身の内にて魔力を廻し、過ごす。

 このフロアは、以前であれば一時期であれ、エルフの里国の王家の者達が過ごした場所。

 今残るのは、母王ジールただ一エルフのみ。


「母王ジール、スルガさくら参りました。」

 母王ジール。現エルフ里国の王家の長と成るが、何も権限を持たず表さず、何事に口も挟まず、携わらず。

 ただこの期に佇む存在。


 しかし、エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーの上位者としての位置付けである事は変わらず、ザーララ、ロウを児に持つ。

 その秘める魔力は邪竜の生まれ変わりと成るズゥイラー直系の血を引き継ぎ、ザーララと等しく近き力である。

 さくらは単独にて、その母王ジールへと謁見となった。


「スルガさくら誉れの児、良くぞ参った。だが、そうも構えるで無い。」

 さくらは畏まる。

 この里を治めるべき力を持つ存在の一柱であり、測れぬ力を持つフェアルン(女エルフ)。


「我が母成る存在、スルガリーザリー・エストラルク・ホーリョン・サー・フェアルンにより作りましたチョコレートをお届けに参りました。」


「スルガトキヒコの命に依りし事か。」

「はい。」

(「チョコレート、母王ジールはお知りであるのかしら?」)

 母王ジール、何も迷いもせずにその手を伸ばせばチョコレートをひとつ、摘み上げる。

 そしてそのまま、口の中へ。

「スルガさくら、我はチョコレート成るを知ろうぞ。」

(「そうなのですね、何時ぞやご訪問頂いた際かしら?」)


「、、、美味しい、、、」

(「母王ジール、控えめで。私の前だから?でも、美味しいお顔をされていらっしゃる。」)

(「はぁ~、何故だか安堵感。」)

 さくらの此度持つべき任は、母王ジールへとチョコレートを届ける事。

 母王ジールのその反応を得、さくらは似合わず緊張感を持っていたのが解かれた。

 母王ジールとお会いする事は初めてではない。

 だが振り返れば、母王ジールと一対一での対面となる事は、初めてであった。


 此度の母王ジールに対する要件は、チョコレートをお渡しする事。それ以外には何も持っていなかった。

 だが、


「スルガさくら。して、お前は私より何を聞きたい。」

 母王ジールに伺いたい、聞きたい事は多く有る。

 何より何故、自分は『未知なる力』とされるモノを持つのか。

 それは何故なのか。

 そして、その先に或るモノは?

 自分自身が常に持つ謎と変わらず、そしてそれは、自身に問い掛け続けている疑問と変わらない。


 だがその答えは、誰かに問う事では無く、自身が見付け辿り着くべき事。

 、、、父ならそう言うだろう。

 それでも、母王ジールに問いたい事は多かった。



「はい、、、母王ジール、『ニィツ(無)』とは?」

 父トキヒコは何を持つ。

 父トキヒコが居なければ、今の自分は存在しない。

 父トキヒコが何かを持つなら、、、自分が持つ『何か』に繋がる答えに近付くのであろう。

 さくらは、父トキヒコの存在についての探求が先と感じた。

 それは、自身の探求に繋がる。


「その問い、ニィツと申すか、、、そのままだ、無は無でしか無き。それ以上も以下も無き。」

「では、其はスミャッツゥ(死)と近き?」


「死と無は否だ、」

「スミャーツゥ成れはスゥラブォン(生)の先と成り、ひとつの存在の部分を現す事象に過ぎぬ、」

「尚もスゥラブォンには差異を持つ、依ってスミャーツゥもそれぞれの態と成ろう。

 だが、ニィツに他は無き。」


「ニィツ(無)は、、、観る、測る、感じる事も無かろう事、」

「ニィツを創り出す事も適わず。無きモノを創るなど、理に反しようぞ。“無”と表す事すら確かであるのか否かの判断とならぬ。」




「ですが父、スルガトキヒコは『無』と表す他に無き空間に居た。」


『そうであったのか、あの刻にスルガトキヒコを測れぬのは、そういった、、、』



「スルガトキヒコは、ニィツ(無)に辿り着いたと申すのか?」


「いえ母王ジール、スルガトキヒコは『無』を創り出しました。」


「、、、解らぬ。その様な事が、、、在り得ぬ事。」



「あの刻に、、、私は父スルガトキヒコに向かって行きましただけでした。」

 もしも、お父さんが行った“場所”を探したならば、、、辿り着けなかった、、、。


(あの時、お父さんは負の感情を拡げ、漆黒の闇を生み出した。)

 さくらはエルフの里国にアンテナとも呼べる独自の“結界”を展開した事があった。

 それは、エルフの里国に現れた“怨嗟の者”とでも呼ぶべき存在を観測するが為。

 何者にも知られず、、、それはザーララであれエルフの里国の王ユーカナーサリーであれ、母王ジールでさえも気付かれぬモノを。

 それはさくらが持つ“力”が興せる事象であり、人間だからこそ持つ『秘匿』の思考を持ち合わせていたが為に。


(そして父は、負の感情の集合体となった怨嗟の者を飲み込んだ、、、そして、、、その果てに、、、。)


 さくらはトキヒコが現した『漆黒の闇』も同時に観測していた。

 トキヒコが現した闇。

 トキヒコの闇はやがて“渦“を形作り周囲の全てを飲み込んでしまう手前であった。

 そこには自身が感じた事の無い感情に包まれる事となった。

 さくらが感じた事の無い感情、、、それは『恐怖』であった。


 思いもつかない感情に包まれたさくらは、戸惑った。

 そして身体が思考が、意識が一瞬であれ“停止”した。

 その停止はさくらに大きな影響を与え、あの場に自身を向かわせるには、間に合わなかった。


(父トキヒコは、消えてしまった。存在を消す事など出来ない筈だ。それが理界を越える事であったとしても、その残照成れは残る。)

(父は、無となったのであったのか、、、)

(だけど、説明がつかない。)


 沈黙であった。

(「『無』を創り出すなど、、、」)母王ジールの思考と想像を越えている。

(「『無』など、存在すべき事象で有るのか。いや、無が存在する事自体が理に反しよう事。」)

(「だが、スルガトキヒコは無の空間に行き着き、尚も自身が創り出したなど、、、」)

 母王ジールの絶句であった。




『「スルガさくら、、、スルガトキヒコは、『無』を概念とし理解に及ぶと申すのか、、、スルガトキヒコは何を持とう。」』

 母王ジールは切り替えた。

 ひとつ深い位置での意識の疎通をさくらと図る。

 トキヒコが関係するならば選んでしまう日本語の使用であり、それは『日本語脳』を働かせる先となる事。

 だが今は、母王ジールの思考は逡巡を巡らす状態に近き、意識の置所にも難を感じたが為。


『「父、スルガトキヒコは何も持ちません、」』

 さくらもジールに応えた。

『「別成る理界に存在となる、地球で産まれし、其の場の一生命体に他成りません、」』

『「尚も地球上には魔力も無く、特異となる事象も在りません。」』




『「母王ジール、単為る人間と表せよう、父であるスルガトキヒコは何者なのでしょう?」』


『「スルガさくら、問に対し問を返すは親譲りか、まあ良い。成れど、スルガトキヒコ、、、測れぬな。」』


『「父は、、、スルガトキヒコは、理に反する存在なのでしょうか?」』

(「お父さんがこの世界に反する存在ならば、私の存在も其れに等しい。だけど此の場に存在と成る事も変わらず。」)



『「スルガさくら、スルガトキヒコは測れぬ。だが其のルーツを辿り、探るは、お前が持たされた任と成ろうのか。」』

(父は理に反する存在なのか?)


『「スルガさくらが持とう“グニェーフ”、其を解するに繋がろう事。」』

(グニェーフ、私の気持ちが抱える突っ掛かっているしこりの様な塊、わだかまり、、、母王ジールはお見透しだ。)


(何故、私は力を持つ?)

(父のルーツを辿る事は、私自身に繋がる事。)

(そして私は其のスルガトキヒコを護りし存在のひとつなのか、、、)

(何故?、今私は自身を父を護ると位置付けた、、、?)


(何故、父は護られる?)

(父を、スルガトキヒコを測る先にその答えは待つのであろうか、、、)

 さくらはひとつの決意に近い、感情を得た。

『「やも、知れません。」』



 母王ジール、再びその手を伸ばし、チョコレートをひとつ、摘み上げた。






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