来客者 風の民クーリャ 鳴らぬ鐘
鳴らないって聞いてた鐘が鳴った!、、、のか?
でも、これは鐘の音なのか?
音は、物質中を振動の波が伝えて行く現象だ。
今この場の空気を押し出し、圧縮された空気は濃さが生まれ、さらに音は押される。
そしてその音は、耳へと届き、脳へと伝わる。
音を伝える事は、その音源から耳までの物質の種類によって伝わる速度が変わる。硬い物が間に入る程、その伝わる速度は速くなる。
今は、何時もと変わらない空気の中に居ると思うけど、この伝わって来る音の速度が速いのか遅いのか、あの鐘(?)までの距離が近いのか遠いのかも分からない、、、。
私が持つその道理と言うか、“音”の感覚や認識とは何かが違う。
、、、どこからとも無く、不思議な音色が届いて来る。
本当に、あのぶら下がっていたモノから響いて来ているのかの判断も着かない。
トキヒコ、さくら、ザーララが訪れているのはシュルアアト・バダカマラ。それは、ハヴァバンドゥーンズローシミィが名付けた『始まりの堂』。
漂う者『エークゥ・トファノキ・ヴィラーサット』がこの地に着き、この場所に『トファノキブーミ』を興す為にハヴァバンドゥーンズローシミィと名を改め定めた場所。
そしてこの場所の構築するにあたり、エレメンツ(エネルギー)である『記憶の石』ヅロドローエネラギアを創造し、配した場所でもある。
シュルアアト・バダカマラはトファノキブーミの全ての始まりであり、全ての源である。
そして、鐘が鳴らされた。
耳に届いたその音は柔らかく、聞いた事の無い、不思議な音色。
一方的に音色が入って来るけど、嫌では無く、体を突き抜ける。
頭の先から入れば、体中を駆け抜け響き渡り、足の先から抜けて行く。
次の音色が届けば、同じ様に体に伝わり抜けて行き、体を抜けた音色は、そのまま遠くまで響き伝わるかの様だ。
「お父さん?」
「どうしたさくら?」
「クーリャが居ないの。」
「はぁ?」
クーリャは自分で自分の姿を消したけど、その重さ(体重)も消せるって(本人曰く、秘密らしいけど)。
「ババーンシミが出て来たから、どっかに隠れているんじゃないの?」
まったく、人騒がせな小人さんだ!まぁ、放っておこう。
それよりもだ、
「ババァン、、、さん、何故、鐘(?)を鳴らしたのですか?」あのぶら下がっていた玉?
ババァンバンドウズーシミは、私より背が低い。
どうやって取り付けた?ハシゴか踏み台で?
「スルガトキヒコ、この場はシュルアアト・バダカマラ(始まりの堂)。」
「はぁ」シュールなアートがバカみたい?
「ここよりこの地の始まりを興し申した。」
「ええ、」このでっかいジオラマの起点ね。
「この場は、トファノキブーミ(嵐の国)の中心に位置し、シュルアアト・バダカマラである。」
うん、さっき聞いた。
「改たな流れを興し、新たな創造も、この堂より始まるべき。」
うん、だから何で鐘だかを鳴らしたの〜?
「あれ?わっ!あわわわわ、、、!」
そしてこの音色に導かれる様に、多くの風の民達が、次から次へと集まっていた、、、いつの間に!
「風の民達が、、、」こんなにも多くの、その上、クーリャみたいな小人さんは一人も居ない、、、。
どうだろう、人間に置き換えたのなら、十代半ば、、、小学生の高学年から中・高校生校ぐらい?皆んな若々しい女学生!
この場に集まる皆は、風童の特徴とも言える、背中から光る羽根を広げて漂い集まって来ている。
だけど、どっから来た?!
こんなに多くの風童達が集まって来ているのに、クーリャの様な小人さんと呼べる者は1人として居ない。
それにしても、こんなにも多くの風童が?!
「天井に向けて、満員電車だよ!」満員電車、、、なんか、懐かしい。
トキヒコ、ザーララ、さくらは、程なく多くの風童達に囲まれる。
「これだけ多くの、、、あっ、もしも自己紹介とかされたら大変だ!」
風童、とにかく名前が長い。
クーリャもそうだけど、クーリャが追われたお姉さん達も、うんちゃら・かんたら・あーだこーだ、すってんどってん、それで最後にヴィラーサット。
「皆さんちょっと、自己紹介は止めてね。皆さんお名前が長くて、最後のヴィラーサットしか覚えられませ〜ん」
名前を聞くだけで相当時間が掛かりそうだし、挙句に、ひとりとして覚えられないだろう。
「いいえ、いいえ、私達は“ヴィラーサット”の名を持ちません。」
「えっ、そうなの?」今集まっている、クーリャよりも断然大きなお姉さん達は、ババァンの子達とは違うの?
「何トキヒコ、今この場に集まりし者達は、風童に変わらず。」
えぇ~風女学生童?
「ですが体が大きいですし、『ビィラーサット』の名前が付かないって」見た目はクーリャの成長した姿、大きな妖精さんには変わらないけど。
始まりの堂は満たされる。
溢れる程の多くの風童達が舞う光景に満たされる。
そして、ハヴァバンドゥーンズローシミィは高らかに宣言する。
「サンショッドヒット、ナーヤ、シュルアアト・ニャーマーン!」
えっ何だって?猫がどうした?
「ハバァ、、、さん、いきなり声を上げられても、何かするんです?何か始まるんですか?!」新作なのか、手直し拡張とか?
振り向いたが、ありゃ、バーンとズロースのシミが居ない?どこ行った?
『鳴らない鐘』を鳴らす事は、彼の風童達を集める為?そんで集めたらどうすんの?それよりも、何処行った?消えた?何で?!
「ババァシミか居ない!それよりも、何かが始まるのか?!」
この場所に集まった(女学生)風童達が、漂いながら回り出す。それはトキヒコの頭上にて、大きな輪を描き出す!
「なに、何、今度は何だぁ〜!」
風童達はトキヒコの頭上を舞い、輝く。背にする羽根の光の強さが増して行く。
輝きは大きな輪となり、この場所が満たされる。
トキヒコ、ザーララ、さくらも、この輝きに照らされている。
「何が始まった?何だか分からないけど」
グルグル、ぐるぐると、空中での運動会が始まった?!
「あ〜光が回りだした、、、、見惚れてしまうけど、何だ、何だか光に巻き込まれる?!」ちょっと不安感有り。
「あっ、バリヤー?」ザーララさんの結界か?
風女学生童達が起こす光に照らされたままだけど、ひとつの“膜”みたいな物に囲まれた感じかする。
「トキヒコ、この場はこの者達の場である。我らが介する事は無き。」
ザーララさん、そうなんだろうけど、何か、何か不安に駆られる。それはこの後何が起こるのかが分からないから。
「トキヒコが配する事など無い。わたしがこの場に居よう。」
さくらも私の隣に並び立っている。
「何かが始まる、何かが、興される。それはどんな事なんだろう、、、」
トキヒコはその頭上で光を放ち、大きな輪となり回っている風童達をただ、見ていた。
風の民達、いや風女学生童達が集まって、頭上を回る。速く、速く。何度も、何度も。
風女学生童達の頭上の“舞い”は続く。
そしてそれは、大きな光球となった。
「まっ眩しい!ババァンの登場シーンみたいだ!」
何が?どうなった?!
「あっさくら、そう言えばクーリャは?」
クーリャもあの光の球の中に入ったのか?
風童達が包まれた、光の輪であり光球が縮まり降りて来る。
光球が床まで届くと、輝きが収束へと向かう。
そして光の中から現れたのは、10人の少女。
あんなに寿司詰めの満員電車のギューギューだったのに、風童10人になっちゃった。合体したのか?
それで少女いや、女性と呼ぶべきか、光輝く衣に包まれ、真っ直ぐに、、、浮いてる?
「これは私達のヴィライ、ミラーン。そしてマウキュイクダヴァを持ちます。」
(「さくらっ!この人達が何を言い出したのか分からん!」)
何語?
「お父さん、新たに現れし者達。彼らは“融合”し“内服”している、、、」
融合!?、、、クーリャが言っていた、失われた『記憶の石』を探しに行った時、お姉さん達と融合してひとつとなり、場所の移動をしたって。
そして私もクーリャと融合(?)みたいになったけど、あの時とは違う。
風童達が融合して、全く別の存在となった様に見える。
そしてクーリャも、このどれかの中に入ったのか、、、。
「で、内服って、」何を?
「トキヒコ、この者達は、エレメンツを内服していよう。」
エレメンツって、『記憶の石』!
「あー!」奥の祭壇みたいな前に並んでいた、記憶の石が無くなってる?!
「トキヒコ、記憶の石『ヤドパットハー』、そしてそれは嵐の国の宝『クキュアハザナー』。エレメンツでありヅロドローエネラギアを内服するが為に、風童達は融合し、その器となった。」
『記憶の石』を取り込む為に融合した、、、
「ヤドパットハー・クキュアハザナーが持つエレメンツでありその存在、さすがに一の者にて全てを収めるには至らぬか。」
記憶の石が10個あったから、この10人の風大人童達が現れて、それぞれの中に入っているって事?
「トキヒコ、彼の者達の内なりへ、ヤドパットハー・クキュアハザナーは入ると申すも、体内に抱え持つでは無き。彼の者達が持とう性質、概念としての存在と成った。」
記憶の石って卵から、風大人童が生まれたって事?
「今思考せしトキヒコは、間違いでは無き。まあ、その様なモノだ。ヤドパットハー・クキュアハザナーより産まれし者達か、、、トキヒコ、冴えてるな。」
そうでしょうか?
風大人童、、、なんと呼べば適当なのか、分かりません。
クーリャの様に、スマートでちょっと美しく見える、、、いや、気のせいだろう、クーリャが大きくなると、こんな姿になるのかなぁ。
「私達はマウキュイクダヴァを持ちます。」
マウ?マウキーイ?中に入れてる、だっけ?
「私はサッドハーラ・アガバドフォ・サンショドヒット・マウキュイクダヴァ、改新と申しましょうか、進む者となります。」
「ピュナージェビッド・ニャーマン・ジャリィラカハナ・マウキュイクダヴァ、私は興します。創造へと向かう者。」
「ヴィスタラ・ニャーマン・カルパナ・マウキュイクダヴァ、創造を続けるが為に、存在となった者です。」
「ナヤ・アゥァヅスアー・アガーラ・マウキュイクダヴァ、私は音を求め音を探る者となります。」
「ウダン・バハテェ」
「ちょっと、ちょっと、待ったあー!ストップ、ストーップ!」
そんな、ココにいる10人の風大人童達から突然に自己紹介を受けても。
全然分からん。共通する『マウキィ?キイーイダバ?』も、正しく耳に入って来ない。
ババァンが付けた風童達の名前も長かったけど、新しく登場したお姉さん達も、名前が長い!
「スミマセン、今急に自己紹介されても、、、」
全く、何一つ、誰かの名前を覚える自信が有りません。
「私達は知って欲しいのです。」
お名前を〜?
「私達が改な形で存在するに至り、この地を新たに司り続けます事を。」
トファノキブーミの代表者だか、この大ジオラマの所有者が替わったって事?
「ヴィライ、ミラーンは進みます。」
「其は別成る刻にて行なわれます事。」
「次成るマウキュイクダヴァの加わる刻、その期を迎えますまで。」
風大人童達の合体は続くのか。
「あれ?それでババァン、ズンドンは何処行った?!」
風童達の融合による輝きが強くなる前には、見失ってた。
「あの者はエウィ・ヴィラーサット、始まりの漂う者」
トファノキが無くなった?
「そして、彼の者は旅立ちました。」
「旅立ったって?」何処へ?
「以前、あなたにも語ったでしょう、この地に留まり過ぎたのではないかと。」
そんなの何年前の話しだよ(そんな事、言ってたっけなぁ?)。
「旅立ち、其れは新たな地を興す為、新たなニャーマーン(創造)へと向いました。」
何処かで、また大掛かりなジオラマの新作を作るのか?
「彼の者が、次成るエレメンツを手にし、何を興すのかの想像は着きません。」
「ですが、新たな創造を興す事は、決められた事。」
「決められた事?」
「そうです、創造するは決められた事。其れは私達の本質であり、私達も続きます。この世界、この地にて創造を行いし事を続けます。創造は継続でもあるのです。」
ババァンのこのジオラマ作品は、風大人童に継承された、、、
「だけど創造って、新たなモノを作る事、発展とは違うのですか?」
「創造、多くの事が含まれるでしょう。ですが私達が興す創造は、継続へ向かうが為の事。」
「意味合いは、場により者により異と成りましょう事。」
あー、ザーララさんが私の『普通』を表した時と同じだ。
何なんだ?
ババァンは次の場所に行くために、この場所(大ジオラマ)を自分の娘達に託したって事か、、、娘への(プラモデル)継承、なんか先を越された感じ。
そう言えば、クーリャって何処行った?
「さくら、それでクーリャは見つかった?」
「分からないの、、、」
さくらが、分からない。
もしかして、クーリャも皆と融合してしまったのか、、、。
「スルガトキヒコには頼み申したい。」
あれ?自己紹介してないのに?でも何だろう、改まって?
中心に位置していた、風大人童の胸が光れば、、、光の中から風童が産まれた?
「スルガトキヒコ、その者を連れ行って欲しい。」
「ク、クーリャ?!」
丸まる格好で寝ているのか、クーリャが私の胸元に漂い届けられた。
「この者は、ヴィラーサットを名から消せぬ者。」
「まだその期を迎えるには至っておりません。」
「この刻、この場には居ずる事無く。」
居づる事無くって、、、クーリャは何か罪を犯したからではなく、この寄り合いに参加出来なかったから『暫くの間、国に戻るは無い』だったのか。
ただ、クーリャは『ヴィラーサットの名を消せぬ者』って、ヴィラーサットを名前から消すには、何するの?
「お父さん、ヴィラーサットが外れる事は、どうやら徳を積んだ先に或るみたい。」
その“徳”って、何?
「風童達が向かうのは、者であれ物であれ、喜びを見出す事。」
いやいや、その徳って、、、イタズラで得る事だろ!
すると、さっきまで集まっていた大きな風童達は、名前からビラーサットを外す程の徳を積んだ?
『者であれ物であれ、自身の周囲にあるモノ、集まるモノ達に対して良き思いをさせる事。楽しみ、嬉しみ、明るき、幸福へと繋がる行為を行う事。』
「楽しみを与え、喜びを与え、、、」
でもそれって、イタズラを行って得る徳、、、
って事は、さっきの満員電車の皆が、イタズラの有段者であり、イタズラのプロ集団!
どんな集まりだよっ?!