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エルフの里国で迎えた夜 リーザとの時間

 エルフの里国に夜が訪れる。

 陽が沈めば、大きな月が上がる

 エルフの里国に上がる月は大きく、地球で迎える夜とは違い月明かりが周囲を照らし、暗闇ではなく、思いの外明るい夜となる。

 それは、夜空を覆うであろう星の輝きを消し去ってしまうかの様に。



「いかがでした?トキヒコさん。」

 そう、今日はエルフの里国でまるっと一日を過ごした最初の日。それは明日からも続く。

「うん、何かいつかの日の、何時もの休日の一日の様な気がしちゃう」


 ザーララは私達の為に、ひと部屋設けてくれた。

 が、エルフのくせに悪戯好き。自分本位の典型、何に対しても無敵な存在。何でも思い通りに実行可能な、まさしく自由なエルフ

 だけど今はリーザと一緒だし、山岳城内にはさくらも居る。

 なのに落ち着けないと言うか、油断出来ないというか、ザーララの予想など届かない行動は有り得る。

 まあ、準備や警戒しても全くの無意味だ。次元が違うから諦めよう。変に気を張っててても疲れる。

 でも今は、リーザとゆっくり過ごしたい気分なんだ。

 ザーララ、手出しは無用だぜ。


「だけど、これからこうしてココで日々を過ごしていても、何処かで何か負い目を感じてしまうのかも」

 元いた世界での清算は自分なりにやった、つもり。気持ちの整理も行った、つもり。優柔不断さは清算出来ずか。

「負い目、ですか?」

「うん、やっぱり何処かで、会社行かなくていいのかなぁ〜、と思っちゃうんだよね」

 そう、いつでも何かに追われる日々。

 寝過ごしちゃいけない、乗り遅れてはいけない、先の先まで予測し、読まなくてはいけない。

 追われているはずが、見えない何かの背中を追って、走り続けなければならない。

 そうでないと給料は貰えない、お金を手に出来ない、美味しい物が食べられない。


「それはトキヒコさんが長きに得ました生活習慣ですし、向こうでの社会構成と成ります故に。」

「そうなのかも知れない。でも、会社で働く=エルフの里国で働く事は、同じ事だ。だけど私は具体的にコレコレを仕事として行うって決めても無いし、見付ようともしていない。ただ休日を過ごしているだけの感覚なんだ」そんな気持ちのままココで過ごせば、この負い目感は、ずっと抱えて暮らす事になるのだろう。


「トキヒコさん、我らの里での労働は私が行います故、ご心配なさらず。」

 エルフの里国での労働は、何処かで何かを行う事。

 何かと言うのは、流れ流れて、誰かの”ため“になる事。

 誰かのためになる事。それは貨幣文化の無いこの世界において対価となる。

 マルクス・レーニン主義時代に提唱された様な共産主義的な側面を持つが、貨幣文化は無くとも私有財産を持つ分、その共産主義よりもエルフの里国では、もっと高い段階に到達しているのかも知れない。

 エルフの里国は、地球上の現代文化に比べれば、科学的な発展や機械を用いた技術を持たなく共、意識や精神の面では民主主義や社会主義を越えてしまっているのかも知れない。


 そのうえ『誰かのためになる事』は仕事として取り組む内容にしろ、その対象先が具体的には決まっていない。

 森の中で枯れ枝を払って歩いたり、家屋を直す(作る)、服を仕立てる、農作物を作ったり、塩湖で塩を切り出す事、、、生活に直面するしない、見た目の行いに差を感じても、それらは同等なんだ。行いに優越が無いから偏った価値観を生み出さない。偏見を生み出さない。だから誰かの行いにも、批判など起きない。

 エルフ達は、皆を皆が尊重し合っている。

 そして、なんでも自分事として取り組むから、抜かりも無い。



「今日さ、思った事があったんだけど。リーザ、聞いてもらってもいいかな」

「はい、トキヒコさん。何なりと。」

「リーザ、エルフの里国にはさ、書物が無い。エルフ達は過去の者や先人を尊重するけど、知らぬ先人も何処かで知る事になる。」

 それは誰かに聞かされると同じで、誰かの意識から伝わり知る事となる。

「我らも、種としての営みを永く過ごそう事は根本として持ちまする。故に危険察知や外傷に対する処置、死への恐怖も持ちます。そして先人達の行動は意識としての伝達を行い、それは口承(口頭伝承や口伝伝承)と等しきモノやも知れません。地球上でも多くの種族が行いし記録が有ります。アフリカ大陸における多くの民族、アイヌ、インカ、マオリ、アポリジニ、インディオ、、、その数は多ございます。」


 口伝えって、文字文化を持たない者の情報伝達方法のひとつだろう。

 まあ、口伝えに寄る伝承に限らず、人間は文字や図形や絵に模様、踊りや儀式なんかでもその文化や出来事、決まり事を次の世代に伝えて来た。

 それは種族として、永く過ごそうと先の未来を考え、思い付いたんだろうなぁ。

「そうなんだよ、エルフ達は文字文化も在るし、絵として現す事にも長けてる。なのにそれで記録や記憶を表さない。ちょっと不思議。だけど意識が伝わるから、、、それは口述や文字による伝承を越えている。でも、伝承者や口承者が周囲に居ない中で、問題と出くわしてしまったエルフはどうなるのだろう」

 それに私はエルフ達の意識を読み取る事は出来ません。


「今日さ、ふと思った。エルフの里国に住む者達をスケッチして、観察記録を作ったらどうかって。

 エルフ達は記録を残さないし、それに私は意識で伝達が受けれない。だから自分の健忘録の範囲内での事になっちゃうけど、草や木、動物や鳥や虫達を上手く記せれば、いつか誰かの役に立つ事が多少は有り得るかなぁと」

 植物や生物の研究者などには到底及ばないだろう。私がやれるのは夏休みの自由研究の延長程度だろうけど。

「どうだろう?」

「いいと思いますよ。ここではトキヒコさんがお好きな様に暮らして行けば良いと思います。」

「でもそれだと何か、自分勝手と言うか、自分本位なんだよなぁ」

 自分の都合だけでいたら、好き勝手な事をしているのと変わらない。衣食住は、誰かに頼って、、、誰かに迷惑を掛けているのと変わらない気がする。


「トキヒコさん、ユーカナーサリーも申すでしょう『トキヒコさんの好きにすれば良い、対価など求めるな』と。」

 そう対価。助けてもらったり、何かを与えられたらお礼をしたい。迷惑を掛けたならお詫びがしたい。そうやって生きて来たから。


「トキヒコさん、先ずは始めましょう。『やってみなければ始まらない』です。」

 ああ、オレのセリフ。

「そうか、そうだよね、やってみるか、、、いや、オレがやりたいんだ」

 そう、本気で取り組むんだっ!


 良し。では『トキヒコ観察記』を始めるにあたって用紙や書き道具を揃えなくっちゃな。画用紙に色鉛筆にボールぺン。水彩絵の具も欲しいぞ。

 油絵具を使った事は無いけど、いい機会かも。思い切って、画材道具を一式揃えちゃうか。

 スケッチが描き切れなかったら、まあ写真を撮っておこう。


 それとぉ〜、、、あっ、あ、あ、あ、ぁぁぁ~、、、売って無い。

 写真どころじゃない!アレもコレも何にも無い!

 エルフの里国には文房具屋なんて有る分けが無い!ノートも画用紙も鉛筆も売って無い。何にも無い!どうやって揃える?

 あー、何かを始める初っ端から、誰かに頼らなくっちゃな。


「でもリーザ、大きな問題が有るんだ。」

「何でしょう?私で出来ます事でしたら何なりと。」

「リーザに手伝ってもらいたい事は山々なんだけど、、、」

「はい。」


「オレって絵が上手く無い」

 言い換えます、下手。

 加えて、表現力にも自信がありません。





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