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トゥクルトッドドゥーの守護王 トゥクルトッドドゥーの故郷

 『空を飛びたい』人間が持つ願望であろう。

 強き魔力を内に秘める者は翼を持たずして、空へと昇る。


 だがトゥクルトッドドゥー、大地を踏みしめ生する者。

 その者が空を行く事など有り得ない事。

 浮かれるトキヒコは、この異常である現象を疑いもしない。

「『エルフの里国は、自分持つ常識が通用しない所』だから何事も先ず、受け入れる。それからだ」

 そんな意識、先入観を持つトキヒコこそが、有り得ない者なのかも知れない。



『虹男』の背に乗せてもらいながら、空を進む。

「スゲー!トゥクルトッドドゥーが空を飛ぶだなんて?!」

 これは”魔力”を行使しての事、たぶん。


 でもやっぱ、何でトゥクルトッドドゥーが”魔力”を内に秘めてるんだよ、オレは何時になったら魔法使いになれるんだよ?

 やっぱ、虹男ズルいっ!


 今トキヒコはトゥクルトッドドゥーに跨るも、鞍も無ければ手綱もあぶみも無い。正に裸馬に乗っているのと変わらない。乗馬の倍の大きさの裸馬に乗っている。


 掴まっているのは、未知成るトゥクルトッドドゥー虹男の太い首。

 トゥクルトッドドゥーのその首は、急所でもあるが、虹男はトキヒコに掴ませていた。

「リーザ、ユーカナーサリー」

 2エルフがしっかりと飛翔する虹男を追って来てくれている事が分かる。

 トキヒコは何も心配事は無い。

 もしもこの場で虹男より落ちてしまう事があったとしても、彼女エルフ達が何とかしてくれる。

「虹男、何処まで行くのか知らないけど、行く先には何が有るんだ?」


『「吾の郷となる。我らの始まりの地と成ろう。」』

 トゥクルトッドドゥーの生誕地?

(『「吾の『視る』では物足りぬ。だが、我らの地と成れば吾への働き掛けを得るとし、」』)

 未知成るトゥクルトッドドゥーの虹男は場所にこだわった。

 自身の存在が、外から得よう力を持たぬ事を知る。

 同時に、何故だか望郷心が働いた。

(『「嗚呼、いつの刻にて戻れし場。其は今ではなかろうか。」』)



 右手の遠い先には、霞んで見える北山の山岳地帯が途切れる事無く、どこまでも続く。

 それと並走するかの様に、西へ西へと、未知成るトゥクルトッドドゥーの虹男は翔んだ。

 どこまで行く?

 北山の山岳地帯は途切れない、このまま進めば、禁忌の川の上流辺りになるのだろうか。


「ん?」何か可怪しい、変だ?

 ザーララさんや女王ユーカナーサリーの”魔力”で飛んだ事はあったけど(抱えられたり、手を繋いだりして)、それに何かが加わっている。

 『虹男』の背に乗り、進んでいる速度としては時速20〜30km/hぐらいの感覚だ。向って来る風圧で体がのけ反ってしまう程ではない。


「だけど進み方が」何か異常だ。

 遠くの先を見ているなら問題無い。

 だけど視線を下げ、前方や下を見たら、途切れる。


 体が感じる速度感と、目から入る風景の情報とに違いが有る。

 虹男の『飛翔』の移動は、一部の空間を縮め、飛び越してしまっているかの様だ。

 それがこの、目で周囲を見た時の『途切れる』感覚なのか?

 目で追う風景の感覚がズレる。

 『虹男』の背に乗った、エルフの里国の王宮から、ここまで来た距離感も失われている。

 そして虹男の言う『郷』とは、何処になるのだろう。そこには何が在る?

 それで、一体この空を何時まで進むのだろう。

 未知成るトゥクルトッドドゥーの虹男、確かに宙を進むが、大きな揺れやカーブを描く事なく、真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに飛翔を続ける。

 その目的地は、虹男しか知らぬ。



 ああ、今たぶん女王ユーカナーサリーが興す結界を越えたと思う。

 さっきまで前方で感じる様に、微かに見えていた、薄ピンクの空間の壁が見えない。

 ユーカナーサリーの結界を越えた、、、それはエルフの里国の外の世界へ。そして『虹男』の存在が、エルフの里国にとって『悪しき者』で無い事を示す。

 虹男は何者なのだろう。



 空から見れば、エルフの里国の緑の絨毯とも言える森が、エルフの里国の結界を越えたとしても続いている。

 それは何処までも続いているかと思ったのに、、、。

 緑の絨毯は、高さを持ち出す。緩やかな斜面となりながら高原にでもなろうとした所で途切れてしまった。

 緑の絨毯が、突然千切れたように、緑の中からぽっかりと突然広がる灰色が目に飛び込んで来た。


「広い、砂漠みたいに広い。向こうの先は、何処まで続く?だけど何かその色は、灰色だ。灰色の砂漠、、、」

 そんな印象を受ける場所が目に入って来た。

『「吾の郷である。」』

 この、何も無い、広大な灰色の砂漠の様な場所が虹男トゥクルトッドドゥーの故郷だなんて、、、。


 『虹男』の翔ぶ速度は変わらず、しかし高度が下がる。

 みるみるうちに、灰色とも言える地に届き着く。

 虹男に乗せられ到着した場所は、広大な灰色の世界であった。


「ここは、、、何なんだ?何があったんだ?」

 空から地面に達せられれば、何故、灰色に見えていたのかの実体が解る。

 それは木々の名残りなのか、一面が倒木状態で千切れるように、木々が倒れてしまった跡。それらが枯れてしまい、積み重なり、灰色に枯れ果て朽ち果てている。

 踏みつければ難なく砕け、粉のようになってしまう。

 それらが作る起伏は、テレビで観た事の有る、空襲や大火事の跡でもあるかのように。

 でも、焼けてしまった跡とも違う。

 どうしたら、こうも灰色の景色が広がる世界になるのだろう、、、。


 僅かに見える剥き出しとなっている地面には、岩や石が転がり、下草すら生えていない。

 『色を失ってしまった場所』そんなイメージを持ってしまった。



 豊かな森が続くエルフの里国において、見た事の無い景色だ。

「虹男、ここが虹男の郷なのか?」

 今この場所からは、何かの生命を感じる事は出来ない。


『「此の場は、我らが生誕の地と成る。」』

 こんな場所が、トゥクルトッドドゥーの故郷となるのか?

 トゥクルトッドドゥーの生誕の地、、、目の前に広がっているのは、それとは真逆の死の世界のようだ。


 未知成るトゥクルトッドドゥーの虹男、震え出す。

(『「吾らの地、我らの地、、、この地へ再び!」』)

(『「吾が求めし、嗚呼!」』)

(『「どれ程の刻が過ぎし、どれ程の我らを失いし、」』)

(『「嗚呼今の刻、、、再び、再び、」』)

(『「永き、永き」』)


「虹男、どうした?」

 半透明な体をそんなに震わせて、それだと何か、本当に消えちゃいそうだぞ。

(『「人間スルガトキヒコ、この者に依る、、、そう、この者を介し、吾がこの地に戻りしは、今事実。」』)


『「人間、スルガトキヒコ、」』

「ん?虹男が温かい、、、」

 虹男からの意識が流れ込んで来る。

『「人間スルガトキヒコ、知って欲しい」』

 トキヒコと虹男は、繋がる。


 トキヒコは未知なるトゥクルトッドドゥーの『虹男』にとって、気になる、興味を引く存在であった。

 その者と接する事により、虹男が自身の奥底に抱えていたひとつの願望、『帰郷』を果たす事になった。 


(『「人間スルガトキヒコと接するが、今しの吾がこの地に立つ事が叶いし事、事実。」』)

 虹男はオレに、何を知って欲しいんだ?

 何故オレなんかに、伝えてくれるんだ?


『「この地は、多くの光、多くの緑、多くの水が溢れし地であった、、、」』

 楽園?そんな意識が伝わって来る。

 以前のこの場所は、エルフの里国の他の緑豊かな森とでは比較出来ない程の豊かで明るい土地であった。

 トゥクルトッドドゥー達の『楽園』。そんなイメージが虹男から届く。


 トゥクルトッドドゥーの生誕地。

 この場所は、見渡す限りの草原が広がる時代かあった。

 トゥクルトッドドゥーの長い首を隠す程の背丈の樹木も無く、流れる風が緑のキャンバスを美しく描き上げる景色の広がる場所であった。


 広大な草原地、そこにはトゥクルトッドドゥーが隠れる場所が無い。だがその必要性も無かった。

 この地にて暮らすトゥクルトッドドゥー達を脅かす外敵も敵対する者も存在しなかった。

 何も脅かす者の無い世界で、トゥクルトッドドゥー達は走り、翔び、生を営み、それこそ自由に振る舞っていた。

 脅かす者の無い世界、故にトゥクルトッドドゥー達の中に、戦う本質は存在すらしていなかった。

 ただただトゥクルトッドドゥー達は、この地で生まれ、この地で育ち、この地で死んで行った。



『「スルガトキヒコ、ウォッダ(水)と成る。」』

 水?

『「或る刻、悪しき水の発生し、満たされし。」』

 何だ?悪しき水って。


「トキヒコ、ヅーリィ・ウォッダ加えトカスゥィナ、酸、硫黄、流酸、毒素を持つウォッダ(水)の発生と成ろう。」


「漂うガァヅゥ(ガス)生在る者に対し、毒性、酸欠をもたらす。」

 女王ユーカナーサリーは続けて下さる。

 彼女自身がこの場を訪れ知った事。


 過去なる火山地帯の影響

 発生した亜硫酸系の水が地下水に満たされた。

 地下水は大河へと移動する。

 だか、この地の地下が粘性を持つ土質の地質・地層が、汚水を囲ってしまった。

 逃げ場のない地下水は、酸に汚染された水を地表に溢れさせてしまった。

 酸により汚染された地下水は、地表に広がり、この地に生息する植物の全てを枯らしてしまった。


 永き時間により、酸による汚染水は枯れ果てた。

 しかしその性質、成分は、この地に今も留まっている。


「それらが今の刻にも留まろうぞ。」

「周辺の活火山が起こしたる、自然成る大地の営みには、変わらず。」

 大自然の営みには違いないけど、必ずしもそれが生有る者達にとって、良い結果を生み出すとは限らない。


『「留まらぬ悪しき水は、この郷を満たし、郷の姿を変えてしまいし。」』


 だけど、植物の繁殖を拒むかの様に、塩素、硫黄などが地下水に入り込み、それに終わらず、地表に溢れる様に出て来てしまった。今灰色になってしまった土地全体に広がった。

 草は枯れ、樹木は倒れ、湧き水も枯れしまい、どこかの砂漠のように死の土地となってしまったそうだ。


 この地での営みを続けられないトゥクルトッドドゥー達は、この場からの移動を余儀なくされ、永き旅路へと赴いた。

 トゥクルトッドドゥーは、何も罪を犯してないのに、『楽園』を追われた。


 北へと向えば岩山の山岳地帯が横たわり、西には大河と呼べる禁忌の川が遮断している。


 トゥクルトッドドゥー達は、東南方向に向けて進むしかなかった。

 虹男はその先頭に立った。

「あっ、今?!」虹男の記憶の一部なのか?

 情景が飛び込んで来た。


 見渡す限りの荒れ地、荒野のようだ。

 さっきまで見て来た森、今ここに立つ緑の森、、、無い。

 同じ場所だとして、見えた景色が全く違う。

 今みたいに大きな樹木が立ち並び、深い草木が育つ前の時代の事なのか、どれだけ昔の、遥かな昔の事なのか、、、。

 悪しき水にて壊された生地を背にしても、向かう先には荒野が続く、、、虹男、何歳だ?



 トゥクルトッドドゥー達は、新たな生活の場を求めて旅立つしか無かった。


「何か凄い隊列だ!何百、何千、、、いや、何万頭になるんだ?!」

 こんなにも多くのトゥクルトッドドゥーが居る、、、確か、トゥクルトッドドゥーの数は多くは無いと、、、だけど昔は居たんだ。

 どれだけ昔?

 多くのトゥクルトッドドゥーが溢れる様な景色。

 トゥクルトッドドゥー達は今と変わらず、多くの鮮やかな体毛を纏い、同じ色の者など二頭と居ない。

 色、溢れる世界。極色彩の絵画が大地に描かれて行くかのごとく、トゥクルトッドドゥー達は移動を始めた。


 トゥクルトッドドゥー達は、進む。

 その先頭は一段と色鮮やかなトゥクルトッドドゥーである。虹男の姿が在る。


 トゥクルトッドドゥー達は進む。

 新たな生活圏、安住の地を探し求めて、多くのトゥクルトッドドゥー達は進んだ。

 しかし、緑の有る場所に辿り着くも、当然ながら先住者が存在しよう。


 トゥクルトッドドゥー、丈夫な肉体を持ち、深き思考と判断力を持つ。強き力と俊敏な動作をも持ち合わし、同等に競える者など存在しないやも知れない。

 だがトゥクルトッドドゥー、争うべき性質、奪うべき意思は持たず、トゥクルトッドドゥーの本質に戦いは無い。

『「我ら、自身が傷付く事は厭わなず、だが傷付けるならば、避けよう事。」』

 出逢った者には、常に追われ、傷付きながら逃げ出す日々。

 しかし、争いを越えなければ生きては行けない。


 永き多くの逃走の日々の中にて、トゥクルトッドドゥーは、相手を見抜く性質を身に着けた。

 対峙となった者は『味方』なのか、やはり『敵』となるのか。一瞬で判断出来なければ、この先に待つモノ、目指すモノは無くなる。


 それは生を繋げる為、種を守る為、相手を『見抜く』性質は熟成され、やがて本質を占めるに至った。


 そんな中で、仲間内での軋轢も起こった。

 逃走には疲れた。だが争そえば、何かを掴めるやも知れぬ、疲れた気質は紛れよう。

 それはトゥクルトッドドゥーの本質を犯し、一部の者に変質を興した。


『「争いし事。其成る姿勢を前面に置きし者は、他の存在に変わりし果て、我らとは異なる道を歩みし。」』

 争い、、、トゥクルトッドドゥーが持つ、本質を変えてしまった者だったからなのか?

 それはこの行進より、脱落してしまった者なのか?


 どれだけの時間が過ぎたのかも分からない。

 トゥクルトッドドゥーは『求める放浪者』であった。

 種族として続ける為には、定める地を見付け無ければ成らない。

 トゥクルトッドドゥーは、安住の地を求めた。


『「脱落、死、、、力尽きたる者、他の種にて失わされた者、吾らの数は減って行きし。うねろう隊列は、いつしか後ろが見えてしまおう、、、」』


 隊列の先頭に立ち、種族を鼓舞し、定める地を求めた虹男には限界が来ていた。

『「種としての生を営む事もままならず、種族全体が疲弊してしまった。」』

「『我らの辿りは続くのか、」』

『「続けるよう事、可能であるのか?難では無いのか?何処まで行けば、、、。」』


『「嗚呼、ああ、ああ、、、我らの地へと戻りたい、、、」』

(『「吾は何時の刻よりか、失いし、戻れぬ事を求めしと成り申した、、、」』)


 虹男から伝わって来る、、、生地を追われたトゥクルトッドドゥー達の永く過酷な旅路を感じる。

 でもその過酷さが、いくらオレが想像しても絵空事。実際に経験していないから想像の限度がある。

 ただ、その場で実際に経験していたら、オレは一番の脱落者か、一番先に命を失ってしまった者なんだろう。


 、、、そんで、どれだけの時間なんだ?



『「我らの旅路か、終わりを告げよう刻を迎えし。」』

 全滅しちゃった、、、訳無いか。


『「エルフと出会いしは、救いであった。」』

 エルフとの出逢い!そんで救い?

『「彼の者より、伝わり来る強き存在。だが、伝わり来るモノに交戦は無し。」』

『「そしてエルフに背を預ければ、彼らの意識が届き出し。」』

『「吾らに『利用』『服従』『従順』を求めよう。だが其には、『共に進む』との意識が含まれし。」』


『「其に、争い無く、共存の道が示されていた。

 だから選んだ。

 エルフと共に進みし事。我らの安住をエルフに求めし事を。」』


 その時、種族の先頭に立ち、皆を導き進んだ者、、、トゥクルトッドドゥーの虹男の肉体は、既に果てていた。






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