トゥクルトッドドゥーの守護王
『トゥクルトッドドゥー』
エルフの里国に暮らす、馬よりも大きく、4本の脚で立ち、長い首を持つ。
その長い首の先には、鳥類を連想される頭部を持つ。
全身は体毛に覆われ、個体差によりその毛並みは同じモノが居ないと言われる程の千差万別、色とりどりであり、波打つかの様な輝きを放つ。
そして走れば疾風の如き、闘いとなれば嵐を連想させる激しさである。
普段はエルフに対して従順で大人しく、まるで言葉が通じるかの様に意思の疎通が図れる。
生物として賢く、意思を持ち、
「トゥクルトッドドゥー成れが、声帯を持ち様ならば、会話が出来るのやも知れぬ」、そう感じる程の意思の疎通、関係性を築く事が出来よう。
だが、基本は気まぐれで、気分屋である事を忘れては成らぬ。
トキヒコがエルフの里国で初めて接した動物は、トゥクルトッドドゥーであった。
その時に感じられた意思の疎通は、驚きと共に喜びに溢れた。
『動物達と思いを通わせたい』トキヒコが『夢』とも言い表せれよう、長年持っていた想いのひとつ。
トゥクルトッドドゥーは、トキヒコのその『夢』を叶えた事に等しかった。
その時より、トキヒコはトゥクルトッドドゥーの虜でもある。
トゥクルトッドドゥーもトキヒコに応える。
だがそれもトキヒコだけは何故だか、エルフ達よりも深い意識の層で彼らと関わる。
何故トキヒコは、エルフ以上に彼らと深く関われるのか。
トゥクルトッドドゥーは、見抜く。
観察する対象は環境に限らず、対峙となった者の表情を読み取り感じ、理解する意識へと繋げる。
底しれぬ観察眼は、自身の生を繋げる為、敵と味方を見分ける為。
トゥクルトッドドゥーの『見抜く』は、彼らの本質の一部を占めていた。
エルフは、エルフの里国の者は、トゥクルトッドドゥーの意識を読み取ったとせよ、自身の感情をその表情に現す事は苦手である。その習慣を持たぬ為、殆どの者は感情を面には現さない。
しかし人間スルガトキヒコ、喜怒哀楽が激しく、時には大袈裟な身振り手振りを加え感情を現す。
トキヒコにしてみれば、言葉が通じない世界において、自分の意思を伝える動作の他ならないが、エルフ達はトキヒコの意識、それは気分であり感情を読み取る。
トゥクルトッドドゥーにしてみれば、トキヒコ程意識や感情をその表面から読み取れる者など居なかった。
トゥクルトッドドゥーは、大まかであるも、トキヒコの意識と感情を感じる。
分かり易さは好意となって受け入れられた。
故に、トキヒコはトゥクルトッドドゥー達に受け入れられていた。
此処にひとつの意識が或る。
スルガトキヒコ、この人間という存在は、分かり易い。
常に我らに好意を持ち、向い来る。其は常に変わらず。
成れば我らも好意を抱き、迎い入れるがのみ。
何も難も不可思議も無く、ただ、其の成れであろう。
過去の時間、トゥクルトッドドゥーの王と位置付けられる存在であった者の意識。
多くのトゥクルトッドドゥーの頂点に立ち、先陣を切り、皆を護り、行く先の指標を示した者。
示された指標の先にあったモノ、それはエルフとの共存であった。
今、その王は既に肉体を失っていた。
しかし、皆を見守る為の使命を持ち、命が尽きてもその行為を辞められなかった。
『残留思念』そうかも知れない。
だが肉体を失った王は、その持つ意志と意識を高め、彼らを見護る任へと赴き続ける。
それは彼が望んだ事。
彼の地では、エルフ以外にトゥクルトッドドゥーを脅かす者は存在しない。
そのエルフとは共存が適っている。
では彼は死しても尚、何を望もう。
其れはトゥクルトッドドゥーとエルフの世界が続く事。別成る脅威が現れぬ事を。
人間スルガトキヒコが現れし。
別成る脅威の現れかと思いし、構えたが。
我らに対し稀成る感情を向けし者。
共存するエルフとは異なる存在で在りながら、、、
分かり易い。
して、何を持つ、何を求め、何を行おう、、、未知には変わらず。
其とし、吾意識が向う、興味が尽きぬ存在。
だが、、、何故だき『見抜く』に至らぬ。其は未知である。
未知は解かねば成らぬ。
未知を解かねば先には進めぬ尚、続からず。
「よっ、皆元気かー?!」
トキヒコはエルフ達の食堂に現れる時と変わらず、エルフの王宮の隣地に在る、トゥクルトッドドゥー達の『居る場所』へとやって来た。
両手で口に、メガホンを真似て大声で叫んだ。
トゥクルトッドドゥー達がトキヒコの姿を認めたならば走り出す。
それは砂埃を起こし、疾風の如き速さを携え、迫り来る黒い壁、黒き雪崩の一団となり、トキヒコへと向う。
「わっ、わっ、わっ、わ、わわわわ、わ!」
迫り来る黒き雪崩!
そしてその場に到達すれば、整然と並び、ピタリと停まる。
「うわっ!もぉっ~」
「もっとさぁ、優しいと言うか、こっちが驚かないで済む登場方法無いの?」
こんなの、何時まで経っても慣れないよ。
突っ込んで来ないと知ってても、心臓に悪いよなぁ。
ん?わざとか。オレをビビらす為にか?!
トキヒコは柵を潜り、トゥクルトッドドゥー達の輪に入る。
トキヒコはトゥクルトッドドゥー達の輪に入れば、上を見上げる。
トゥクルトッドドゥー達は揃って頭を下げ、見下ろす形でトキヒコを見る。
「別に今日はさぁ、誰かに乗せてもらいに来たんじゃないけど、たまには顔出さなくちゃな」
トキヒコは彼らの胸の辺りを撫ぜながら一回りする。
トゥクルトッドドゥーの体表は、色鮮やかな体毛に覆われ、同じ色の者は居ない。
その毛並みは強い艶を放ち、色鮮やかさを引き立てている。
そんな美しい毛並みに触れさせて貰える事に、トキヒコは何時も感謝と喜びの感情を表していた。
そんな中、
「あれ?」新色?新種?新顔?
何か見た事の無い、知らないのが混ざってる?
見た事が無い、初めて見るトゥクルトッドドゥー。
その体毛は虹色とでも表現しようか、複雑に色が重なり合い、そして透けてしまうかの様な輝きを放つ。
「君は、誰だい?」って日本語で問い掛けても返事は無い。
返事があったら怖いよ。
『「吾は我らを護りし者」』
「へっ?」
トゥクルトッドドゥーが、喋った?!日本語で?!
空耳?
『「何も驚く事は無かろう。意識を通ずれば良き事。」』
「いやオレ、エルフじゃないから」相手の意識は読めません。
「あっ、」
ははぁ〜ん、ザーララさんかさくらだな。
オレがこの程度の事で、驚くとでも思っているのか?
どこだ?近くのどこかから、念話だとかを送って来てるんだろ。
トキヒコは周囲を見回したり、トゥクルトッドドゥーをかき分け、この輪の外へと出てみた。
「誰かに見られている感じは無いけど、」そもそも念話って、どれだけの距離まで届くのだろう?
ザーララさんと女王ユーカナーサリーは、それぞれの居場所でやり取りしちゃうみたいだし。それも瞬間的に。
トキヒコはトゥクルトッドドゥーの輪をふり返る。
居た。
「まさかな」
そう、私を強く見ている者。
この新色のトゥクルトッドドゥーから感じる。
「もしかして、君なのかい?」オレの意識を読み取って、日本語脳を働かした?
『「左様。」』
「はあぁ?!」返事が返って来た!こりゃぁ驚いた!
日本語の意識を返して来たトゥクルトッドドゥー。
何でだ?何があった?オレが変?
『「何も変異と成らず、其れ成れである。吾はスルガトキヒコ成る存在を測り来た。」』
オレを測るって?身長178cm、体重68kgぐらい、あれ?70kgだったかなぁ〜最近体重計に乗って無い、、、ですけど。
その他は何も無いけど。
『「吾は我らを護りし者。近づく脅威であらば立たねば成らぬ。」』
『「人間スルガトキヒコ、何故現れし。何故我らへと向いし。何を求めし。」』
「『測らねば成らぬ、知らねば成らぬ。其が吾の任である。」』
「何とかし、って立て続けに聞かれてもなぁ〜、オレがココに居るのはオレの勝手だし、別に迷惑を掛けてないならいいじゃんか、し」
何か突然問われてもなぁ〜、?!いや、ちょっと待てオレ。
今トゥクルトッドドゥーと会話してる!
「何で君はオレと会話が出来るの?!」
『動物と話しが出来たら』トキヒコに限らず、多くの人間が望み求める事ではなかろうか。
「これは凄い!これはこれはスゴイ!何か凄い!」
「どうして?何で喋れる(意識の伝達)の?」それも日本語じゃん!
「へぇ~ほぉ~ふぅ~ん」
トキヒコは興奮し、浮かれ出す!
トキヒコに、日本語で意識を飛ばして来たトゥクルトッドドゥーの頭から足先まで(背中や頭部はトキヒコの目線の上で見れないが)、ぐるりと一周するかの様に眺め見る。
そして込み上げてくる喜びと嬉しさ。
トキヒコは、完全に浮足立っていた。
「はっ!もしかして?」
トキヒコの何の根拠も無い閃き。
「もしかして、トゥクルトッドドゥーは、進化だか成長でもしたら喋れる様になるの?!」そんな設定があったの?!
「そしたら『ハイ・トゥクルトッドドゥー』とか呼ばれる様になって。今集まってる皆んなも、もしかしたら、もうちょっとしたら(意識での)会話が出来る様になるのっ!」
「すっげぇ〜!」
トキヒコの気分は高揚している!
「おいヅリュース、いつになったらお前とお話し出来るんだよ!」
トキヒコは、大きな青と赤の斑点模様が鱗の様に重なる毛並みを持つ、ヅリュースをワシャワシャと撫で回した。
「グッ、ググゥー、、、」
トゥクルトッドドゥーのヅリュースは少し困ったような鳴き声で返した。
「はいはいはいっ!もう既に、オレとお話し出来るって者は手を挙げて〜ハイッ!」
トゥクルトッドドゥーに腕は無い。
「何時もこっちの気持ちを感じ取ってくれるけどさぁ、ありがたいんだけど何か一方通行なんだよなぁ」
「オレが皆んなの気持ちを知る事が出来たら、それはスゴイ!」
どう『凄い』のかの説明は無い。
「それで、君の名前は?そんで何歳?」
質問を重ねてしちゃうのはいつもの癖。
でも、トゥクルトッドドゥーは何歳になれば意識での会話が可能になるんだろう?
『「吾に名は持たず、歳も無し。其は忘れた。」』
年齢を忘れたって、何か都合のいいオッサンみたいだぞ。
「名前が無いのはさぁ~オレが呼びにくい、それに名無しは何か悲しい。よし名前を付けよう!」
『「よせ、名など持ち様となれば、吾は人間スルガトキヒコに縛られよう。」』
「う~ん」
『トゥクルトッドドゥーの名前を考える』に意識が向かっているトキヒコには聞こえていない。
「その美しい毛並みを見た時に、直にピンと来た!虹太郎、虹一郎、虹男、、、虹男!」決まった。
「虹男〜、よろしく!」
トキヒコは見慣れぬトゥクルトッドドゥーに、挨拶代わりに手を伸ばすも、その手は何も触れられなかった。
「え?」すり抜けた?透けてる?
こんなにも姿形が有るのに、実体が無い?!そんなバカな?!
咄嗟にトキヒコに不安が過る。
「虹男、、、君は何者なんだい?」
突然に現れて、私と会話が出来るトゥクルトッドドゥー、そして体が透けてしまうトゥクルトッドドゥー、、、
トキヒコは少しだけ冷静になりつつあった。
「何故オレの手が届かない、何故透けてしまっている、、、これだとまるで、まるで、、、もしかして?、、、そうなのか!」
トキヒコの何も根拠の無い閃き、再び。
「新種発見!」
「そうなのか、なんだよ〜、トゥクルトッドドゥーは皆見た目が違うけど、それは個体差の範囲で、種族としては同じ一種だけと思っていた。だけど虹男は別の種類のトゥクルトッドドゥーなんだ。へぇ~」
トキヒコが辿り着いた解答?
「虹男、改めて、よろしく!」
トキヒコは握手の為の手を伸ばすも、トゥクルトッドドゥーに腕は無い。
「これは大発見かも。たぶんエルフの里国の皆も知らないぞ!」
「って事は、第一発見者はその名前(種目)を付けてもいいんだったよなぁ、どうする?」
エルフの里国に、そんな決まりは無い。
「属科はトゥクルトッドドゥー科トゥクルトッドドゥー属で草食目?う~ん、この辺りはリーザに相談しよう。で、個別の種名だな、、、ん?」
この場に集まっているトゥクルトッドドゥー達が顎を上げる。その目線は上向きに何かを追い出す。
トキヒコに『虹男』と名付けられた、透明に輝くトゥクルトッドドゥーは、その場で浮かび上がっていた。
「トゥクルトッドドゥーが、、、翔んだ?!」
もちろん、トゥクルトッドドゥーが空を飛ぶ為の羽ばたく翼なんて持っていない!
ジャンプにしては滑空が長過ぎる!
浮いてるのとも違う、、、これは、、、これは魔力!ザーララさんやユーカナーサリーが魔力を行使して飛ぶのと変わらない!
何でトゥクルトッドドゥーが?!
「『吾は我らを護りし者。』」