リニジュカの贈り物
あのバイクのプラモじゃない、、、だとしたら、何だ?
他に心当たりは、、、特には思い付かないのですが。
「『スルガトキヒコが直面しよう、事象のひとつに手を貸そうぞ。』」
(「ん?私が直面している問題〜?だとしたら『トキヒコ観察記』に向けた、画材道具の準備かな?いいお店を紹介してくれるのかな。」)
「『スルガトキヒコ、物質では無く。』」
「あ〜」
(「物を求めてしまうのは、人間の性かなぁ。」)
「『場とのプレゼノシック(移動)である。』」
「プレゼのなんとか、、、確か動き?移動?ああ、そっちか。でも確かに!」
(「この世界には、クルマもバイクも無い。どこかへ移動するなら、もっぱら歩くしかない。まあ、トゥクルトッドドゥーの背に乗せてもらったり、誰かに“魔力”で連れていってもらえばいいんだけど。」)
(「それらは誰かに頼まなくちゃならない事だ。何でもかんでも誰かには頼れない、自分で出来る事は自分で、、、って、でもリニジュカさん、何をどうやって?」)
トキヒコは単なる人間である。人間が移動する基本は、自らの脚を使う事となる。
その上ココはエルフの里国である。
移動する為の自動車や電車、飛行機などは存在しない。自転車すら無い。
自転車相当であれば、エルフ達に伝えれば、その再現は可能であろう。
だが、トキヒコにその気が無い。
この世界で暮らして行くにあたり、自身が『不便』と感じる事は、自身の意識より極力排除していた。
それは、前の生活との比較でしかない。
『不便』はココに有る何かで応用し、対応出来ないか。
さくらに作ってもらった各種の“魔力”を行使する為の『スイッチ』に関しては、自分ではどうにもならない事であったが。
故に、この世界に無い物を積極的に作る気は無い。
エルフの里国には、回転式の歯車より動力を興し、車両とする物は有る。
その数は少なく且つ、利用する者も限られている。
トキヒコは凄く興味を持ってはいるが、それは自身の生活とは別基盤の行い、やはり自分が持つ物では無いと思っている。
その中で、魔力を内には秘めないトキヒコが、自身の脚以外を使った移動として考えられるのは、生き物達の背を借りる事。
それも専用の家畜相当を飼っている分けでも無く、やはりもっぱら自身の脚のみとなる。
人間が自身の脚にて行う移動には限度が有る。
場合によっては、制限とでもなってしまうか。
「リニジュカさん、馬でも下さるの?」
(「何か乗り物でも出してくれるのかなぁ〜、あっやっぱ考える事は、モノだわ。」)
「『スルガトキヒコ、ひとつの事象を示そう。』」
「事象?」
トキヒコはリニジュカに包まれる。
トキヒコとリニジュカは、ひとつの光に包まれると、リーザの目の前から消えてしまった。
「トキヒコさん!」
「リニジュカさん、ココは?」
トキヒコは、何の上にも乗っていない。だが浮いたり漂っているでもなく、確実に足元は何かを踏みしめている感覚が有る。
「『スルガトキヒコ、ドルゼワゥ(樹)である。ドルゼワゥへと委ねドルゼワゥのウミエジェトノシク(力)を借り、それらを繋ぐ道と成ろう。』」
(「何を仰られているのか良く分からないんだけど、道?木の中に道があって進んででも行くって事?」)
「『理界はプレーゼプリィーウ、大いなる流れを持つ。その流れ、多面性を持つも根源と成るはひとつ。』」
「『ドルゼワゥ・プルーゼプリィーウ、ドルゼワゥが生み出そう持つ流れは、その分流の性質を持とう。』」
「『プルーゼプリィーウ。全ては理界の流れに乗り、流れは全てを繋げよう。その持つ流れには、逆らい、抗い、反するは意味を成さず。しかし乗れば、理界の持つ流れに乗れば、抗など消え行く。
求めず、探さず、感じるがままに在るがままの己を示せ。そして委ねよ。さすれば流れに乗ろう事。』」
「はぁ、何を仰られているのか理解が出来ないトコが多いんですけど、理界だかの流れかぁ。よし、ではっ!」って、何を感じればいいの?
「『スルガトキヒコ、在るがままである。』」
「委ね、在るがまま、、、ありのままの己を示せ、、、」
「『さあ、先へと進むが良い。』」
「はい」
(「暗くもなく、眩しくもない。この先に進む道標なんて無いけど、どこかに続く事を感じる。」)
トキヒコに迷いは無い。
右も左も分からない場所に来てしまったが、それはリニジュカの存在を近くに感じていたからか。
(「ここは、、、先へ先へと続いている広がりが分かる。右や左を向いても、振り返えればそれは後にも広がり、続いている。」)
トキヒコは進んだ。
(「そして、どこにでも行ける気がする、、、いや、行けるって事が解る。」)
自分が何処にいるのか分からない場所の中を思うがままに、感じるがままに。
「リニジュカさん、出口って?」
「『スルガトキヒコが想い望めば良い。』」
(「うーん、少し足を進めたけど、何だか遠くまで来ちゃった気がする。リーザの所へ戻らなくっちゃ。」)
「やっ、リーザ」
トキヒコは、リーザの後に位置する樹木の幹より姿を現した。
「トキヒコさん!」
駆け寄ったリーザはトキヒコに抱き付く。
『『ゴッチ〜ん!』』
トキヒコは後頭部を自身が現れた樹木にぶつける!
「あがー!」
「『スルガトキヒコ、再び樹へと移ずれば良く。』」
そう、トキヒコは樹木の中より現れた。
トキヒコは、先の樹木より別の樹木へ移動したのであった。
「あっ痛ったたた、、、でも凄く不思議な感覚が有るんだけど、、、だけど何も無い。」
「特別な事など無く、ただ自然に、それこそコレが当たり前のように、、、ありのまま、なのか?」
(「私は木の中に入って、別の木から出て来た、、、木と木の間を移動したって事なの?」)
(「そもそも、木の中に入るって何だよ?カミキリ虫の幼虫にでもなるって事?リニジュカさん『測れぬ事象』なんですが。」)
「『スルガトキヒコ、在るがままの己である。其を示す事は容易かろう。』」
「ええ、まぁ何時もの自分のままで良いのであれば」
(「そんな事で、木の中に入れるなんて見た事も聞いた事も無いんですけど。」)
「『スルガトキヒコの肉体を包もう幹は必要と成るが。』」
肉体を包む?それなりに太い木って事?
「『樹木の有る限り、我らへと続く道と成る。』」
リニジュカよりトキヒコに示された、樹木を伝る移動。
トキヒコが得た“力”と表そうか、“魔力”を内に秘めず、『術』の行使も行えないトキヒコでは、移動に伴う力は人間が持つ肉体以外の何物でもない。
そんなトキヒコへの、リニジュカよりの贈り物であった。
(「木から木へ移動する、、、?」)
(「こ、コレって、魔力なりの“力”を得たって事じゃんか!」)
(「って事は、」)
「魔法使い、スルガトキヒコの誕生ですっ!」
(「待てよ、出ようと思った場所の木が細過ぎたら、、、出られずに、詰まっちゃった挟まっちゃりして?!」)
「『窮する事在らば、我らに問うが良い。』」
「ええ、」この世界で、エルフ達以外にも頼れる存在を得れるなんて、想像もしていなかった。尚もそれがリニジュカさんだったら頼もし過ぎる!
「ええ、ありがとうございます」
「『但し、』」
「ただし?」何だろう、この『技』を使うと副作用が出るとか、それか使うにあたっての条件とか?もしかして、使用料となる対価とか求められるのか?対価は寿命とか魂とかだったりして?!
(「賢者相当者が何を求めるのか、示される事なんて想像付かないんですけど。」)
「『但し、其に貨幣の関わろう事柄は、門外と成ろう。』」
トキヒコに対しリニジュカは、微笑む。
(「はぁ〜、この世界(エルフの里国において)貨幣文化無いだろー!」)
(「それにそれって、オレのセリフじゃん!」)
「『スルガトキヒコ来るが良い。我らのラスへと。』」
(「ザカザニー・ラス、死を自覚した者が向う場所。そんなに簡単に行っていい所なのかなぁ、」)
「『スルガトキヒコは死について知る。』」
「まあ、そうですけど」
(「だけど死って、ただ単に何も無くなる事なのか、その結論というか結果は知らない。だって死んだ事無いからなぁ。でも、」)
「はい、是非に。この頂きました力を使って。」
「『我らは何者も拒まず。』」
(「あれ?それもオレのセリフじゃん!」)
リニジュカは消えた。
そう、電灯の光が消えると同じ様に、音も無く突如として。
それはこの場に現れた時と同じ様に。
「あっ!」
「トキヒコさん?」
「うんリーザ、さくらをリニジュカさんに会わせたかった」
(「そう、さくらはこの世界に私と一緒に移住を果し(完全移籍なのかは、本人次第だけど)私なんかよりリニジュカさんに力添えして貰いたい!」)
「ちょっと追い掛けてみる。リーザはさくらに呼び掛けて欲しい」
(「よし、この木を使って、もう一度!」)
トキヒコは慌てていた。そんなトキヒコの姿をリーザは余り見た事が無かった。
(「どうやる、どうやる〜?とりあえず、突っ込め!」)
「トキヒコさん、」
リーザは優しくトキヒコを諭す。
「トキヒコさん、其成る機会、さくらは得ましょう事。」
リーザはトキヒコをなだめる為に気遣いした。それはエルフが行わない事。
「あ、リーザ、、、」
(「そうだ、ここで変に焦っても。リニジュカさんは逃げも隠れもしないだろう。」)
(「いや、隠れてたりして?」)
「リーザ、変に焦っちゃたよ。そう、さくらはリニジュカさんに会えるだろう」
(「それはいつか自然なタイミングで。」)
その時は必然として来る。そんな気がする。
「だけど、この木を移動する『技』の名前を聞いていない」