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トキヒコの前に現れし者・リニジュカ

「『ラス、ウシィヅィック シァー』」


「あっ」なんかちょっと光ったと思ったけど、、、誰かが居る。それと、

(「あー、エルフ達の言葉だけど分かる。」)

(「さっき私が巡らした想い『森にて学ぶ』。それを誰かから自分が聞く事になると、、、何か恥ずかしい。ああ、エルフ達には筒抜けかぁ。」)


(「でも、誰?」)

「リーザの知り合い?」

「いえ、ですが」

 リーザは現れた者とトキヒコとの間に、素早くその身を入れていた。

 リーザの知らぬ者、その上、気配として伝わり来るモノが無いままに、正に突然に現れたとしか説明が付かなかった。

 だが、この対峙となった者が発する波動は、何故か包まれる。穏やかさと安堵を感じ、それに加え何だか『懐かしさ』が伝わり来る。

 しかし、リーザが持った警戒心は、警鈴を鳴らすまでにはならずとも、消える事は無い。


 何の前触れも無く、リーザが察知する間も無く、トキヒコの前に突然と姿を現した者。

「『彼の刻、我らが何処にて接する機会を持つ者の波動。其が強くなり現れた。』」

「ん、何時?」


「『ふむ、そうか、そうであるか。』」


「『スルガトキヒコは、この地に留まるとしたか。』」

(「えっ、なんでオレの名前知ってるの?!」)


「『我らは会する刻を過ごした。そしてスルガトキヒコより我らが学ぼう事が在ろうぞ。』」

「いえ、、、どちら様でしたっけ?」

(「どこかで会ったっけ?知らねーぞ。」)


 トキヒコは、突如として現れた者を改めて見直した。

(「身に付けている白い布みたいなのの下からは、バストの膨らみを感じ、寸足らずな布先は、風でなびくと極小さな男性器がちらちらと見え隠れする、、、新種?」)


「『我らとスルガトキヒコは“ラクズィニィ”である。』」


「リーザ、『ラグす、、、なんとか』って何?」

「『ラクズィニィ』とは表すならば『累』と申しましょうか、繋がりであり重なり。者に対してであらば関わり合い、と申しますか。」

「関わりぃ~?」この人と?


 トキヒコは先般ザカザニー・ラスに足を踏み入れていた。

 『ザカザニー・ラス』。死を自覚し、死を待つ者が向かう地、、、以前はエルフ達より『禁忌の森』として定められていた場所。

 トキヒコが先日にザカザニー・ラスへと入り込んだそれは、エルフの里国の前王であるデジエデジクヅィク・ナステプニィの捜索の為に。

 そしてそこで『枯れた』ナステプニィ前王を発見する事となった。


 『ザカザニー・ラス』。女王ユーカナーサリーが『マーダリィ・シェズローワィエク』と申す、エルフの里国における賢者相当者が居ると伝えられている場所。

 その『マーダリィ・シェズローワィエク』、自身の事を”コントロイヤ・リニジュカ”と表す。リニジュカ、彼の者はザカザニー・ラスの集合意識であり、それは森の精霊。

 本来は姿形を持たぬ者がその意識を表し、この場へ来るにあたり、先般に伝わり来た姿を模した。

 トキヒコとユーカナーサリーを真似たのだが、実際に再現となったソレは、イミトワク達の姿であった。


 あの時の訪問は、トキヒコが持つ人間としての特徴とも呼べる、多くの感情と意識を同時に持ち合わす人間独特の状態であったり、“負の感情”を撒き散らかした分けでは無いが、どうやらリニュジユカはトキヒコの存在に反応し、その眠りを覚ましてしまった様だ。

 リニュジユカは永き刻を眠りと思考に費やされる。

 リニュジユカの思考、それは『刻』についての探究である。

 しかしスルガトキヒコに出会った事により、トキヒコに対し、『外の世界』『概念の先にある観念への到達』『家族』を期待する。


 リニジユカ、エルフの祖先と位置付けられる『イミワトク』を生み出し創り出した者。

 リニジュカが万能とされる存在であっても、ザカザニー・ラスより出る事は適わない。

 リニジュカは森の精霊であり、樹木は移動が出来ない。根を張る樹木としての“本質”は変えられない。


 ではこの場に現れた者は?

 リニジュカがトキヒコに会う為に、自らの意識を木々に伝え、同調となった先の森の樹木より現出させた、云わば一種の一時的な仮初の力、自身の分身である。



「『スルガトキヒコ、』」

 見知らぬ者から差し出された手の上には、見た事無い、キレイな何かの実が乗っていた。見た目果物の様であり、桃の実にも見える。

「えっ、何、くれるの?」

 手土産?挨拶代わりか?律儀だなぁ。


「『摂るが良い。』」

「トキヒコさん?」

 見知らぬ者より差し出された、その手に乗る木の実。リーザは見覚えの無いモノであった。

「いやリーザ平気だよ。もっと凄い物を食べた事もあるし」

 トキヒコがエルフの里国へとの移住後にて、その口に入れる基本は、リーザが準備した物である。

 それには、生モノも含まれる。

 トキヒコに対する、リーザの気遣いであった。


「何これ〜プヨプヨしてる!それではー、」

 リーザの気遣いをそっち退けで、トキヒコは渡された果物に迷わず齧り付いた。

「美味しい!果汁が溢れる!でも何か、、、もう一口!」

(「初めての味、凄く美味しい!口も手もベタベタだぁ。だけど何だか懐かしくも有り、、、いや、コレ食った事あるぞ!」)

(「でも何処で?何時?」)


「リーザ、私が齧っちゃったけど、リーザも一口どうぞ。およっ」

 そう言うなりトキヒコは、少しよろけ、リーザにもたれ掛かる様になった。

「トキヒコさん!」

 トキヒコが手にしたはずの木の実は消えていた。



 トキヒコが迷いもなく頬張ったのはピェーウォトニィ、『原初の実』とされる物、、、の概念。

 自身をこの場に作りだせぬリニジュカが現した、実態に近いイメージであった。


 ピェーウォトニィ、禁忌の森である樹海にのみ存在する木の実であり、リニジュカが『イミトワク』の為に最初に創り出した物であった。

 ピェーウォトニィを食すると豊かな気持ちに包まれる。『イミトワク』達が採取し食する事は楽しみである。

 だが、今トキヒコは、別の意識が回り出す。


(「何だか突然、目が回るような、、、」)

「リーザ、大丈夫だよ。だけど、、、声が聞こえて来る、、、」

 回り出したトキヒコ意識、それはトキヒコの記憶。



「声が、、、歌声が、、、これは誰かの唄だ、、、だけど、、、」

 トキヒコの記憶が闇の底から湧き上がる様に蘇る。


(「この歌、、、そう、エルフも枯れる、、、?!」)

(「ああ、、、思い出される、、、記憶が、あの時の事が、、、」)

 トキヒコの記憶、以前にザカザニー・ラスを訪れた時の体験が、逆回転でもするかの様に蘇って来る。


「ああ、、、ああ、待って、、、待ってイミトワク!」

 リニジュカによって、鍵でも掛けられてしまったかの様な、薄められたトキヒコの記憶が蘇る。

 トキヒコを支えるリーザの顔に不安がよぎる。


(「そうだ、思い出した、、、彼らはイミトワク!」)

 ザカザニー・ラスで出会った、あの森で暮らす者達。


(「だ、誰だ、誰かがいる、、、光に包まれる様な場所で、、、会った。誰だったっけ?」)

 トキヒコの記憶が蘇る。


「『スルガトキヒコは意識を深き場にも持とう。』」


「イミトワク、、、はっ、、、リニジュカ、、、さん、、、?」

「『スルガトキヒコ流と成れば、久しく。』」

 ザカザニー・ラスの集合意識であるリニジュカが、トキヒコの前に現れた。


「リニジュカ、さん、、、」

(「、、、だけど、以前お会いした時と何だか雰囲気というか、姿形が違うような、、、そもそもその姿は、はっきりとは憶えて無いけど。」)


「リニュジユカさん、、、でも、意識を深くって」

(「それって、何かマズイ事を意識の奥に落とす、エルフ達に対するオレの『技』の事かぁ〜?あっ!」)

 トキヒコは隣で体を支えてくれている、リーザの顔をのぞき込んだ。


(「リーザが近くにいるんだった、、、バレた。」)

「いやリーザ、人間って羞恥心とか劣等感を持ってるじゃん」

「存じてます。」

 リーザはニコリと微笑む。

(「、、、バレた。意識を深い所に落とし込むオレの『技』が、コレって完全に何か隠し事が出来る事、している事が、リーザにバレた。あー」)





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