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さくらの独立

「うおっ!寝坊?いや、休みだったか?!いや、、、あれ?」

 まだ何か、(精神面での)生活習慣って、なかなか抜けないなぁ。

「でも、今日は、」


 私はエルフの里国に来た。


 元々は、リーザが人間社会で私と暮らして行く中で、エルフの持つ“魔力”に依る『術』の使用を抑えさせていた事が、結果としてリーザに負担を掛けさせていた事に端を発する、、、エルフの里国の者達は日常的に、魔力に依る術を行使している。

 それは人間が普通に眼で見たり、音を聴いたり、呼吸をするかの如くに。

 それらを使わなくさせる事、、、目を瞑らさせ、耳を塞ぐ、息すら自由にさせない、、,知らなかったとは言え、有り得ない事をさせて来てしまった。

 そしてリーザには、人間社会に染まらず、何時までもエルフであって欲しい、、、それは私の願い。



 そして今日は、さくらが“エルフ”としての『独立』の日だ。

 さくらは人間社会で成人式を済ましているので、一応、大人の仲間入りをしているとも言える。

 だけどそれは、人間社会での事。

 ここはエルフの里国だ。

 エルフの親子間での独立とは、親から児へ継承される事。

 “魔力”の調整であれ『術』の伝播。

 その他にも生活面や精神的な気概や本質とされる事柄も伝承される。

 私は良く理解出来ていないけど、それの最終段階、だそうだ。


 リーザがエルフの親として、児となるさくらに伝える事。

 エルフが持つ本質、それは『生を永きに営む事』。何を伝えればそうなるのかは分からないけど、児が自分自身で考え、行動し、自身の道を進む事を気付かせる。


 ただ、さくらにエルフのソレが当てはまるのかは分からない。

 さくらは大きな“力”を持つ。

 それ以前にエルフと人間とのハーフだ。

 さくらがエルフの里国の民達と同じ時間を歩めるのかは不明だ。

 さくら自身として、人間では無くエルフに近い時間を過ごす事になるとの感覚を得たそうなんだが、前例がある訳でも無い、参考とする事例も無い。

 さくらがエルフと同じ時間を過ごす事を望み、それが叶えられなかったとしたら、、、オレの責任の他以外に無い。かと言い、オレがさくらにしてやれる事は、何も無い。

 悲しいかな、オレは只の人間なんだよ。



 ザーララには一般的なエルフが持つ、その規格外に“大きな魔力”を持つとされるさくらに対して『魔力講座』と称する魔力に対する指導を行って頂いたのだけど、その内容は知りません。

 エルフの里国に移住を果したその日から、さくらはザーララの北山の山岳城で過ごし、“魔力”についての指導を行って頂いた。


 本来であればエルフの親から児に対して行われる事だが、人間社会で育って来たさくらには“魔力”なり『術』の使用はさせて来なかった。


 それはエルフの里国の王、女王ユーカナーサリーによるさくらの持つ“魔力”に対して『枷』を掛けて頂いていたから。

 人間が使えない『術』をさくらが使えたなら、、、それこそそれが人間社会において『枷』となってしまうのでは無いのか、、、私が危惧したからであった。

 それにリーザにも『術』の使用を禁じさせていたから、尚更さくらが“魔力”なり『術』に接する機会は少なかった。


 だがあの日、女王ユーカナーサリーの『枷』を外した時、さくらは突然に“魔力”を現すに至った。

 どれ位かは不明だけど『知っていた』魔力を『持つ』事になった。

 そこには大きな差が有る、、、らしいのだけど、“魔力”を内に秘めたり、身に纏えない私では、サッパリだ。それこそ理解には及ばないそうだ。

 だから、ザーララの『魔力講座』に参加しても、エルフの独立となる伝承の場を見る機会を得たとしても、、、サッパリ分からん、事になるそうだ。


「ザーララさんからさくらに対して行って頂いた『魔力講座』って、どんな事だったんです?」

 ち、近いよっ!そんなに体を寄せてかなくても!

「トキヒコ、魔力は整える刻を要とする。まあトキヒコとすれば睡眠成り、呆けてる刻を持とう。」

 うっ、そりゃあボケ〜としてる時間は在りますよ。年がら年中緊張し続けていたら疲れちゃいますもん、、、だけど人よりちょっと多いかも。


「其はな、生命体として重要な位置付けとして良いぞ。」

 そ、そうなの?もっとボケェ〜としていいの?!

「トキヒコの行おう休息と我らの整おうは似ているな。」


「だがな、その刻を持とうは自身で得なければ成らず。」

 確かに、野生の中で暮らしていたら、何時、何かに襲われるのかは分からない。安息の場を見付けないと、休んだり、眠る場所は無い。

「故に自身の気概と成ろうか、自身の刻を持たねば成らぬ。さくらの持つ“力”なれば、其れ成る刻の要素だな。」

 持つべき時間の要素、、、ちょっと分かり難い。

「トキヒコ、お前の安息の場は、わたしが与えられるぞ。」

「え、ええ、何か危険地帯にでも行く事になった時はお願いします」


 さくらのエルフとしての伝承の場として、引き続きザーララに協力してもらい『エルフ親児の伝承の場』として、ザーララの瞑想部屋ともいえる一室をお借りした。

 この『伝承』は、日々の伝達に加え、最終日にはまるっと1日近くを要するそうだ。

 そしてその場面には、魔力を内に秘めない私では入れない、そうだ。

 何か、密室で行われる秘儀だか秘匿の伝承だなぁ。


 私の出番も参加や見学すら出来ないなんて、ちえっ、それじゃあロウが与えられている部屋で、ふて寝して過ごす事にした。

 だってボケェ〜としてるのは、大事な事でもあるんでしよ、そして本当に昼寝した。




「トキヒコさん、」

 リーザに起こされる。

「ん?」

 寝てた。あれ?もう1日経った?


「トキヒコさん、私よりさくらに対し、伝えます事は何もございません。」

 リーザにそう言われても、“魔力”の根本が分かっていないから(エルフ達の持つ“中身”もそうだけど)、何を伝えるのか、その程度が分からない。

「それはさくらが人間とのハーフだから?」

 

「さくらは既に得ております。我らの行いし本質までも。」

 エルフの持つ本質『生を永く営む、続かそう事』。何時、さくらは知ったのだろう。


「それは、ザーララさんの『魔力講座』のせい?」

「いえトキヒコさん、其れら共違い、、、」

 リーザはさくらがエルフの持つ気概、エルフの持つ『本質』を何時知るに至ったのかは分からなかった。だが確実に娘さくらがそれらを既に持つ事を理解した。


「あの時か、、、」

 トキヒコは、さくらの『もうひとつの成人式』と位置付けた、女王ユーカナーサリーによる『枷』を外した時が思い返された。

 さくらが持つ、自身の“力”を目醒さしたあの時。



「トキヒコさん、(エルフとして)私の親とする役割は既にございません。」

 それは親である、リーザからさくらが『独立したエルフ』と認められた事だ。それは誇らしい。だけどリーザは何だか寂しそうだ。

「リーザ、だけどリーザの役割は続くよ」


「さくらは半分人間だ。だから別に親子の関係を断つ分けでは無いし」

「リーザがエルフの親として、さくらに伝承する事をやってくれた。そこにエルフとして伝える事がもう無くても、母親として、人間の母として多くの事を伝えて行く事は、まだまだ残されていると思う」

 人間なんて、そんなモノだ。

 

「それは人間的に接すれば、親子の血の絆は外れないし、、、いや、それはエルフであろうとも、外せない」

 人間は親から独立しても、何かの都合で親元を訪ねる。

 それは悪い事じゃ無い。あくまでも普通で当たり前な事。

 あ〜、エルフの様式を無視しちゃう様な、良くない事なのかもなぁ。


「トキヒコさん、さくらに声をお掛け下さい。」

「えっ、オレが入ってもいいの?」


「もちろんです。何も制約成るはございません。」

 えぇっ!じゃあ初めから居ても良かったの?



 私はリーザと交代する形で、ザーララの一室に足を踏み入れた。

 見覚えの有る様な、無いような一室。

 まさかさくら、あの時(“枷”を外した時)みたいに、光を放ちながら浮いてたりしてないよな?

 この一室、その奥でさくらはうつ向き加減に座っている。

「さくら、、、」


 オレがさくらに伝える事、、、う〜ん、特に無い。

 はっ、

 『、、、父として至らぬ我を赦せ、、、』ナステプニィ前王のあの声が蘇る。


 父親として、子、我が娘に対してやれる事は何であろう?娘は父親に何を求めているのだろう、、、やっぱ分からん。

 それに、さくらの言動も、意識も、私の手の届く範囲を越えている。さくらはヒトとしても、しっかりとした成長をしたと思う。

 私が父親として伝えべき事、、、やっぱ無い。

 取りあえず、

「さくら、、、全部勝て!」


「うわぁ~ん、お父さーん!」

 ん?泣く場面か?


 さくらには、葛藤が有った。

 さくらはエルフの『本質』までもを知るに至ったが、人間の部分が邪魔をする。

 人間は親子の関係性を持続しつつも、それぞれの道を歩む。

 例外は有るが、極一般的な範囲の事。


「さくら、、、泣くな!」

「だってぇ〜」


 さくらが涙する理由、、、晴れて『独立したエルフ』として認められたからなのか、それとも、親離れかなぁ?

 独立したエルフって、親と生き別れみたいなモノだと聞くしなぁ。

「さくら、さくらは今日エルフとして『独立』した事になった、それは誇らしい。だとしても、まだ自身のその道を示していない。プータローと変わらないなぁ」


「だけど別に焦るな。お前には多くの時間が待っているのだから」

 そう、人間が持つとされる時間に囚われるな。


「この先、この地に留まる事に限らず、人間社会を行ったり来たりするのか、向こうで暮らす事だって選択肢にすらしなくていい」


「さくらが好き勝手やって、誰かに咎められる事が有ったとしても、オレが許す。だから自由に居られる自分を目指すのも、いいかもよ」


 父トキヒコの何も根拠の無い言葉。

 しかしさくらには、響くモノがあった。

(「父の思考は他人が聞けば、いい加減で適当に聞こえるのだろう。」)

(「だけど父を知る私は、私の全てを受け止め、全てに尽くしてくれる事を知る。」)

(「半分エルフでありながら、エルフとしての独立の機会を与えられ、果たせた、、、」)

(「だけど、だけどこのままお父さんやママからは離れられない、、、。」)

 さくらが、半分人間であるが故の持つ部分の葛藤である。


「さくら、何でもいい、好きにやればいい。自分の自由は自分で作って、自由にやればいい!」


「うん、、、そう、そうね『自由は自分で作るモノ』。お父さんから教わった、数少ない事のひとつ。」

 さくらはトキヒコの言葉を聞き、葛藤を吹き飛ばす。

 それはさくら自身が明日へと向う活力となる。

「数少ないって〜」色々と言って聞かせて来たハズなんだけどなぁ〜。


 さくらと私達の関係性は変わらない。それでいいじゃん。

 だけど何だか少し寂しい。そんな気はする。

 さくらが将来誰かの元へ嫁ぐ事になったら、、、泣く。

 多分、いや確実に泣いてしまうだろう、、、あっ、想像しただけで、ちょっと泣けて来た。


 さくらのこの後は、リーザの住居とザーララの北山の山岳城を行き来する。

 リーザは私と『トキヒコハウス』で暮らす事になるから、リーザの住居は空き家となる様なモノだからな。




「さくらは(いつの間にか)立派に育ったんだなぁ」

 オレが知らないだけなんだろう。

「はい、誉れです。」


「全てリーザのおかげだ。リーザがさくらの母親で在るがこそ、さくらは育った」

 紛れも無い事実だ。

「いえトキヒコさん、私の力は及んでおりません。何事もトキヒコさんが居ればこそです。」

 あれ、褒められた?


「ううん、父親が娘にしてやれる事なんて、何も無いのかも知れない。」

 それはこの先も。

 私は前王ナステプニィが思っていた『父親』として、何を行うべきなのかは、一生分からないのかも知れない。


「うん。リーザにはさ、これまで通り、さくらの事をお願いしたい」

 さくらは、もう私達があれこれと言う事もする事も無いのかも知れない。


「さくらはさ、エルフとしての『独立』を果し、人としても立派に成長した。そして凄く大きな力も得ている、、まあ、元々持っていた事になるけど。だけど神様になった分けでは無い。あの娘とリーザが許す限り、さくらの側に居てやって欲しい。どんな存在に成ろう共、さくらが私達の子供である事は変わらない」


「さくらが何か行いたい時に、必要ならば私達の手を貸せばいい」


 リーザにギュっと抱きしめられる。

「それはトキヒコさんが望む事。私の望む事でもあります。さくらが許す限り、私はその任を受けます、、、」


(「さくらは、私達の全て、、、」)

 リーザは言い掛けて、止めた。

 リーザにもさくらが今まで以上に、自分を必要としない事を理解していたし、そうでなければ成らなかった。


 親離れ、子離れ、、、リーザは人間社会に浸ってしまって、エルフの親子間で行われる“独立”の意義が薄れてしまったのかも知れなかった。


 親から独立となったエルフは、親との“別れ”と同意ともなる。


 リーザはそれが、行えなかった。





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