さくら講座 『魔力』と『術』はエルフの願望
「さくら、“魔力”がやっぱ分からん」
さくらはザーララの北山の山岳城で、彼女から”魔力“についての授業を受けている。
「あー、“魔力”の授業って何をするのだろう、何か惹かれる、興味がそそられる!」
”魔力“を内には秘めず、そもそも持つ事も出来ない私は、希望するも参加出来ず。
何か少し悔しい。
エルフは本来であれば“魔力“や『術』の伝承は、親子の間で行われる。
しかしさくらは、単なる”魔力“では納まらない力を持つ。
それは邪竜を起源とされる、大きな力である。そうだ。
だから、大きな”魔力“(具体的な数値とか寸法は分からないけど)を持つザーララにさくらの事を頼んだ。
エルフの里国において、皆は何かしらの”魔力“に依って『術』を行使する。
この世界に於いて、魔力を持たず術が使えないのは私だけかも。
やっぱり、何か悔しい。皆ズルい!
「オレが今後、ココ(エルフの里国)での暮らしが続けば、いつの日にか魔法使いになれるのか?」
この世界に認められたなら、ルイラーに続き、この世界に有る“魔力”もオレを認めてくれないのか?願望〜。
「お父さん、以前『術』は音が聞こえて来る事と変わらないって言ったけど、魔力って電波みたいなモノなの。」
さくらの言うこの”音“は、エルフの行う『術』をリーザが人間社会に居て、その『術』を抑える事の大変さをさくらが例えとして表したモノ。
人間は伝わって来る『音』に対して、言い方も有るけど、勝手に届いて来る。そのままでは防げない。距離を置くか、耳栓でもしないと防げない。
何かをしないと『音』を遮断する事は出来ない。
だから『術』を抑える事も、何かをしないと抑えられない。
そして元居た世界は縦横無尽、右往左往と電波が走っている。
電波は見えず、送波している方向も人間の力では変えられない。(専用の機器等が必要だ。)
「この世界では魔力が同じ様に、世界を掛け巡ってるの。」
「へぇ~」
「電波は見える?感じる?」
「いや」見えません、感じません。
「魔力も同じなのよ。」
「お父さんが魔力を目で見たり、肌で感じないのは、そう言う事。」
「ふぅ~ん」そう聞かされると納得するしかない。
「そしてその電波(魔力)を発信し受信する為の機能が、人間には無いの。」
「じゃあ、オレが魔力を纏うのは、」
「多分無理ね。」
あ〜そんな残酷な宣言をあっさりと言いやがった。
だけどおいそれと、納得したく無い。
「だけどさ、ちょっと前に魔力を纏った事があったじゃん」
多分、エルフの里国を護る結界に利用されている、魔鉱石に乗った時の影響?
私は僅かながらにも、体の周囲に魔力を纏った事(ぶら下がる様に貼り付いていたそうだ)が有った。
”魔力“を内には秘めなくとも、周囲に纏う事なら行けるんじゃない?!
「あの時は何でだろう?何か特殊なイレギュラーで、たまたまね。」
一時的であれ、トキヒコが纏った魔力。その要因をさくらは掴み切れていなかった。
魔鉱石に寄るモノであったのか、負の感情を現す者達の現出との呼応であったからなのか。
ただし、トキヒコが魔力を纏う事となったら、その“力”が測り知れない事となる、、、さくらの予感であれ予測であった。
トキヒコに多く集まるルイラーは、トキヒコの持った魔力に同調し、大きな力を引き出す事となった。
トキヒコが魔力を纏えば、大きな力となる、、、それが何故なのかも、さくらは要因を掴み切れていなかった。
しかしソレは、負の“力”が溢れる様に広がり、周囲を呑み込むが如く、巻き込んでしまった。
さくらは自身が持つ“力”の存在する理由のひとつに、トキヒコに対する観察であれ、抑止力となる事ではないのかと思っていた。
「エルフ達はその体内に、多い少ないはあっても魔力を抱える。あっ、この多い少ないって、お父さんに分かり易く、概念的にね。」
概念ってさあ、場合によっては曖昧じゃない?
「魔力が術として身体から離れると、宙に流れ出る。」
「宙って?」
「空中とか空気中、海中に宇宙。自分の身体から取り巻く外に向う事。」
「そして術を使えば体内魔力は減る。だけど直ぐに補われる。」
「ルイラー?」
「そう、ルイラー。ルイラーは多く溢れている。だけど地球上ではその存在が少ない、薄いっていうか。」
う〜ん、ルイラー。ルイラーも見えないし、その恩恵と言うか、ちょっと何かが届く様になったけど、いつもじゃないし、コントロールも効かない。
「ルイラーは自然由来のモノとされているわ。だからかしら、地球上では多くの自然が失われた。だけど考え方によっては、アスファルトだろうが鉄骨やプラスチックも地球由来のモノ。だからルイラーは自然由来と言うよりは、植物や生物から出されるモノとの考えが近いのかも。生物から、、、だけど人間からは出されない。だって地球上には多くの人間が存在しているのに、ルイラーは薄いわぁ。」
ルイラーはそこに在る。
だけどそれは”魔力“や『術』ではどうにも成らないと。なのにさくらは私の体を使って、ルイラーを集める。それは無意識に、さくらが持つ”力“が何者もコントロール出来ないモノを制御する、、、さくらは化け物か?
「失礼ね、お父さんの娘よ。」
間違い無い。それはオレとリーザが保証する。
「そんでさ、ザーララさんの『魔力講座』って、何してんの?」
何か難しい講義?オレも受ければ魔力を持つ事に一歩でも近付く?さくらに魔力を持つのが無理と言われても、簡単には諦めません。
「お父さん、魔力って『使う』よりも『整える』時間が必要なの。それを学んでいる所。整えると言ってもやり方よりもその『在り方』についてね。」
在り方?
「魔力は『持つ者』と『知る者』との差が大きい。この差というのが、う〜ん、『有る無し』『裏表』、、、表現としたら、ちょっと難しいんだけど。」
あー、ザーララさんにも言われた。”魔力“を持たなければその本質は理解出来ないと。どれだけ”魔力“を知識として持っても、理解には及ばないと。ちぇっ
“魔力”には善と悪、光と影、高い低いなども無い。魔力は飽くまでも“魔力”として在る。
行使する者の性質により、善・悪と表せられる場合も有る。
「それでさ、”魔力“を『行使』する時って、何やるの?」
「基本は願望ね。」
「願望〜?」
「願いであり希望。」
「でもエルフ達って願望とか希望、それこそ積極的に何かを望んだりはしないじゃん」
「そう、エルフ達は、個としての望み、、、願望は抑えられている。それは日々の活動の中で『術』として現しているから。」
”魔力“を使って『術』として現されるのは、エルフ達の願望なのか、、、確かに、もう少し力を入れたい、速く走りたい、多くのことを(知識として)吸収したい、、、願いだ。
それらの『願い』を”魔力“でもって実現させてしまうのは、願望なり希望が適っているって事だ。
それだと、エルフも人間と同じに『望む者』と変わらない、、、ちょっと希望や願望のニュアンスは違うけど、、、人間は、適わない事を望んでしまう。
だけどあの時、魔力を纏っていた時、女王ユーカナーサリーにもザーララさんにも『思うがまま、望むままに』と言われ、実際光鉱石に対して”光れ“と意識を向けた。あれは確かに願望だった。
、、、だけど願望を持ち、『術』でもって実現させる、、、エルフに対する新発見だよ!
「私達人間の持つ願望や希望をエルフ達はニュアンス的に持たない。希望的観測なんて行わない。」
「文化や社会、生活環境や歴史が違うからなのか、そもそも異なる場所の異なる生命活動を行って来た者。だから人間社会に当てはめたり比較する事自体が無意味なのね。」
それだと余計に、エルフを理解するのが遠のく、、、。
「敢えて言うなら、エルフ達は遠い将来に向けた理想像を持たない。」
「理想を持たない、、、でもそれだと、」
何を目指せばいいのか、自分はどうなりたいのか、明日来るかも知れないワクワク感を持たないのか。
つまらない社会だ。あっ、これだとオレの基準に他ならない。でも、エルフ達からはそんな事は微塵も感じられない、、、何故だ?
「つまらない、、、それはお父さんの持つ思考や感情の一部であって、単なる価値観の違い。」
「そうだけどさぁ、何かなぁ」
「人間は愉しみを求めて生きている。悪い事では無く。」
それは生に繋がる。今日を生きる為に、明日を求める。
「エルフ達は何故かしら?切迫した脅威を持たないから?今を満足しているから?」
さくらでも、理解には及んでいなかった。
「だけどさあ、向こう(人間社会)で、切迫した脅威や危険に晒される事は無かったし(災害の恐怖や日常での事故などの危険はあったけど)、日本は戦争や破壊的なテロも無い。金銭的な生活苦はあったとしても、まあ、満足出来てる方じゃなかったかな」
「生活に(ある程度)満足してたとしても、将来に向けた夢も希望も持つ、喜びや愉しみを求める。それは人間だからか?」
漠然だとしても、何らかの希望を持って今日を生き、明日を目指す。自分の将来に対して、多くの希望や目標を持つ者は多い。
「ほらお父さん、自分(人間)にエルフ達を当てはめてる。」
「いや、そうなっちゃうんだよなぁ」
「そもそも、知らなければ求められない。知っていても抑制が効く。エルフ達は人間が持つ『理性』よりも一段も二段も上の違った意識を持っている。」
理性かぁ〜
人間だって理性を持つ。
だけど理性を持つ筈なのに犯罪を犯したり、同族殺しさえする。社会に反したり社会のルールから外れる者は多い。
人間の持つ理性は、言葉だけで凄く低い戒めなんだろうなぁ。
それに世界や地域、文化や宗教、それこそ『個』によって、理性の基準って違ってるかも。
人間の持つとされる”理性“って、大分怪しいなぁ。
「まぁお父さん、お父さん(人間性)をエルフの皆さんに当てはめるのはダメね。」
あぁ、そりゃそうだな。さくらから具体的な例を示されれば、理解に繋がるし、より納得してしまう。
何かさくら、先生だな。でも、何時エルフについてそんなにも理解した?あー、半分エルフだからな。
「で、ザーララさんの『魔力講座』って何時まで?」
「う〜ん、『これで終わり』って言うのは無いのだけど、そろそろだと思うの。」
そろそろか、、、、。
「いつまでも誰かに頼っていちゃダメだと思うの。それはザーララさんも私も同じに思う所よ。」
「って事は、」
さくらのエルフとしての『独立』の時が来るって事だ。
さくらのエルフとしての『独立』の時が来る。
さくらは半分エルフの血が流れているから、迎えるべき事柄なんだろう。
だけどさくらには、夢も希望も理想も持って欲しい。
さくらは半分であれ、人間なんだから。
そして私もいつの日にか、この身に魔力を纏う願望を持って暮らして行こう。
だって人間は、叶いもしない夢や希望を持つ者なのだから。