ユーカナーサリーの目覚め ザーララ
朝が来ていた。
私はユーカナーサリーと共に、深く眠りに着いた様だ。
一糸も身に何も纏わぬフェアルンが、私の隣で眠っている。
あれは、、、夢でもなければ、幻を見たのでも無かった。
ユーカナーサリーは肉体的な成長を遂げている。成長だなんて言葉は当てはまらない!変化としか言い様が無い、、、いや、それすら当てはめる言葉が無い。
それは突然だった。突如として急速に変身を遂げたと言うのだろうか。
エルフが成長する一般的な過程として持ち合わしている事なのか?『時期』を迎えたエルフに訪れる変化なのか?
ユーカナーサリー、可愛らしいフェアルンが美しいフェアルンへと成長を遂げた。
「あっ、」ザーララ、、、
体を起こした目線の先には、ザーララが居た。
コレって、浮気の浮気がバレたって事〜?!
それでー姉妹丼!
こんな状況、、、当然経験なんてした事も無いし、聞いた事も無い。対処方法、、、全く思いつかない!
ザーララは私達に向い、ゆっくりと歩み出す。急ぎもせず、遅くもなく、別段その表情が何かを表している事も無い、、、いや、不気味。
ザーララが私達に近付けば、ユーカナーサリーは目覚め、そして無言のまま立ち上がった。
一糸纏わぬその姿のまま歩き進めば、周囲に広がる裂けている衣服、編み上げの靴が一度解けながらユーカナーサリーに向う。そしてその身体に巻き付く様に、再び衣服の形を成して行った。
そして姉妹は対峙となった。
対峙となった姉妹のエルフ。
声を発する事も無く、穏やかに向き合っているようにさえ、思われる。(でも二人共にエルフだ。言葉を交わさなくても、意識のレベルでのやり取りが行われているのだろう。その内容は、、、全く分からない。何か、怖い!)
エルフの姉妹が穏やかに向い合っているように見えるけど二人(2エルフ)の間の空気が張り詰めて、ビリビリとした音が聞こえて来そう!逃げるか!何処へ?助けは?こんな状況下の中、リーザであれさくらであれ、呼べる訳も無いし!
エルフ王家の姉妹、ザーララとユーカナーサリー。見つめ合う様に2エルフは向き合っていた。身動きもせず、お互い口も開かず、意識での疎通も行わず。ただただ、見つめ合うかの様に。
なんだかスゴク長い時間が経った様に感じるけど、
言葉も交わさず、身動きすらしないまま、向き合ったままの姉妹を見ている私は、、、息が詰まりそうだ。
「ユーカナーサリー、、、」ザーララが口を開く。
何かが始まる!?
青い稲妻が走って、赤い炎が渦巻くのか?!
「ユーカナーサリーよ、済まぬ。」
わぁあー!えっ?
ザーララから発せられた言葉、それはユーカナーサリーへの謝罪であった。
エルフによる言葉(日本語)での発声てあった。
それ故にトキヒコにも届いてしまう事となる。だが、ザーララの意識は、何か言葉で表さなければ成らない、言葉としてでなくては伝わらない思いであるとの判断があった。
「、、、ザーララさんが謝った?」
尚もトキヒコが同席する場面に於いて、エルフ達は『日本語脳』を働かす傾向が強くなっていた。
ある意味、人間スルガトキヒコは、エルフの里国の民達に大きな影響を与える存在ともなっていた。
「全てはわたしが未熟であるが故、父王とお前を苦しめた、、、」
「済まぬユーカナーサリーよ、済まぬ、、、」
「いつも無敵なザーララさんが、、、」
思いもしない態度を取った。
「わたしは未熟で、、、自身を抑える事もまま成らず、、、何も適わず、、、」
ユーカナーサリーの視線の先に在るのは姉、ザーララ。
ユーカナーサリーは口も開かずただ、その場に立っている。
「、、、ユーカナーサリーより父王を奪ったのは、私だ。至らぬ私を赦して欲しい、、、」
この姉妹の間には、蟠りが存在していた。
ザーララは、自身より溢れ出す“力”を抑えられず、挙句、母王は石へと成り果て、父王は消えてしまった。
エルフ王家の家族、それを崩したのは自分自身であるとの自覚を持つ。いつもの態度からは想像もつかず、ザーララが苦しみ、抱えていた悩みであった。
エルフも悩みを持つ。何者にも知れず、自分が抱え込むだけの悩みを。
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーは、お父さん子だった。
それはさくらを見る度に、父であるトキヒコに懐くさくらを見る度に、自身と重ね、どこか懐かしく、微笑ましく、、、羨んでいた。
それはエルフが持たぬ感情である。しかしエルフ王家の者達には、当てはまらない。『感情を現す』エルフとして、エルフ王家の者達はエルフとして過ごす。
そしてユーカナーサリーには、姉ザーララに対して恨みも憎しみも持ち合わさず。それがエルフ足る事だからなのか、否、ユーカナーサリーは早くにしてエルフの里国の玉座に着き、民達を見守る任へと就いた。
右も左も分からぬままに、誰一人として頼れる者も助けを乞える者も居ない。
その中で、ユーカナーサリーは成長した。王との務めを果たす為に、精神世界を成長させた。
エルフの王の務め、それはエルフの民達の助けとなり、救いを求められれば、それを満たせ足る事が適う存在である事。
「ユーカナーサリーよ、赦して欲しい。至らぬわたしを赦して欲しい、、、」
まるで、まるでザーララの物言いは、私に届いていた前王ナステプニィと全くと言っていい程、同じだ。
もしかして、私に届いていた前王ナステプニィの想いは、ザーララさんの想いでもあったのか、、、。
ユーカナーサリーは顔を上げ、改めて姉であるザーララを見つめ直す。
紅赤と漆黒となった瞳は、陽の光を受け強く輝く。
「姉様、我らはエルフぞ。エルフに赦すも何も無い。」
「我らは何も違いを行うたでも無く、其には罪も罰も無き。ただ、ありのままで在るべきであろう。ありのまま、、、今であればそれが最善、我も姉様もトキヒコより学んだ事では無かろうか。」
誰にも知られず、何者にも悟られず、、、だが確かにこの姉妹の間には、どこかでお互いを拒む氷の壁があった。
ありのまま、、、トキヒコの前で、溶けていく。姉妹の間に存在した、見えざる氷の壁が溶けて行く。
「姉様、死を迎えた者は戻らぬ。成らば我らは送り出すがのみ。」
「ああ。」
ザーララとユーカナーサリー、エルフ王家の姉妹は、二人揃って空を見上げた。
二人の目線の先には、父王ナステプニィが映っているのかも知れない。
死者を見送る、、、こうも凛々しく明るく、誰かを見送る姿を私は見た事が無い。
人間では真似が出来ないのかも知れない。
ザーララとユーカナーサリーは、今回の出来事で死について理解をしたのか、、、だから顔を上げ、父王ナステプニィを見送っているのだろう。
死者の世界が或るのなら、父王ナステプニィ、どうか二人をお守り下さい。
(「トキヒコが現れなければ、、、トキヒコが居なければ、わたしは/我は、決して再び交わる刻を迎えず、、、我らが再び交わす事は無きであろう。だが、我らはこうして再び互いに立つ。トキヒコが居なければ、、、」)
特別な力も持たず、在り来りなただの人間スルガトキヒコ。
そのトキヒコの存在は、エルフの王家にとってかけがえのない存在となっていた。
長兄をこの世界(エルフ王家の者達の元)へと戻し、母王を解き、父王に辿り着いた。尚も姉妹が持つ絆を再び編み上げさせた。
それは、人間が持つ“可能性”だったのだろうか。
人間が、何処かで役立つ事はまだ残されているようだ。
「ユーカナーサリー、合わせ我らはひとつの”けじめ“を付けねば成るまいな」
姉と同じ目線となったユーカナーサリーは、真っ直ぐにその目を見て、頷く。
「けじめって〜何?」
エルフには、罪も罰も無いって、なのに『けじめ』だなんて?
姉妹が取るべき『けじめ』。
それはトキヒコの心を覗き見た事より生まれ出てしまった、感情。
憎しみ、妬み、恨み、、、。本来エルフが持たぬ感情。しかしそれらを持つ人間の心に接し、得てしまった。
『けじめ』、それはエルフとしてよりも、個として、一フェアルンとしてはっきりさせるべき事象の区分、責任の追及であり反省。エルフでは持たない側面であった。
だが、エルフ王家の姉妹は、単なるエルフなどでは括れない。大きな力を持ち多くの事柄を知る。何より人間と交わした、、、故に仕切りであり、けじめをつける。
エルフの姉妹はお互いに身体を寄せる。燃え上がる青き炎で互いを包み燃え上がる!
「わー!二人が燃え出した!何でー!?」
青き炎は浄化の炎。エルフの姉妹が身に秘める魔力を行使する事により、それは適う現象。
今二人は、互いの感情を消して行く、それはトキヒコの中にて得た記憶の一部と共に。
「水、水!消火器どこー!」
青き炎が収まれば、再び姉妹は並び立つ。
だが、消せぬ記憶、感情が残った、、、切なさ。
苦しみは、エルフも持つ。だが切なさは、苦しみであるが苦しみのみでは無く、その先に何かを感じる、、、自身が秘め、持ち続ける何かが。
「、、、鎮火、した?」
「だがな、我は姉様にモノ申そう。」
「何だ。」
「順番だ。」
「順番?何ぞのだ。」
「トキヒコの次の伴侶は我が先であったが筈。我らエルフに決まりなど無い。だがな、姉様は我を追い越した、あの刻にて同意とされし言に反してな。」
あー、この姉妹には良く聞かされる。
リーザの次の伴侶はユーカナーサリーだと、その次がザーララさんだとか。
って事は、ザーララさんとの関係も、ユーカナーサリーにはすっかりバレてた!?
「此度の件はトキヒコも知り様事。成らばトキヒコも罰を受けねば成るまい。」
えぇ~、エルフには罪も罰も無いんじゃなかったのぉ〜
「エルフの罰を受けねば成らぬ。」