ユーカナーサリーの目覚め ユーカナーサリー
紅赤と漆黒。ユーカナーサリーの瞳の色が変わっていた。
『紅の瞳』それはエルフ達が持つ伝説で聞かれる、強き魔力を宿す瞳。片側であるとはいえ、ユーカナーサリーはそれを得た。
そしてその力で自ら創り出した空間『ニエ・ウィドヅクズジェテゴ・プレゼンステラゼン』に今、トキヒコと共に居る。
これはユーカナーサリーが求めた状態、ユーカナーサリーが望んだ状態であった。
ユーカナーサリーが望む事、トキヒコとの交わりを持つ為だけに。
しかし、ユーカナーサリーは、急激な身体の変化を受け、その身体のどこかに不自由さを感じていた。
(「我の身も心もどこかが欠けてしまっているのでは無いのか、、、不調とは違う、、、一体何が?、、、この欠けたる部分を埋めるかの様に、、、何が我より昇って来ようのか?」)
違和感に近い感覚、その身体の反応は万全足るモノでは無かった。
(「意識が、、、定まらぬ、、、と申すか、、、」)
溢れ出す程の魔力を新たに秘め、しかしそれを抑え込み回す。
だが、自身の内より溢れ出そうとしているモノは、それだけでは無かった。
(「我の持とう魔力は一段昇ったかの様だ。だが、問題など無き。我が制するにて置くは適う。」)
(「だが、今の我に届こう昇り来るモノ、所詮我の内にて起こる事象に過ぎぬ。成らば解へも届こう事。問題無き。だが、」)
(「だがこの何が込み上げ様、何が、何が、何が我を突き進ませ様と、、、何が昇り来る、、、此れ成るが、、、留めれぬのか?!」)
ユーカナーサリーが持ち、至った『時期』は、今は性に対して受け入れるがのみ、それは相手に身を委ねる事が本質であった。
故にユーカナーサリーは身体と心に違和感を感じ、自らが自由には動けなかった。
今まで得た事の無い感情の発生に加え、ユーカナーサリーは迎えた『時期』の本質に支配されつつあった。
(「来る!又である、何が、何が我の中より駆け上がろう?!ああぁー!何が、あぁ~!解せぬ、解へと届かぬ!何が、何が我を!抑えれぬ、留めれぬ!」)
「トキヒコ、、、」
ユーカナーサリーは妖艶な目でトキヒコを捉える。
「我はトキヒコを望む。我はトキヒコを望んだ。」
(「そう、、、我はトキヒコの全てを、望む。しかし、あぁ~!この溢れ出そう感情であろうのか?何が、何が、、、まるで我を飲み込でもすると成ろうのか、、、!」)
(「トキヒコが迫る、その手が全身を這い辿る、トキヒコの息が掛かる、乳房を掴まれた、、、」)
委ねる事が本質となっていたユーカナーサリーは身動きすらままならぬ、流れに晒されているに等しかった。
(「今の我はトキヒコに支配されている、、、」)
エルフは自由であり、自由を持つ。
その言動に対して、何者からも咎められず、何者からの制約も掛からず。それは相手と意識のやり取りから生まれる意思疎通を持ち、相手の思い、気持ちを汲み取り理解に至る。その過程の果てに、得られる自由。エルフが獲得した自由である。
エルフ成らば持てよう自由である。
(「コンテロラ(支配)などっ?!」)
故にエルフに支配などは、縁遠い。
(「此れ成るは、今の我はトキヒコに支配されるに変わらず。だが、、、心地良い」)
(「何を望もう、何を求めよう、、、このまま、、、今の自身が望むはトキヒコのみ、、、今の自身が心地良い、、、」)
「アアッ」
(「来る、トキヒコが入り来る!」)
(「入って来る、入り来る、、、」)
(「人間の意識が、人間の思考が、、、入り来る!」)
ユーカナーサリーは”魔力”を行使し、人間社会を見る事は、自身の暮らしの一部として過ごして来た。
そこには、人間が持つ社会、歴史、文化、習慣、意識、習性、、、多岐に渡る。それは『見る』に特化した外的に依る観察であった。
しかし、直接生身の人間に触れ、人間の持つ思考や意識を直接を取り込む事は無かった。トキヒコと接する事となっても、意志を持つ者の内部など探る事は憚れる。
「あっアアッー!」
(「我では支えれぬ!留めれぬ!これは、此程の、、、!」)
「あぁー!」
トキヒコからの責めと共に届く感情と思考。それは濁流の如く、ユーカナーサリーは受け切れない!
そして、ユーカナーサリーの意識は、トキヒコが人間として持つ思考と感情へと繋がった。
(「溢れる!留められぬ!ああ、、、人間とは、これ程怪異で複雑な思考を持とうか!我の抵抗?!しかし、抗ぬ!、、、」)
ユーカナーサリーは自身の内から昇る衝動と、トキヒコから伝わる激流の間に晒された。
ユーカナーサリーは、今の『時期』が持つ本質により、受け入れる。
しかし、容易には受け切れられなかった。
自身の意識の中で思考に対し込み上がる衝動、トキヒコから流れ込む人間意識の激流、生身の肉体が受ける激しい刺激であり快感。
ユーカナーサリーは精神世界においても、肉体においても、溢れてしまっていた。
だが、ユーカナーサリーはトキヒコの感情と思考の濁流の中で足掻き、藻掻き、抗う。そして、その手を伸ばす!
ユーカナーサリーが伸ばす手が目指すは人間の持つ意識へ。
そしてユーカナーサリーは、トキヒコの思考よりひとつの意識に辿り着く。
(「、、、好き、、、?!」)
(「この感情、この意識は、、、父様、母様、姉様、兄様、、、リーザ、、、違う。我が持ち様それは好意と成る感情。違う、、、」)
(「好意の先に発生すべき感情、、、好き。」)
「アアッー!」
ユーカナーサリーの肉体は絶頂を繰り返していた。
(「我は、我はトキヒコが”好き“であったのだ!」)
(「我はトキヒコを側に置きとうと、我の座をトキヒコに譲りたく、、、トキヒコと永き刻を過ごしたく、、、好き。」)
(「トキヒコが、届く!我の芯にトキヒコが届いておる!」)
「アアッー」
ユーカナーサリーの身体は抗えない。
(「其なに我の芯を突くなど!アァッー!届いておる!トキヒコが届いておる!」)
幾度もトキヒコにしがみ付き、幾度も体を反らす。
「其の様なっ!アアッー!」
ユーカナーサリーを駆け上がる衝動、そして繰り返される絶頂。
ユーカナーサリーはトキヒコと一体となった事で、トキヒコのと思考と感情が流れ込む。
流れ込む多くの意識、思考、感情、、、最早その流れを進んでいるのか避けているだけなのか、状態も判断もままならない。
だが、ユーカナーサリーは突き進んだ。
それは人間が持つ意識であれ感情。しかしもっと、もっと先へ、感情のその先へ、、、もがき、あがき、手を伸ばし、濁流を進む。
そしてトキヒコの“個”としての意識と感情、トキヒコの精神世界へと到達を果たす。
トキヒコの内成る世界へ。
だがそこは、暗い。真っ暗な闇の中だ。
(「、、、シエムノシク、、、闇、トキヒコの精神世界、、、だか、この暗きは何としようぞ、、、」)
ここはトキヒコの精神世界の入り口とでも示そうか。
そこは暗かった。
(「何が来る!何が流れ込むのだっ!」)
ユーカナーサリーの精神を襲うかの様に現れたのは、負の感情。
憎しみ、恨み、妬み、憐れみ、、、他者に対して向けられる、ありとあらゆる負の感情。人間が持つ、極一般的であり、ありきたりの感情。
(「ネガティワナ・エモスィジェ!」)
トキヒコの負の感情がユーカナーサリーに襲い掛かる!
(「ニエナウィスクッ!ウラーザ!ザヅドロスク!ストロンニクゾスク!ゴドニィポザロワニア!」)
エルフも苦しみは持つ。だかそれ以外の感情を持ち合わさず。ユーカナーサリーは揉まれ流され、受け切れない。
留まる事の無いトキヒコの負の感情は溢れ、ユーカナーサリーの行く手を阻むかの様に黒き壁と成る。
トキヒコの持つ負の感情の中、それでもユーカナーサリーはもがき、抗い、出口を探す。
(「我は知る。トキヒコが持つ先に或るのを知る!」)
ユーカナーサリーは抗う。
しかしトキヒコの負の感情は黒き壁となり、ユーカナーサリーの行く手を阻む。
(「飲まれる!トキヒコが持とう負の感情とは此程のモノなのか!」)
「アアッー!」
ユーカナーサリーの肉体は、成すすべも無く、トキヒコの責めを受ける。
だが、それに反するかの様に、精神世界を膨らませる。
(「我は知る!この先に有ろうトキヒコを!」)
そして幾重にも重なる黒き壁の隙間に、一点の光を見付ける。
(「スウィアトロウ!あの光こそ、あの光の先にこそ、、、我は知る!」)
ユーカナーサリーは藻掻き、足掻き、抗う。
ユーカナーサリーは並のエルフでは括れぬ。膨大な魔力を持ち、そして何者も敵わぬ強き意志を持つ。
その意志を満ち溢れさせた!
(「我は、我は、トキヒコの持つスウィアトロウ(光)、先に或るトキヒコのシィース(心)を求め様!」)
黒き壁を突き進んだユーカナーサリーは、その手を伸ばした。
辿り着く、トキヒコの心へとその手を伸ばした。
(「トキヒコのシィース!、、、そして”愛“。」)
(「ま、眩しき!心を事象とし、見るに至れば、、、」)
トキヒコの持つ”光“、エルフ達により育てられた輝き。
ユーカナーサリーは強く輝く光の世界へと入る。
先程までの激流と表せよう意識や感情の流れも無く、光の世界の中をさながらに漂う様にユーカナーサリーは進んだ。
進む先には淡く輝く塊が多く現れ出す。
「(こ、此らは、、、愛、、、愛は何よりも尊く、誰もが持ち、持てぬモノ、、、トキヒコの持つ愛、、、)」
ユーカナーサリーの行く先には、一層大きな塊が見える。
(「或れ成るはトキヒコの本質?!」)
近付きたい、見たい!ユーカナーサリーは加速する。
(「、、、トキヒコの持つ愛、、、?!」)
(「、、、!」)
大きな淡く光る塊、トキヒコの心への探求、しかしユーカナーサリーは止まった。
(「姉様は、、、姉様はトキヒコの心を見たと申すのか、、、」)
大きく淡く光るトキヒコの心の中心部まで辿り着き、ユーカナーサリーはそこに留まる存在を見た。
自身の肉体とは別に、ユーカナーサリーの思考が停まる。
(「、、、リーザ、、、」)
トキヒコの心の中心には、リーザが居た。
(「この思いは何とする?悲しみでも無き、かと言い羨みとも違う、、、切なさ、、、切ない!」)
(「リーザ、、、リーザ、、、リーザ、リーザ!」)
(「何故、何ゆえリーザはこの場に居よう、リーザは何故にトキヒコの心に貼り付いて居よう!)
(「リーザ!」)
(「、、、今の我が持ちよう魔力成れば、今の我の力あらば、、、リーザをあの場より剥がす事は容易い!」)
(「リーザ!」)
(「リーザ!」)
(「リーザを剥がせば、リーザを剥がしてしまえば、トキヒコの心に我は着こう!我はトキヒコと共に進もう!我は!、、、我は、、、トキヒコは、、、」)
(「、、、リーザをあの場から剥がせば、、、我はトキヒコと、、、トキヒコと我は、、、我は、、、トキヒコは、、、トキヒコは、、、トキヒコで無く成る?!、、、ううぅ、、、」)
(「、、、トキヒコが、、、トキヒコを成せなくなる、、、」)
(「、、、トキヒコ。」)
リーザはトキヒコの中で、トキヒコの“本質”の一部を占めるに至っていた。
本質、外からソレを変えようものなら、本質は保てなくなる。別の何かへと変化してしまう。
ユーカナーサリーの肉体は激しい嵐の中を漂う小舟であった。
激流に流され、突風に煽られ、大波の狭間に落ちて行く。
抗う事も出来ず、荒れ狂う嵐の中に晒される、為すすべは無い。
何度も何度も衝動が込み上がり、幾つもの絶頂を迎えていた。全ての力が、果ててしまうかの様に。
そして、ユーカナーサリーは安らかに果てた。
(「、、、トキヒコ、、、トキヒコ、我は何の刻よりトキヒコのエルフであった、、、出会いし刻より、お前のエルフ、、、。」)
そして、エルフとしての自覚と、フェアルンとしての悦びを得た。