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エルフは枯れる ユーカナーサリーの変化

 『ザカザナ・キライナ・ミュエジェスシェ・タブ』

 エルフの里国の民達にとって『禁断の地』『禁忌の地』と決められている3つ在る場所。

 決まりを持たないエルフの里国の者達にとって、それは稀な事。

 禁断や禁忌の理由としては、命に直結してしまう影響を及ばす場所だから、、、最もだ。


 『ザカザニー・ラス』

 そのエルフの里国に3か所在るという、『禁忌の地』と呼ばれるひとつであった。

 特殊な力場でもあり、エルフ達がこの地に入れば魔力を回せなくなる。それは力を抜かれてしまうような事。魔力を整えなくなったエルフは、やがて魔癌を患ってしまう。

 魔癌は、エルフが罹る唯一の疾患、エルフの死と繋がってしまう病。


 またこの地は、死を『自覚』した者が向う場所として、そこには自意識を持つ動物達を筆頭とした、各種の生物達が向う場所。

 私も、人間は何時の時点からなのか、死に対しての自覚を持つ。自分に死が訪れる事、それは避けられない事だと知っている。だが、死を何時迎えるのかは分からない。

 だが、必ず来る。だから私がこの地に入る事には、何も抵抗も、遮ろうとする現象も顕れない。

 エルフも例外では無いそうなんだけど、女王ユーカナーサリーが云うには、エルフの死はまた別だと。


 ただ、禁忌の地『ザカザニー・ラス』は、もう禁忌の地では無いと、入らざるべからずは解消されたと、、、私は誰かから聞いた。

 この地で出会った誰かから。




「しかし、再びこの場所に来る事になるなんて」

 私はユーカナーサリーと二人して、三途の川、、、もとい、禁忌の川に立ち、川向うに広がる禁忌の森『ザカザニー・ラス』を見ていた。

 私の身にいつか死が訪れる、、、、死に対する『自覚』は持っているけど、余り想像とか考えたくないことなんで。

 ただ、この森を抜けた先が本来の『禁忌の場』だそうなんだけど、前回私はそこまで辿り着けたのか?ただ、この前みたいに森に対して赤だかピンクの霧だかモヤが掛かっていない事が分かる。


 前回は、私の『意識の置き場所』が悪いから、整える為に女王ユーカナーサリーが言うところの『賢者』に会って来いと。

 そして私は誰かと出会った、はず?

 確かに会った、言葉を交わした、誰かの声を聞いたんだ。だけど思い出せない。その者の姿も声も、話したとされる内容も。本当に出会った者が居たのだろうか、、、いや、居たんだ。

 それは私がこの意識を持つ限り、どこかが記憶しているはずだから。


「じゃあリーザ、ちょっと行って来ます」

 今のリーザは、ザーララさんの山岳城と『トキヒコハウス』を行ったり来たり。その合間に自分の住居やエルフの王宮に立ち寄ったりと、少し慌ただしい。


 ザーララさんの山岳城は、今さくらも滞在(?)して、ザーララさんの『魔力講座』を受けている。

 それに合わせて、エルフの親子間における『魔力の伝承』も有るそうだから(何をするのか知りません。あ〜そろそろ一回見に行かないと。)、リーザには私の事なんて二の次でいい、今日はさくらに着いていてあげてと、留守番をお願いした。



 かつて知ったる場所では無いけど、ザカザニー・ラスが不気味さを漂わさせている事には変わらない。だけどあの森に入る事には何も抵抗を感じなかった。

 不気味さや抵抗よりも、どこかで前回失ってしまった記憶を取り戻す事が出来ないのだろうか、私は何を見て、何を聞き、何を話したのだろう、、、そして、誰かに会った。その記憶の一辺でも思い出せれば、、、その思いが強かった。


「トキヒコ殿、手を」

 私はユーカナーサリーに右手を差し出し、私達は手を繋いだ形で飛び上がった。

 ユーカナーサリーは魔力を行使して『術』を繰り出す。

 この“技”がどんな呼び名でどんな仕組みなのか知らないけど、大河とも表現できる禁忌の川を飛び越える。


 対岸へと到着し、ザカザニー・ラスに近付くも、我々を拒む様な赤い霧も風も起こらず、ただただエルフの里国に在る森とは変わらない姿であった。それは地表まで光が届く、明るく深い森。

 私達は揃って、ザカザニー・ラスへと足を踏み入れた。



 今回この地に訪れた目的は、私の夢の中で訴えていた前王コンチヌォワック・デジエデジクヅィク・ナステプニィを探し出す事。

 前王でありエルフ王家の父王ナステプニィは、何故私の夢の中に現れたのであろう。

 夢は意識とは別の世界に飛んで行く。それは叶いもしない願望なのか、抑圧された自意識なのか、自由を謳歌するでもない、、、だけど何かを探して、飛んで行く。

 エルフは夢を見ない。

 だから、私の夢に前王の想いが届いたのか。


 そして私が前王は『ザカザニー・ラス』に居るからと言っちゃったので、再びこの地に来る事となった、、、あくまでも感覚、夢の中での出来事ですもん。そんな気がしただけなのに、、、けど、オレ必要?言っちゃった責任?

 そして母王ジールが言い示した、前王の呼び掛けとなる者、女王ユーカナーサリーと共に。

 母王ジールは何故ユーカナーサリーだと言ったのだろう。

 ジールにも前王ナステプニィの声だか想いは届いていたのだろうか。



 私達は明るく深い森『ザカザニー・ラス』を歩き進んだ。

「ユーカナーサリー、体調は?」

 この地では、エルフは魔力が整わず、魔力を回せなくなるとか。

「うむトキヒコ殿、言われ来た影響為れは受けず。」

 どうやら以前言われていた様な、エルフの魔力に影響を及ぼす力場は現れていないのか?

 それとユーカナーサリーは”死“を自覚していないと思う。そもそもエルフって、そんな事は考えないのかも知れない。


 隣で並び歩みを続けるユーカナーサリーからは、何も状態や体調の変化は伝わって来ない。”死“を自覚していなくても、この地が何かの影響を与える事も無さそうだ。

 『禁忌の地を解く』私が持ち帰ったとされるひとつの記憶、、、正しかったのか。ならば尚更、私は誰かと出会い、語ったのだろう。



 私たちは歩き進んだ。

 でも、私は前王ナステプニィがどこに居るのかは知りません。漠然と『ザカザニー・ラス』と感じて言っちゃったんだけど、、、広く、深く、どこまで続くか分からない森の中での人探し。見つかる分け無いじゃんか。

 ユーカナーサリーは、、、何かを感じて、前王ナステプニィに向かっているのだろうか。

 『ザカザニー・ラス』と言っちゃった手前、ユーカナーサリーが何を根拠に進んでいるのか、なんかちょっと聞き難い。


 ユーカナーサリーは、、、口を開かない。

 まあ、ペチャクチャと話しながら進むのとは違うけど。けど、、、、

 あの時、私が持って来た話しが、前王であり父王デジエデジクヅィク・ナステプニィの事であった時のユーカナーサリーの反応が、何時もと何か違って感じた。


 ユーカナーサリーは、父王ナステプニィに対して、何か思う所をお持ちなのであろう、、、親子だからな。見た目は思い詰めている感じでは無いけど、何か何時もとは違う感覚というか、雰囲気を感じる。

 

 だけど、黙ったまま歩き進むのもなんなんで(エルフ同士であったなら、近くで並んで歩けば、口も開かずにお互いが話す様に意識のやり取りが行えるのだろうなぁ)、だけど人間スルガトキヒコ、出来ません。

 だから口を開きます。


 そう、エルフの里国へと移住を果たし、日々が過ぎた。エルフ達と接する機会は毎日だが、細かな疑問も溢れ出す。リーザを筆頭に、ザーララさん、ユーカナーサリーにも私が持った疑問や感覚は直ぐに聞いてしまう。何でも知りたがり坊主になってしまう。


「ユーカナーサリー、エルフは魔力を内に秘め、色々な場面でその力を発揮しているみたいなんですけど、」

 そう、実生活において、その補助的に。

「ですが、エルフ王家の方達が使われる魔力と根本的に違う。皆は外へと向う『魔力』を行使してないみたいです。それを行うのはエルフ王家の方達のみ」

 魔力の行使に呪文も無ければ、掛け声もポージングも無い。私が知らぬ間に魔力は行使されている。

 テレビやマンガやゲーム等で刷り込まれているモノとは違う。まあ、あれらは魔法だけど。

「この”魔力“の『違い』って何なのでしょう?」

 ザーララ、ロウ、ユーカナーサリー、それと母王ジールが現す魔力を行使する『術』は、他のエルフ達とは何か根本的に違うと思う。なにか別の次元の力だとさえ感じてしまう。

 『邪竜』の力がその起源と言ってしまえばそれまでだけど、そもそもその大きさだか容量だかが違っていても、魔力は魔力であり『術』じゃん。


「我らの魔力の行使はの、父王に教わった。」

 父王から、、、

「父王は母様を知り、その持つ魔力に驚かせられ、、、魅せられた。」

 魅せられた、、、私は魔力を持ちませんし、見えませんので分かりません。

「そして母様に並ぶには、自身も魔力を得ねば成らぬ、魔力を高みへと導かぬば成らぬ。」


「だが、叶わぬ事も或る。努力しようが届かぬ事は有る。それ故に、学んだ。」

 学んだ?

「そして父王は、我らの里を出、魔力を追求するべく行動を取った。」

 魔力の修行の旅?

「然らば或る地へと辿り着く。トキヒコ殿も知る地となろう。」

 オレの知るエルフの里国の外?えぇ〜っと、猫尾族達のオッゴン・コット・ヴィシチク?


「父王が行き着く地となったのは、ヘイイアンデユンズィギュオである。」

 ああ、違った!

 ヘイイアンデユンズィギュオ国、魔術者の国。国の者は魔術を高め、高き山へと向かうと聞く。

 その国の中で一番高き山にて暮らすトップは女性魔術士、イインジュ・ブュヤ・ギュオワンが治める国。

「故に我はあの淫乱女魔術者とも知る由と成る。それは何かの縁やも知れずだがな。」

 あー、旧知の仲でした?


「父王はヘイイアンデユンズィギュオへ向かったが、強き魔力を得るには至らなかった。しかし、知識として多くの魔力を身に付けた。」

 ヘイイアンデユンズィギュオ国、魔法使い達の国。

 あそこで魔力を高めたりするのは、100年だか200年掛かるってぇ。

 それで、魔力の知識って~?


「そして知識としての魔力を我らに授け申した。」

 エルフの親子間で行われる、魔力の伝承に加え、魔力の知識の伝承だったのだろうか。


「姉様は凄まじく、イエゼン(1)を知ればジェツシェチ(10)を得、ドゥバー(2)を知ればイエゼヅ(100)を得る、、、」

 はぁ?その例え、想像が追いつきません。

「誰も姉様には届かなんだ。ロウも我と変わらず。」


「母様と姉様は別次元、別成る次元を過ごそう者。」

 母王ジールとザーララさんは、ロウやユーカナーサリーとは生まれ持った魔力が違っていたのか?溢れる魔力は物理的にも、あの2エルフと対峙となった相手に影響を与えてしまう、、、ふっ飛ばされる!


 だけど、それを”さくら“が越しちゃうの?

「然様、さくらは全てを越える。この先何処まで行く、、、トキヒコ殿、さくらを留め様はトキヒコ殿のみぞ。」

 ええー!私はエルフでは無いし、魔力を内にも秘めません。ただの人間が手に負える事なのぉ?

 さくらに『魔力講座』を行った、ザーララさんの責任にして欲しいなぁ。


「さくらは不思議とトキヒコ殿には逆らえぬ。」

 反抗期とかは感じなかったけど、口答えはする様になったし、オレにケチ付けたりするんだよなぁ〜、でもまあ、親子ですから。

「私なんかより、さくらはリーザの言葉には絶対ですよ」

 私もリーザには、絶対服従的な、、、。


 私達は、他人が聞けば他愛もない会話を行いつつも、ザカザニー・ラスの奥へと続いた。

 父王の居場所を探して。だけどそこには当ても無く、父王が本当にこの場に居るのか居ないのか、確証も無いままに。



「ユーカナーサリー、しばらくここを拠点にして、周囲を別れて探しましょうか?」

 探すって言っても、森の中を見て回ってるぐらいなんだけど。

 でもユーカナーサリーには何かが伝わるのか?電波の様な結界を張りながら、父王の存在に近づいているのか?

 それよりも、私はオシッコがしたかったのだ。

「良かろう事。」

 ユーカナーサリーは察してくれたのであろう。


「しかし、父王は誰に、何を伝えたいのだろう。そしてその相手は、ユーカナーサリーなんだろうか?それよりも、何処に居る?自分が言い出しておいてなんだが、本当にココに居るのか?」

 夢の中で受けた感覚だったしなぁ。でも何故か『ザカザニー・ラス』との確証めいた感覚を得たのも確かだ。



「あ~ナステプニィ(前)王、どちらにいらっしゃるんです?」

 ザカザニー・ラスの番地は無いにしても、目印とかドコソコぐらいは伝えて欲しかったなぁ。このままじゃ、探す宛が無いよ。

 たぶんだけど、これって父王を見付けるまでは帰れそうにない。

 

 だけどどうして、父王ナステプニィの想いだか意識が(私の夢の中とはいえ)届いて来たのだろう。

 もしかして、あの部屋、ナステプニィの記憶の部屋へと入ったからなのか?

 タイミング的には有り得るかも。

 やはり、あの画像だかを私が記憶として持ち帰ったからだろうか、、、ひとり悲しむユーカナーサリー、、、。

 あれは、父王ナステプニィがユーカナーサリーを見た、最後の姿だったのだろうか。



「あっ」

 今、聞こえた。

(『、、、済まぬ、、、』)

 これは父王、デジエデジクヅィク・ナステプニィ前王だ。

 夢で見た感覚、聞こえた声と一緒だ!

 何処に居る、この近くにいるのか?!


(『ユーカナーサリーよ、、、済まぬ、、、』)

 まただ。

 でも確かにユーカナーサリーと?!


(『ユーカナーサリーよ、済まぬ、我を赦せ、、、』)

 父王何処だ!何処にいる?

「父王ナステプニィ!どちらにいらっしゃるんです!」

 トキヒコは足早に、森の中を駆け出していた。

 父王ナステプニィの声、彼の意識が伝わって来る方向を目指して。


「ナステプニィ!デジエデジクヅィク・ナステプニィ王よ!何処にいるんだっ!」

 トキヒコは駆けた!

 右へ左へ顔を振りながら、前王ナステプニィを探して駆けた!



(『父として、果たせぬ我を、、、我を、赦せ、、、』)

 聞こえる!伝わる!彼は近くに居る筈だ!

 父王の声とも呼べぬ思いは、続いていた。

「あー父王!何処にいる!」

 だけど姿を現さない!何処だ!

「あー、もう!声だけ聞いたって、帰れないじゃんか!」


 でも、私がこれだけの感覚を受けているのなら、ユーカナーサリーにも届いているのでは?!



「ありゃ?」

 ズルズルっと、私は落ちた!

 それは枯れ木、枯れ枝、枯れ葉が作り出した滑り台。

「ありゃー!」

 体に擦れる枯れ果てた草やツルや木の枝は、ガサガサ、バサバサと大きな音を立てながら私を滑らせて行く。

「アガガガガッ!」

 周囲を掴もうにも、掴んだと思ったら折れて、崩れる様な感覚ばかりだ。

 枯れた草木が作り出したドーム状の滑り台を滑り落ちて行く!

「オレってー!エルフの里国で落ちる事が多過ぎるー!」

 そんな自分を呪う間も無く、私はゴールに到着した。

 ドスーンと尻もちを着いて。

「尻がぁ、ケツがあー!」痛ってぇ〜!



 滑り落ちた底で私が見たのは、

「こ、これは、、、?!」

 それは、先代王ナステプニィの亡骸、、、だと、一目で分かった。だけどその姿は、、、


「か、、、」枯れている。

 エルフの死は『枯れる』事だと何度かは聞いた。

 でも、それは永きを生きるというエルフの死に対する何かの揶揄なのか、それとも『人間脳』である私の意識や知識との乖離が起こした表現方法の違いだと、、、


 枯れている、、、枯れたエルフが目の前に居る、、、。

 組まれた石には座っているが、その周囲には枯れた草や木に囲まれ覆われている。まるで亡骸を守るかの様に。

 そして草木の奥に座る、先代王の亡骸は、、、周囲の枯れてしまっている草や木、ツルや葉と同じく、枯れていた。

 乾燥したオレンジ色、薄い茶色、、、まるで色素を失ってしまったかの様な景色の奥に、大柄なエルフが座っている。

 枯れたエルフが座っている。


『エルフは枯れる』

 先代王の大柄な身体は、確かに枯れている。

 ミイラ等とは違う、枯れている。草や、木や、落ち葉の様に枯れている。触れればそのまま、崩れてしまうかの様に。

「父王が死して尚、伝えたかった事、、、」

 贖罪だったのか、、、ユーカナーサリーに対しての。


「エルフは枯れる、、、」

 これが死。これが死を迎えたエルフの姿なのか、、、言葉が出なかった。

 ショックを受けたのとはまた違う。

 それすら感じられない、、、適当な表現方法すら、見つからない。でも、


「まさか、亡くなっていたなんて、、、」

 あれだけ私に届いていた声、思い、、、死しても尚、伝えたかった事、、、。

『父として果たせぬ』、、、父親としての務め?何が足りなかった、何が至らなかった、、、父親は娘に対して見守る、何かあった時には出張でばる、、、だけではダメなのか。

 トキヒコは、自分と重ねた。


「父として果たす事、、、何なんだ?」

「オレは、、、オレはさくらに対して、何をしてやればいいのだろう、、、さくらはオレに対して、何を望んでいるのだろう、、、分からない。」




「トキヒコ殿、無事、」

「ユーカナーサリー、」

 私達は、枯れ果てている先代王の亡骸の前で佇んだ。

 私達の時間が止まってしまったかの様に、交わす言葉も無く、その場に立ちすくんだ。


『枯れる』

 それは、エルフが“死”を迎える事である。

 先代王は、死期を自覚したエルフだったのだろうか、生きる気力を失ったエルフだったのだろうか、、、


(『枯れる、枯れる、、、枯れて行く、、、そしてエルフも枯れて行く、、、』)

 何処かで聞いた、何時かの唄の記憶が蘇る。

 この地で持ち帰った、もうひとつの記憶。


 私は、私達はたたずんだ。

 この場に何をしに来た事すら、忘れてしまったかの様に。

 言葉や時間すら忘れてしまったかの様に。





「、、、トキヒコ殿、、、我らエルフは人間と比べ、永き刻を過ごそう。しかし、我らも生を持つ生き物に変わらず。死からは逃れられぬ。死は、、、訪れる。」か細く低いが、しっかりと耳に響く声であった。

 ユーカナーサリーは口を開いた。


「はい」


「トキヒコ殿は“死”をどう思おう。」


「はい。それは、、、」

 私は“死”を思う時、死を意識する時、必ず決まって自分の死を想う。


 私はリーザより先に死を迎える。

 それは、リーザと出会った時から、、、リーザが私と共に歩む事を決めてくれた日から、、、いや、私がリーザと出会う前から、それは決まっていた事だ。


 だが、今はそれが事実であり現実。自身が持つべき事として、漠然としてだが、トキヒコは意識として持っていた。


「ユーカナーサリー、“死”とは無となる事なのか、、、無に帰る事なんでしょうか」


「“死”とは、、、そうかも知れぬし、違うかも知れぬ、、、我も分からぬ。」

 死によって実体である肉体を構成する物質は四散し、人間は屍となる。

 その腐敗が進めば、文字通り通り人間は無となる。

 魂はなく、来世もなく、親兄弟もなく、善も悪もなく、業もなく因果もなく、、、無となるのであろうか。

 死後の世界が或るのか無いのか、人間では、知る由もない。


「ユーカナーサリー、、、死は悲しい。残された者は悲しい」

 私も友と死別した事があった。彼は若かった。


「そうだな、死は悲しい。残された者、、、それはエルフであれ、人間であれ、悲しい者じゃ。」


「ユーカナーサリー、何故私達生有る者は死を迎えるのでしょう」


「トキヒコ殿、、、何故、トキヒコ殿は生きる。」


「それは、、、」実際に答えは出せていない。私では出せない問いだと思う。


「我ら生有る者は他者の生を食らいその命を保つ。何者かの犠牲の上に生を持つ。トキヒコ殿の世界では、自らが犠牲となり、また他者の為に生きると申す者も居る。だが、他者の犠牲成りを受けた者はどうとする?」


「犠牲成りを受けた者は同様に別の誰かの犠牲と成るのか?」


「それぞれがそれぞれに生きる。別段の理由も使命も持たずにな。」

 特別な理由も持たず、、、


「何故死を迎える、何故生きる。明確な答えなど無い。それぞれがそれぞれに過ごし迎える刻。答えを探すべき事では無き。為らば留まってしまおうぞ、生を持つ者は歩を進める事のみ。」



「でもユーカナーサリー、残された者が悲しまぬ『死』を迎えることは可能なのでしょうか」


「誰とて悲しまぬ『死』か、、、トキヒコ殿、変わらず強欲よな。」



「命が永遠で無いからこそ、我らには生が有る。故に『死』は必然となる。」


「所詮、命持つ者は死へと向かって行く者。それは克服すべき事では無く、、、待つだけじゃ、、、それが摂理じゃ、、。」



「死を克服した者、、、居るならば、それはもはや生者とは呼べぬ。物体成るに等しいぞ。」


「だからの、死を迎える者を診る者、、、死に立ち合う者が、死に対して理解をする、、、ありのままを受け入れ、感ずれば、さすれば、少なからず立ち合う者の『悲しみ』を和らげる事と成るやも、知れぬな。」


 私も死を迎える。それはエルフ達よりも、早く、、、早く、、、。


 強い風が吹いた。別れの風が。

 先代王の亡骸は、砂山が崩れるように、強い風を受け、消えて行った。



「ユーカナーサリー、、、」私が彼女に掛ける言葉は続かなかった。




「あれ?ユーカナーサリー!どうされました?!」

 ユーカナーサリーは両腕で身体を抱え込む様に、その場でうずくまってしまった。

「か、身体が、痛む!」

「ええー!」どこが?

「痛む!」

 ユーカナーサリーの全身は震え出した。

「痛む、痛む、身体が痛い!」

 ユーカナーサリーは突如として、その全身に激痛が走った!


「熱っ!」

 私はその場に倒れ込む形となった、彼女の身体を抱えた。熱い!

 風邪などの病気が起こす体温では無い!その上エルフは病気知らずなはずなのに!一体、ユーカナーサリーの身体に何が起こった?!何が起こっているんだ?!

 『ザカザニー・ラス』の“力場“だか”磁場”でも働き出したのか?

 だから”魔力“が回せなくなって?魔癌?!

 でも何故、こんなにも体が熱いんだ?!


 ユーカナーサリーの身体が熱い!全身が内から燃えているかの様に?!何かの熱で包まれてでもいるかの様だ!

 このまま火が点き、燃え出してでもしまいそうだ!

 どうなってる?!どうなった?!

 このままではユーカナーサリーが燃えてしまうかの様だ!


 ユーカナーサリーの異常とも取れる突然の発熱。それは体温と表すには高温であり、トキヒコは為すすべが無い。オロオロとするも思い付く事も取るべき行為も何も無い。


「ユーカナーサリー!」

 全身の痛みを訴え、高温に包まれたユーカナーサリーを私は成す術が無かった。

 私は体内に魔力を持たず『術』も使えぬ、只の人間だ。だけど、何が出来る、今出来る事は何だ!歯痒い!


「ユーカナーサリー!」私は彼女の名を呼ぶ事しか出来ないのか?!

 あーちきしょう!何か出来る事は?どうすればいいんだ?考えろ!魔力を持たないなら考えろ!


「ユーカナーサリー!、、、?」身体が、背が伸びてる?

 身長だけでは無い、高温に包まれたままの彼女の手足も伸びた?!


 身体が、四肢が伸びてる?成長している?

 例え手足が伸びたとしても、それを目で追う事など出来なかったのに、、、気が付かなかった?

 だけど私の腕の中のユーカナーサリーは、確実に大きくなっている、、、手足は伸び、身長が、、、と表すより、体付が大きくなった?!

 それは支える腕に伝わる、重さからも感じる!


 だだ、落ち着いたのだろうか、驚く程の高温となった身体の熱は先程までの高温では無い。痛みにもがいていた体も、落ち着いたか。

 荒々しかった呼吸も治まったようだが、、、でも一体、彼女に何が起きたんだ?!

「こ、こんな事って有り得るのか?!」 

 背が、背が伸びたんだ、体が大きくなった、、、。




 全身の痛みを訴えつつ、荒々しかった呼吸は治まり、突然の高温に包まれた体は熱が引いて行く。落ち着きを取り戻したであろうその顔は安らかに、、、顔も変わった?!

 ユーカナーサリーは(私が大人エルフと呼ぶ)エルフとしては小柄(身長155cm強)で顔つきも幼さを感じる可愛らしさだ。

 それが、、、それがお姉さんエルフになっちゃった?!

 伸びた身長は、私よりも有る!姉のザーララさん(185cmぐらい)をも越えちゃったかも?

 えー!何でー!何でー!一瞬で大きくなった?!魔法少女(子供)が一瞬で大人に変身しちゃったぐらいに!なんでー?!


 ユーカナーサリーは、父親の死に直面した。

 そこには憐れみも哀しみも無く、ただ自然に死者を送り出す事に至った。ユーカナーサリーがエルフとして取った行為であり、感情が興した行動。


 父王の死、しかしそれは、ユーカナーサリー自身が突然に迎えるになった事は変わらなかった。

 突然の血族の死、、、その種の存続に関わる働きに身体が反応した。ただ、生を繋ぎ、その血を存続させるが為に。

 種族の存続、、、云わずもがな、性行為を行える身体へとの変化を興した。それは突然に、急激に。


 急激で無理矢理な変化は身体に対して大きな負担となり、激痛と発熱を発生させた。並のエルフでは耐えられない、大きな魔力を持つユーカナーサリーならば、抑え込み、その波を乗り越えよう。

 しかし、その状態の中、意識を保つ事は流石にユーカナーサリーでもってしても、耐え切れなかった。

 しかし、ユーカナーサリーは無事である、無事に波を乗り切り、今は暫しの休息を迎えている。

 だが同時に、エルフとしての『その時期』を迎える事にも繋がった。

 それは、エルフの”性“への目覚めを得たのであった。



「ん~~」

「あぁ、ユーカナーサリー、気が付きましたか?」

 何か、お姉さんエルフになっちゃったよ。その上、姉に劣らぬナイスバディにもなっちゃった。し、重い。

「トキヒコ、、、」

 ゆっくりと開かれたユーカナーサリーの薄目の奥にある、瞳を見て、少しギョっとした。

 オッドアイ、、、ユーカナーサリーの右の瞳が赤くなった。

 元々は、透き通る様なブラウンの美しく輝いている瞳が、、、姉であるザーララさんと反対のパターンに。エルフの王家の母王ジールと同じく、右目は真紅の赤、左目は漆黒のオッドアイに変わった、、、。


「トキヒコ、、、抱いてくれ、、、」

「えっ?はい、今こうして抱えています」

 身長が伸びましたので(体付きも大きくなりましたので)抱え上げるのは、ちょっと無理かも。

 重い。



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