トキヒコの見た夢 前王ナステプニィの申し入れ
夢を見た。
(『、、、済まぬ、、、よ、赦せ、、、』)
誰かの声が届いて来る、、、
「ん、誰?」
(『、、、赦せ、、、』)
私は夢の中で贖罪なのか、誰かの訴えを聞かされる。
(『、、、済まぬ、、、』)
(『、、、赦せ、、、我を、、、』)
「何だよ、なんなんだよ!」
(『お前は、何と申す者と成ろうか、、、』)
あっ、何か問われた?
「私は、」
(『届かぬ、、、届かぬのだ、、、』)
「何が届かないんですか?」オレの名前?
(『届かぬのだ、、、』)
(『、、、至らぬ、、、届かぬ、、、』)
「(だから)何がぁ?」
(『届かぬ、、、この地の理と成ろうのか、、、』)
「そこ、何処です?」
(『届かぬ、、、』)
「だからぁ」
(『、、、よ、、、済まぬ、、、』)
(『、、、我を、、、赦せ、、、』)
「謝ってる、、、詫びてるのか?」
(『我の届かぬ想い、、、お前が届けてはくれぬか、、、』)
夢はここまでだ。
自分が声を出せる夢、まるで白昼夢のようだった。
白昼夢は、目覚めていながら夢を見ているかのように感じる事。本当に寝ていたのか?と。現実から離れて何かを考えている状態だったりするが、私は寝ていた。
「ああリーザ、おはよう」
判る。
「リーザ、出掛けなくっちゃ」
顔や姿は見た事が無い。だけど、判る。
「トキヒコさん、どちらへ?」
「うん、エルフの王宮へ」
私の夢に現れたのは、エルフ王家の姉弟妹の父親、母王ジールの伴侶であり、エルフの里国の前王である”コンチヌォワック・デジエデジクヅィク・ナステプニィ“だ。でもこの名前、良く覚えたなぁ。
「私が届ける、彼の想いって、、、」
何だろう?
そして、どうして前王ナステプニィは、私の夢に現れたのだろう。
私はリーザを伴い(トキヒコハウスからエルフの王宮まで歩いて行くには遠すぎる)、エルフの王宮、女王ユーカナーサリーのおあす、玉座のある花の間の扉の前に立った。
「スルガトキヒコ、スルガ・リーザリー・エストラルク・ホーリョン・サー・フェアルン、我が王への謁見に参りました!」
リーザの透き通る声が響く。
リーザが右手を扉に向けると、花の間の扉は中から瑞々しい木々や花々の良い香りと共に、開かれる。
エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーは、その玉座に着き、何時もと変わらず私達を迎え入れて下さる。
「トキヒコ殿、『越える者』よくぞ参った。もっと頻繁成る来城でも良いぞ。」
カッカッカッっとエルフの里国で唯一と思われる、洒落とジョークの通じるお方。
だけど今日は単刀直入、細かな挨拶は端折らさせて頂いて。
「女王様、私は気になる夢を見まして、」
「トキヒコ殿の夢とな」
エルフは睡眠中に夢を(ほとんど)見ない。
その中で、エルフの王が夢を見たなら、それは現実に起こりうる、正夢か神託の様な性質を持つ。
「はい、少し奥でお話し出来ません?」
「トキヒコ殿の見た夢、興味深い。夢とは、その者の持つ意識の深層部での一部の顕れでもあろう。トキヒコ殿の奥底を覗き見ようか。」
うわぁ、オレの奥底が見られちゃったら、バレちゃう事が多過ぎる。
エルフは睡眠中の夢を(ほとんど)見ない。
だから夢に対して懐疑的であったり、珍重される場面も有る。だが、エルフの里国の王は、自身の経験からも、夢に対して理解は深い。
ユーカナーサリーがエルフの王として、夢に対する理解は、フロイトやユングが研究した深層心理学などとは少し違う。
それは、夢が無意識の働きを把握する為のモノだとか、抑圧されている意識が出す願望であったりとか、願望を表す為のひとつの方法などの考えとはイコールとならない。
かと言い、寝ながら見る夢は、その者の願望を表す部分に変わらず、とも。
だが、何かの影響が有れば、夢の中に現れる。それには外的な要因も含まれる。とエルフの里国の王、女王ユーカナーサリーはお考えだとの事(以前少し聞かされたが、イマイチ良く理解は出来てません)。
、、、今回私が見た夢は、その『外的な要因』だと思う。何が理由で、何がきっかけとなったのかは分からないけど、デジエデジクヅィク・ナステプニィの『想い』は、私の夢に影響を与えたのだろう。
私が見る、エッチな夢は願望以外の何ものでも無い、エヘン!
女王ユーカナーサリーは私の申し出に対して、その座から立つ。
「トキヒコ殿が人目を憚るなど珍しき。なに、我を手籠めとする気に成ったと申すか、我は拒まぬぞ。だがな、リーザの許可は得らねば成るまいな。」
カッカッカッ、っとお笑いになられますけど、冗談を自ら発信するエルフって、女王ユーカナーサリーぐらいしか居ません。あれ?オレの感覚が伝染っちゃたのかもな。
私と女王ユーカナーサリー、リーザを伴い玉座を回り込み、玉座の後手に位置する扉の先に向かった。
だが、そのまま王の部屋とは向かわず、私はユーカナーサリーの腕を取った。
「ユーカナーサリー、このままジール、母王ジールの元へ行きましょう」
「トキヒコ殿何を申す、母様の元へ伺おうなど畏れ多く。」
女王ユーカナーサリーでも、母王ジールの存在は特別だ。
だけど私は問題無い。人間であってエルフの里国の民でも無い。それよりも、昼メシ奢ったし、肉体的に迫られた事も有るし。
女王ユーカナーサリーは、母王ジールの居室の前で戸惑いを見せる。
「トキヒコ殿、母様の部屋へ、、、我も同席せねば成るまいのか?」
「あーユーカナーサリー、私から行きますので」
その扉をノックしようとしたら、扉が先に外へと向い開かれた。
母王ジールはその部屋の奥、王と王妃の並ぶ座の王側に着いていた。
「スルガトキヒコ、ようやく我を手籠めに参ったか。我の準備は整のおておろうぞ。」
何だよ、親子揃って。親子だからか?
リーザとユーカナーサリーは扉の前で片膝を付き、母王ジールから許可を得られなければ、自分からはこの部屋には入れないみたいだ。
まあ、私は気にせず入って行きますけど。だって扉を開けてくれたし。
「違ますよ。母王ジール、ご機嫌麗しゅう。突然の訪問と慣れない言葉遣いなのは、お許し下さい」
何も気にせずスタスタと、母王ジールの元へ。
振り返ったが、二人の姿勢はそのままだ。
「少し、お話しをするお時間を頂けませんか?」
「我は構わぬ。夜が更けようと、翌朝を迎えようと、お前と向き合おう。」
そんなに長くはなりませんよ。まあ、許可は頂いたな。
私はリーザとユーカナーサリーを手招きした。
「さて、スルガトキヒコよ、何であろう。」
まあ私の今持つ意識から、大体の事はお察し頂いているでしょうけど。
「話しと言うのは、私の見た夢の事です。ですがあれは夢では無い、前王からの申し入れです」エルフの里国の前王、デジエデジクヅィク・ナステプニィ。
私が切り出すと、女王ユーカナーサリーは少し驚きの色を出す。母王ジールは身動きすらしない。
「逃げ出した者に用事など無き。」
母王ジールの感覚だと、来る者拒んで、去る者追わずだなぁ。
「トキヒコ殿、父王が何を、」
ユーカナーサリーがたまらず口を開いたが、母王の前である事を咄嗟に気付き、口を閉ざした。
私はエルフ達の様に、相手の意識を読み取る事は出来ないので、私に対して言葉でもって先ず、対応して下さるのは女王ユーカナーサリーの自然な対応である。声を発してしまうのは、ある意味私に対する”癖“になったのかも。ありがたい事。
「ユーカナーサリーよ、許す。申せ。」
当然の事ながら、母王ジールも人間である私が、相手の意識を読み取れない事をお知りである。だけど、ユーカナーサリーの反応がちょっと見たことも無い感覚だった。何故だろう。
それと、母王ジールは女王ユーカナーサリーに対して何だか凄い威圧感だなぁ。
「スルガトキヒコ、我らは親児成る。児が親に対して畏怖の念に並び、敬意を持つのは至極当然。気にするな。」
あ〜、さくらにも聞かせたい。
「で、では改め申す。トキヒコ殿、父王はトキヒコ殿の夢の中にて、何と申された。」
ありゃ、何か口調が少し改まってる?
「ええ、実はそこなんですよ。前王は夢の中で私に『届かぬ想い』それを伝えろと。彼は誰に、何を伝えたいのでしょう」
『赦せ』とか『済まぬ』とか仰ってましたけど、伝えたい相手は母王ジールが一番手ではないかと思った。
「母王ジールであれば、その想いも、誰に対して届けるのかも、分かるのではないかと思いまして」
それか、自分の家族であるエルフ王家の皆かも知れない。
「スルガトキヒコ、我では無き。」
えっ、何で?
「我とアレは済んだ事。」
済んだ事ってぇ〜?
「スルガトキヒコ、我らエルフの持とう側面のひとつと思え。」
いや、良く分かりませんが。
「ではまぁそう言う事として。では、母王ジールでは無いのであれば、前王ナステプニィはいったい誰に伝えたいと?」
母王ジールでないとすると、誰に?
「ユーカナーサリーである。」
ユーカナーサリー!でも、そうなんだ。でも何で?
「スルガトキヒコ、ユーカナーサリーは玉座に就こう。」
「はい」
「どの者が決めた。」
えっ、知りません。確かに順番として考えたら、長兄となるロウが妥当なのかなぁ。
母王ジールがザーララさんを連れ、エルフの王宮を去った時、残されたのは前王、ロウそしてユーカナーサリー。
ただ、ユーカナーサリーが自身でその座に就く事をしなかったとしたら、、、決めたのは、前王ナステプニィ?
でもだとしたら、ロウではなくて、何でユーカナーサリー?
「然様、ロウは我らと共にした。この場に残されたるはユーカナーサリーのみ。」
えっ、知らなかった。ロウもてっきりエルフの王宮に残ったものだと。
すると、前王デジエデジクヅィク・ナステプニィとユーカナーサリーはここ、エルフの王宮に、、、どれぐらいの期間かは知らないかど、二人で過ごした。
そして、あの部屋で私のどこかに張り付いてしまったかの様に、最も残ったひとつの記憶、、、悲しむユーカナーサリー、、、あれは、前王ナステプニィが最後に見た、この場所に最後に残した記憶であったのであろうか。
「それで、場所は何処と成る?」
人間は、夢を見る。
人間が見る夢は、自分の意識を別の次元へと誘う。そして、外的な要因の影響を受ける。
だから前王の微弱な電波の様な念話の一部は、私の持った記憶に辿り着き、夢に対する外的要因となり届いたのだろうか。
「ええ、私が受けた感覚ですと『ザカザニー・ラス』。禁忌の場のひとつ、禁忌の森です」